【プロ講師解説】このページでは『硫黄の単体と化合物の性質・製法』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

硫黄の単体

斜方硫黄/単斜硫黄/ゴム状硫黄
Point!

硫黄の単体には斜方硫黄S8単斜硫黄S8ゴム状硫黄Sの3種類が存在する。
これら3つは、同じ硫黄元素からできているため同素体の関係にあるが、様々な点で違いがある。

斜方硫黄 単斜硫黄 ゴム状硫黄
化学式 S8 S8 S
構造

環状

環状

高分子

特徴
  • 黄色
  • 八面体状結晶
  • 安定
  • 黄色
  • 針状結晶
  • 不安定
  • 放置すると斜方硫黄になる
  • 弾性あり

硫黄の単体として一番基本的なのは斜方硫黄。黄色の八面体状結晶で非常に安定している。
単斜硫黄は黄色の針状結晶で不安定なため、常温で放置するとより安定な斜方硫黄に変化する。
ゴム状硫黄は名前の通りゴム状で弾性がある。

また、斜方硫黄と単斜硫黄は”分子”なので化学式S8で表され、ゴム状硫黄は”高分子(Sが無数に繋がったもの)”なので組成式Sで表される。

硫黄の水酸化物(硫化水素)

①無色/腐卵臭
②2価の弱酸
③還元剤
④製法:硫化鉄に塩酸を加える
Point!

硫黄の水素化物として有名なのは硫化水素H2Sである。硫化水素H2Sの重要ポイントは4つ。

①無色/腐卵臭

硫化水素H2Sは無色で刺激臭の一種である腐卵臭という臭いがする。

※気体の色・臭いについて詳しくは気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)を参照

②2価の弱酸

硫化水素は水に溶けて次のように電離し2価の弱酸として働く。

\[
H_{2}S → 2H^{+} + S^{2-}
\]

③還元剤

硫化水素H2Sは酸化還元反応において還元剤として働く。

\[
H_{2}S → S + 2H^{+} + 2e^{-}
\]

④製法:硫化鉄に塩酸を加える

硫化水素H2Sを作る際は硫化鉄FeSに塩酸HClを加える。

\[
FeS + 2HCl → FeCl_{2} + H_{2}S
\]

この反応は弱酸遊離反応の一種である。

※弱酸遊離反応について詳しくは【弱酸・弱塩基遊離反応】原理や公式、反応式の作り方などを参照

硫黄の酸化物(二酸化硫黄)

①無色/刺激臭
②2価の弱酸
③酸化剤にも還元剤にもなる
④製法1:銅に濃硫酸を加えて加熱する
⑤製法2:亜硫酸ナトリウムに希硫酸を加える
Point!

硫黄の酸化物として有名なのは二酸化硫黄SO2である。二酸化硫黄SO2に関する重要ポイントは5つ。

①無色/刺激臭

二酸化硫黄SO2は無色で刺激臭をもつ。

②2価の弱酸

二酸化硫黄SO2は水に溶けて亜硫酸となり電離して2価の弱酸として働く。

\[
SO_{2} + H_{2}O → H_{2}SO_{3}\\
H_{2}SO_{3} → SO_{3}^{2-} + 2H^{+}
\]

③酸化剤にも還元剤にもなる

二酸化硫黄SO2は酸化還元反応の中で酸化剤としても還元剤としても働く。

\[
【還元剤】SO_{2} + 2H_{2}O → SO_{4}^{2-} + 4H^{+} + 2e^{-}\\
【酸化剤】SO_{2} + 4H^{+} + 4e^{-} → S + 2H_{2}O
\]

④製法1:銅に濃硫酸を加えて加熱する

銅Cuに濃硫酸H2SO4を加えて加熱する。

⑤製法2:亜硫酸ナトリウムに希硫酸を加える

亜硫酸ナトリウムNa2SO3に希硫酸H2SO4を加える。

\[
Na_{2}SO_{3}+H_{2}SO_{4}→Na_{2}SO_{4}+\underbrace{ SO_{2}+H_{2}O }_{ H_{2}SO_{3} }
\]

硫黄のオキソ酸(硫酸)

①2価の強酸
②酸化剤として働く
③吸湿性がある
④不揮発性がある
⑤脱水作用がある
⑥工業的製法:接触法
Point!

硫黄を含むオキソ酸として有名なのは硫酸H2SO4である。硫酸H2SO4に関する重要ポイントは6つ。

①2価の強酸

硫酸H2SO42価の強酸として働く。

\[
H_{2}SO_{4} → 2H^{+} + SO_{4}^{2-}
\]

②酸化剤として働く

硫酸H2SO4酸化剤として働くこともある。

\[
H_{2}SO_{4} + 2H^{+} + 2e^{-} → SO_{2} + 2H_{2}O
\]

③吸湿性がある

硫酸H2SO4は吸湿性をもつため酸性の乾燥剤として用いられる。

※乾燥剤について詳しくは【乾燥剤】酸性・中性・塩基性の乾燥剤一覧や分類・仕組みなどを参照

④不揮発性がある

硫酸H2SO4不揮発性という性質をもつ。

この性質を生かして揮発酸の生成反応に用いられる。

※揮発性酸遊離反応について詳しくは揮発性酸遊離反応(原理・例・濃硫酸を使う理由など)を参照

⑤脱水作用がある

硫酸H2SO4脱水作用をもつ。
以下は、有名な「エタノールの脱水によるエチレンの生成反応」である。

\[
C_{2}H_{5}OH → C_{2}H_{4} + H_{2}O
\]

⑥工業的製法:接触法

硫酸H2SO4を工業的に作る際には接触法という方法を用いる。

※接触法について詳しくは接触法(濃硫酸の工業的製法・仕組み・反応式・触媒など)を参照

硫黄に関する演習問題

問1

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫黄の単体には3種類の同素体が存在する。それらの中で最も安定したものを【1】という。【1】を高温(約120℃)で熱し、それを冷やすと針状結晶の【2】が得られる。また、【1】を非常に高温(約250℃)で熱し、それを冷水の中に入れて急冷(急激に冷やすこと)すると【3】が得られる。ちなみに、【1】・【2】・【3】はいずれも【4】色である。

【問1】解答/解説:タップで表示
解答:【1】斜方硫黄【2】単斜硫黄【3】ゴム状硫黄【4】黄

硫黄には斜方硫黄、単斜硫黄、ゴム状硫黄の3種類の同素体が存在する。斜方硫黄が最も安定しているため、単斜硫黄やゴム状硫黄を常温で放置するといずれも斜方硫黄になる。また、単斜硫黄は斜方硫黄を120℃で加熱後冷却することで、ゴム状硫黄は斜方硫黄を250℃で加熱後冷水に注いで急冷することで得ることができる。色はいずれも黄色(ゴム状硫黄はテキストによって褐色との記載があるが近年純度を高めると黄色となることが発見された)である。

問2

【】に当てはまる用語を答えよ。

斜方硫黄と単斜硫黄は分子のため化学式【1】で表され、ゴム状硫黄は高分子(Sが無数に繋がったもの)であるため組成式【2】で表される。

【問2】解答/解説:タップで表示
解答:【1】S8【2】S
問3

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫化鉄FeSに塩酸HClを加えると【1】が生成する。

【問3】解答/解説:タップで表示
解答:【1】硫化水素H2S

硫化水素H2Sを作る際は硫化鉄FeSに塩酸HClを加える。

\[
FeS + 2HCl → FeCl_{2} + H_{2}S
\]

この反応は弱酸遊離反応の一種である。

※弱酸遊離反応について詳しくは【弱酸・弱塩基遊離反応】原理や公式、反応式の作り方などを参照

問4

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫化水素H2Sは【1】色で刺激臭の一種である【2】という臭いがする。

【問4】解答/解説:タップで表示
解答:【1】無【2】腐卵臭

硫化水素H2Sは無色で刺激臭の一種である腐卵臭という臭いがする。

※気体の色・臭いについて詳しくは気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)を参照

問5

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫化水素H2Sは水に溶けて電離し【1】価の【2(強or弱)】酸として働く。また、【3(酸化or還元)】剤として働くこともある。

【問5】解答/解説:タップで表示
解答:【1】2【2】弱【3】還元

硫化水素は水に溶けて次のように電離し2価の弱酸として働く。

\[
H_{2}S → 2H^{+} + S^{2-}
\]

硫化水素H2Sは酸化還元反応において還元剤として働く。

\[
H_{2}S → S + 2H^{+} + 2e^{-}
\]
問6

【】に当てはまる用語を答えよ。

【1】は銅Cuに濃硫酸H2SO4を加えて加熱する、又は亜硫酸ナトリウムNa2SO3に希硫酸H2SO4を加えることにより生成する。

【問6】解答/解説:タップで表示
解答:【1】二酸化硫黄SO2

二酸化硫黄を作る際は、銅Cuに濃硫酸H2SO4を加えて加熱する。

また、亜硫酸ナトリウムNa2SO3に希硫酸H2SO4を加えることでも得られる。

\[
Na_{2}SO_{3}+H_{2}SO_{4}→Na_{2}SO_{4}+\underbrace{ SO_{2}+H_{2}O }_{ H_{2}SO_{3} }
\]
問7

【】に当てはまる用語を答えよ。

二酸化硫黄SO2は【1】色で【2】臭をもつ。また、水に溶けて亜硫酸となり電離して【3】価の【4(強or弱)】酸として働く。

【問7】解答/解説:タップで表示
解答:【1】無【2】刺激【3】2【4】弱

二酸化硫黄SO2は無色で刺激臭をもつ。

また、二酸化硫黄SO2は水に溶けて亜硫酸となり電離して2価の弱酸として働く。

\[
SO_{2} + H_{2}O → H_{2}SO_{3}\\
H_{2}SO_{3} → SO_{3}^{2-} + 2H^{+}
\]
問8

【】に当てはまる用語を答えよ。

二酸化硫黄SO2が酸化剤、還元剤として働くときの半反応式をそれぞれ書け。

【問8】解答/解説:タップで表示
解答:以下参照

二酸化硫黄SO2は酸化還元反応の中で酸化剤としても還元剤としても働く。

\[
【還元剤】SO_{2} + 2H_{2}O → SO_{4}^{2-} + 4H^{+} + 2e^{-}\\
【酸化剤】SO_{2} + 4H^{+} + 4e^{-} → S + 2H_{2}O
\]

※半反応式の作り方について詳しくは半反応式・酸化還元反応式(作り方・覚え方・問題演習など)を参照

問9

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫黄を含むオキソ酸として有名な硫酸H2SO4は【1】により作られる。

【問9】解答/解説:タップで表示
解答:【1】接触法

硫酸H2SO4を工業的に作る際には接触法という方法を用いる。

※接触法について詳しくは接触法(濃硫酸の工業的製法・仕組み・反応式・触媒など)を参照
※オキソ酸について詳しくはオキソ酸(例・酸化力・一覧・強さ・構造・酸化数など)を参照

問10

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫酸H2SO4は【1】価の【2(強or弱)】酸として働く。また、【3(酸化or還元)】剤として働くこともある。

【問10】解答/解説:タップで表示
解答:【1】2【2】強【3】酸化

硫酸H2SO42価の強酸として働く。

\[
H_{2}SO_{4} → 2H^{+} + SO_{4}^{2-}
\]

また、硫酸H2SO4酸化剤として働くこともある。

\[
H_{2}SO_{4} + 2H^{+} + 2e^{-} → SO_{2} + 2H_{2}O
\]
問11

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫酸は吸湿性をもつため酸性の【1】として用いられる。

【問11】解答/解説:タップで表示
解答:【1】乾燥剤

硫酸H2SO4は吸湿性をもつため酸性の乾燥剤として用いられる。

※乾燥剤について詳しくは【乾燥剤】酸性・中性・塩基性の乾燥剤一覧や分類・仕組みなどを参照

問12

【】に当てはまる用語を答えよ。

硫酸は気体になりにくく(=【1】性)、【2】作用をもつ。

【問12】解答/解説:タップで表示
解答:【1】不揮発【2】脱水

硫酸H2SO4不揮発性という性質をもつ。
この性質を生かして揮発酸の生成反応に用いられる。

※揮発性酸遊離反応について詳しくは揮発性酸遊離反応(原理・例・濃硫酸を使う理由など)を参照

また、硫酸H2SO4脱水作用をもつ。
以下は、有名な「エタノールの脱水によるエチレンの生成反応」である。

\[
C_{2}H_{5}OH → C_{2}H_{4} + H_{2}O
\]

関連:無機のドリルが、できました。

無機化学の問題演習を行うための"ドリル"ができました。解答・解説編には大学入試頻出事項が網羅的にまとまっています。詳細は【公式】無機化学ドリルにて!


著者プロフィール

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター

数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

著者紹介詳細