【プロ講師解説】沈殿生成反応の仕組みと沈殿生成反応式の作り方にあるように、溶解度の小さいイオン結晶が作られたときに沈殿が生成する。このページでは『溶解度が小さく水に難溶なイオン結晶(水酸化物・硫化物・塩化物・硫酸・クロム酸・炭酸イオン)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
水酸化物イオンOH–との反応
水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水などの塩基を特定の陽イオンが入っている水溶液に加えると沈殿生成反応が起こる。
どの陽イオンが塩基(水酸化物イオンOH–)と沈殿生成反応を起こすかについてはイオン化列を利用するといい。
イオン | 沈殿生成反応 |
---|---|
Li+ , K+ , Ca2+ , Na+ | ほぼ沈殿しない |
Mg2+ , Al3+ , Zn2+ , Fe2+ , Fe3+ , Ni2+ , Sn2+ , Pb2+ , Cu2+ | 水酸化物の沈殿が生成 |
Hg2+ , Ag+ | 常温で水酸化物が分解 →酸化物の沈殿が生成 |
Ag+を含む水溶液を塩基性にすると水酸化銀(Ⅰ)AgOHではなく酸化銀Ag2Oが沈殿する。
これは、常温で水酸化物の分解反応が起こると考えればOK。
2AgOH\overset{常温}{→} \underbrace{ Ag_{2}O }_{ 褐色 }↓+H_{2}O
\]
硫化物イオンS2-との反応
硫化ナトリウム水溶液や硫化水素ガスを特定の陽イオンの入っている水溶液に加えると沈殿生成反応が起こる。
どの陽イオンが硫化物イオンS2-と沈殿生成反応を起こすかについては水酸化物イオンの場合と同様イオン化列を利用するといい。
イオン | 沈殿生成反応 |
---|---|
Li+ , K+ , Ca2+ , Na+ , Mg2+ , Al3+ | ほぼ沈殿しない |
Mn2+ , Zn2+ , Fe2+ , Co2+ , Ni2+ | 中・塩基性下で硫化物の沈殿が生成 |
Cd2+ , Sn2+ , Pb2+ , Cu2+ , Hg2+ , Ag+ | 液性に関わらず硫化物の沈殿が生成 |
アルカリ金属元素・アルカリ土類金属元素の水酸化物は全て沈殿しにくい。またイオン化傾向がZn以下のものは中性・塩基性下の条件で沈殿を形成し、Sn以下のもの+Cdは全液性下で沈殿を形成する。水溶液の液性によって沈殿生成のしやすさが異なるので注意しよう。
※水溶液の液性によって沈殿生成のしやすさが異なる理由
硫化物イオンは、水溶液中で以下のような平衡状態になっている。
H_{2}S⇄HS^{-}+H^{+}\\
HS^{-}⇄S^{2-}+H^{+}
\]
もし溶液が酸性だったとすると、周りにH+の量が非常に多くなってるためルシャトリエの原理によりH+の量が少なくなる方向、つまり左方向に平衡が移動することになる。
その結果、硫化物イオンS2-の量も同時に減るため、より沈殿ができにくい環境となり、イオン化傾向が高めで簡単には沈殿になりにくいZn2+,Fe2+,Ni2+などの金属イオンは沈殿にはならずそのまま溶液中にイオンの状態で存在することになる。
逆に、イオン化傾向が低く沈殿になりやすいPb2+,Cu2+,Ag+などの金属イオンはたとえS2-の量が少なくても積極的にこれとくっつくことになるため、沈殿を形成しやすい。
塩化物イオンCl–との反応
塩化物イオンはほとんど沈殿を生成しない。
水に難溶なイオン結晶(沈殿)としては以下の3コを覚えておけばOK。
イオン | イオン結晶(沈殿) |
---|---|
Ag+ | AgCl |
Pb2+ | PbCl2 |
Hg22+ | Hg2Cl2 |
ちなみにPbCl2は熱水には溶ける。(沈殿にならない)
硫酸イオンSO42-との反応
硫酸イオンも塩化物イオン同様ほとんど沈殿を作らない。水に難溶なイオン結晶として以下の4コを覚えておこう。
イオン | イオン結晶(沈殿) |
---|---|
Ca2+ | CaSO4 |
Sr2+ | SrSO4 |
Ba2+ | BaSO4 |
Pb2+ | PbSO4 |
Ca2+、Sr2+、Ba2+は全てアルカリ土類金属元素の陽イオンである。
クロム酸イオンCrO42-との反応
クロム酸イオンもほとんど沈殿を形成しない。水に難溶なイオン結晶として以下の3コを覚えておこう。
イオン | イオン結晶(沈殿) |
---|---|
Pb2+ | PbCrO4 |
Ba2+ | BaCrO4 |
Ag+ | Ag2CrO4 |
炭酸イオンCO32-の沈殿
炭酸イオンは様々なイオンと沈殿を形成するが、中でも「陽イオンの定性分析」で頻出のアルカリ土類金属元素との沈殿を覚えておこう。(陽イオンの定性分析について詳しくは陽イオンの定性分析〜原理・目的・反応式まとめ〜を参照)
イオン | イオン結晶(沈殿) |
---|---|
Ca2+ | CaCO3 |
Sr2+ | SrCO3 |
Ba2+ | BaCO3 |
水に難溶なイオン結晶に関する演習問題
水酸化物の沈殿のうち、Fe(OH)2とMg(OH)2については【1】が大きいため温度などによりすぐに溶けることが多い。
Hg2+とAg+は水酸化物イオンOH–と沈殿(水酸化物)を形成するが、すぐに分解し、結果的に【1】の沈殿になる。
硫化物イオンの沈殿ができる条件はイオン化傾向によって異なる。イオン化傾向が【1】以下のものとCdは全液性下で沈殿を形成し、イオン化傾向が【2】以下のものは中性・塩基性下の条件で沈殿を形成する。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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