【プロ講師解説】このページでは『イオン化傾向(定義や金属板の反応のしやすさとの関係など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

イオン化列とイオン化傾向

単体の反応(酸化還元反応)でやったように金属の単体は電子を放出する還元剤として働く。

このとき、還元力の強さは金属ごとに異なっており、簡単に電子を放出する強い還元剤として働くものもあれば、なかなか電子を放出しない弱い還元剤として働くものもある。

ここで金属単体を還元力の強さの順番に並べるためにとある実験を行う。

ある金属Mの陽イオンM+が存在している水溶液に、別の金属Nの単体を加えるとする。
このとき、NがMよりも陽イオンになりやすければ、つまりNがMよりも還元力が強ければ、NがN+となって溶けていき、M+が電子を受け取ってMとなり、金属Mが析出する。

この実験を利用して様々な金属単体の還元力の強さを調べると次のような順になった。


ここで、金属単体が水溶液中で陽イオンになる性質をイオン化傾向といい、金属をイオン化傾向の順に並べたものをイオン化列という。
上で説明した内容を考慮すると、イオン化列は金属単体の還元力の強さの順番を表していると考えることができる。

※酸化・還元/酸化剤・還元剤などについて詳しくは以下のページを参照

イオン化傾向と金属単体の反応性

ここまで説明したようにイオン化傾向は金属単体の還元力の強さを表したものである。
したがって、イオン化傾向は酸化還元反応の起こりやすさに密接に関連していると想像できる。
なぜなら、還元剤としての力が強いほど酸化還元反応を起こしやすいからである。

金軸単体の反応性を表した以下の図を見てみよう。

イオン化傾向の大きな(=還元力の強い)金属単体ほど反応性が大きいことがわかる。

① 水と反応

Naよりイオン化傾向が大きい金属は常温の水と反応して水酸化物(今回はNaOH)と水素H2を生成する。

\[
\mathrm{ 2Na + 2H_{2}O → 2NaOH + H_{2}}
\]

PLUS+

水は電離度が非常に小さいため、ほとんど電離していない。
したがって、水中に存在する陽イオン(水素イオンH+:電子eを受け取る酸化剤)は少ないため、電子をより離しやすい、つまりイオン化傾向の大きい金属(還元剤)でなければ水と反応することはできない。

② 熱水と反応

Mgよりイオン化傾向が大きい金属は、熱水と反応して水酸化物(今回はMg(OH)2)と水素H2を生成する。

\[
\mathrm{ Mg + 2H_{2}O → Mg(OH)_{2} + H_{2} }
\]

③ 水蒸気と反応

Feよりイオン化傾向が大きい金属は水蒸気と反応して酸化物(今回はZnO)と水素H2を生成する。

\[
\mathrm{ Zn + H_{2}O → ZnO + H_{2} }
\]

④ 希酸と反応

Pbよりイオン化傾向が大きい金属は希酸(薄い酸)と反応して水素H2を生成する。

\[
\mathrm{ Zn + H_{2}SO_{4} → ZnSO_{4} + H_{2} }
\]

PLUS+

鉛Pbと希酸を反応させると、生成物であるPbSO4などがPbの表面を覆ってしまい、それ以上溶けなくなる。

Pb + H2SO4 → PbSO4 + H2

したがって、他の金属と比べてPbの希酸との反応性は極端に低くなっている。

PLUS+

酸の溶液中には陽イオン(水素イオンH+:電子eを受け取る酸化剤)が大量に存在するため、水の場合と異なり、イオン化傾向のあまり大きくない金属(還元剤)でも反応することができる。

⑤ 酸化力のある酸と反応

Agよりイオン化傾向の大きい金属は酸化力のある酸(希硝酸・濃硝酸・熱濃硫酸)と反応する。

\[
\mathrm{ Cu + 4HNO_{3} → Cu(NO_{3})_{2} + 2NO_{2} + 2H_{2}O }
\]

PLUS+

Fe・Ni・Alは濃硝酸に溶けない。

これは、反応によって生じた酸化物の膜がすぐに金属全体を覆うためである。
ちなみに、酸化物の膜によって覆われた金属は不動態と呼ばれる。

※不動態について詳しくは以下のページを参照
不動態(覚え方・ゴロ・原理など)

⑥ 王水と反応

PtとAuを含めた全ての金属は王水に溶ける。
ちなみに、王水とは「濃硝酸と塩酸を1:3の割合で混合したもの」である。組成比まで正確に覚えておこう。

イオン化傾向に関する演習問題

問1

【】に当てはまる用語を答えよ。

金属元素は周期表上で左側に位置しているため、第一イオン化エネルギーが【1(大きor小さ)】く、【2(陽or陰)】イオンになりやすい。この、金属元素の「陽イオンへのなりやすさ」を【3】という。

【問1】解答/解説:タップで表示
解答:【1】小さ【2】陽【3】イオン化傾向

単体の反応(酸化還元反応)でやったように金属の単体は電子を放出する還元剤として働く。

このとき、還元力の強さは金属ごとに異なっており、簡単に電子を放出する強い還元剤として働くものもあれば、なかなか電子を放出しない弱い還元剤として働くものもある。

ここで金属単体を還元力の強さの順番に並べるためにとある実験を行う。

ある金属Mの陽イオンM+が存在している水溶液に、別の金属Nの単体を加えるとする。
このとき、NがMよりも陽イオンになりやすければ、つまりNがMよりも還元力が強ければ、NがN+となって溶けていき、M+が電子を受け取ってMとなり、金属Mが析出する。

この実験を利用して様々な金属単体の還元力の強さを調べると次のような順になった。

Point!

ここで、金属単体が水溶液中で陽イオンになる性質をイオン化傾向といい、金属をイオン化傾向の順に並べたものをイオン化列という。
上で説明した内容を考慮すると、イオン化列は金属単体の還元力の強さの順番を表していると考えることができる。

※酸化・還元/酸化剤・還元剤などについて詳しくは以下のページを参照

問2

【】に当てはまる用語を答えよ。

イオン化傾向は各金属元素によって異なり、金属元素をイオン化傾向の順に並べたものを【1】という。イオン化傾向は金属の【2(陽or陰)】イオンへのなりやすさを表すものなので、当然イオン化傾向が大きいほど、つまり【1】で左側にいくほどその金属は【2(陽or陰)】イオンになりやすいということになる。

【問2】解答/解説:タップで表示
解答:【1】イオン化列【2】陽
Point!

問3

【】に当てはまる用語を答えよ。

常温の水と反応する金属は【1】・【2】・【3】である。

【問3】解答/解説:タップで表示
解答:【1】K【2】Ca【3】Na(順不同)

Naよりイオン化傾向が大きい金属は常温の水と反応して水酸化物(今回はNaOH)と水素H2を生成する。

\[
\mathrm{ 2Na + 2H_{2}O → 2NaOH + H_{2}}
\]

問4

【】に当てはまる用語を答えよ。

王水(【1】:【2】=1:3)としか反応しない金属は【3】・【4】である。

【問4】解答/解説:タップで表示
解答:【1】濃硝酸【2】塩酸【3】Pt【4】Au(【3】・【4】は順不同)

PtとAuを含めた全ての金属は王水に溶ける。
ちなみに、王水とは「濃硝酸と塩酸を1:3の割合で混合したもの」である。組成比まで正確に覚えておこう。

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著者プロフィール

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター

数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

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