【プロ講師解説】このページでは『ルシャトリエの原理(温度・圧力変化・希ガスを加えた場合など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
ルシャトリエの原理とは
平衡状態にある可逆反応の条件を変化させると、その変化を和らげる方向に平衡が移動する。
これをルシャトリエの原理という。
ルシャトリエの原理について、次の反応を例に説明していこう。
N_{2}+3H_{2}⇄2NH_{3}+92kJ
\]
この反応が平衡状態に達しているとき、次の操作を行うとどのような変化が起こるだろうか。
操作1「窒素(N2)を加える」
繰り返すが、ルシャトリエの原理によると「条件を変化させるとその変化を和らげる方向に平衡が移動」する。したがって、N2を加えるという操作を行うと、「N2を減らす方向」に平衡が移動する。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ → }2NH_{3}+92kJ
\]
この反応だと式の左側にN2があるので、N2を減らす方向、つまり「右向き」に平衡が移動する。
操作2「水素(H2)を除去する」
H2を除去すると、「H2を増やす方向」に平衡が移動する。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ ← }2NH_{3}+92kJ
\]
この反応だと、左向きに移動する。
条件による平衡の移動
上で紹介した2つ以外にも、いろいろなパターンを考えてみよう。
ここからも引き続きこの反応を例に説明していく。
N_{2}+3H_{2}⇄2NH_{3}+92kJ
\]
温度変化
温度が変化すると、平衡が移動する。
温度を上げる
温度を上げると、ルシャトリエの原理に従い「温度を下げる方向」に平衡が移動する。
N_{2}+3H_{2}⇄2NH_{3}\color{#dc143c}{ +92kJ }
\]
この反応は、反応式の後ろに「+92kJ」が付いている。「+」ということは「発熱反応」なので、「右側に行く反応(→)=温度を上げる反応」ということになる。
したがって、温度を下げる反応は、逆の左側に行く反応(←)なので、温度を上げると平衡は左側に移動する。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ ← }2NH_{3}+92kJ
\]
温度を下げる
温度を下げると、ルシャトリエの原理に従い「温度を上げる方向」に平衡が移動する。
上で説明したように、この反応は右側に行く反応(→)が発熱反応(温度を上げる反応)なので、平衡は右方向に移動する。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ → }2NH_{3}+92kJ
\]
圧力変化
圧力が変化すると、平衡が移動する。
圧力を上げる
圧力を上げると、ルシャトリエの原理に従い「圧力を下げる方向」に平衡が移動する。
圧力は気体分子数が多いほど高くなる。
今回の反応では、左側の方が気体分子数が多く圧力が高い。
したがって、圧力を上げた場合、圧力の低い右側の方に平衡が移動する。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ → }2NH_{3}+92kJ
\]
圧力を下げる
圧力を下げると、ルシャトリエの原理に従い「圧力を上げる方向」に反応が進行する。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ ← }2NH_{3}+92kJ
\]
先ほど説明したように、左側の方が気体分子数が多く圧力が高いので、圧力を下げた場合、左方向へ平衡が移動する。
触媒を加える
触媒を加えると、「正反応と逆反応のスピードがともにUP」する。
しかし、スピードが上がるだけでどちらかに平衡が移動することはない。
反応に関与しない物質を加えた場合
希ガスなどの「反応に直接関与しない物質」を加えた場合、少し注意が必要。
「反応に直接関与しない物質は基本ムシ」という視点で考えていこう。
圧力一定で希ガスを加える
圧力一定で希ガスを入れたとき、希ガスの分だけ体積が増加する。
容器内にある希ガスArはムシするが、希ガスによって大きくなった体積はムシすることができない。
体積が増加したということは、「体積に対する気体の量が少なくなった」と考えることができるので、この反応は、気体分子を増やす方向、つまり左方向に反応が進む。
N_{2}+3H_{2}\color{#dc143c}{ ← }2NH_{3}+92kJ
\]
体積一定で希ガスを加える
体積一定で希ガスを加えると、当然体積変化は起こらない。
体積になんの変化もなく、(最初に述べたように)希ガスは”ムシ”できるので、この場合は「なにも起きていないのと同じ」ということになる。
”何も起きていない”ので、当然平衡の移動も起こらない。
演習問題
問題
(1)H2+I2=2HI+92kJ(I2を加える)
(2)N2+3H2=2NH3+92kJ(温度を下げる)
(3)4NH3+5O2=4NO+6H2O+906kJ(加圧する)
(4)N2+O2=2NO+181kJ(NOを加える)
(5)2SO2+O2=2SO3+197kJ(体積一定でArを加える)
(1)
H_{2}+I_{2}=2HI+92kJ
\]
I2を加えると、ルシャトリエの原理により「I2を減らす方向」に平衡が移動する。したがって、右(→)。
(2)
N_{2}+3H_{2}=2NH_{3}+92kJ
\]
温度を下げると、ルシャトリエの原理により「温度を上げる方向」に平衡が移動する。この反応は発熱反応なので、右に行くほど熱が出る(=温度が上がる)。したがって、右(→)。
(3)
4NH_{3}+5O_{2}=4NO+6H_{2}O+906kJ
\]
加圧する(圧力を加える)と、ルシャトリエの原理により「圧力を減らす方向」に平衡が移動する。この反応の左側は気体分子が9コ、右側は10コなので、左側の方が圧力が低い。したがって、左(←)
(4)
N_{2}+O_{2}=2NO+181kJ
\]
NOを加えると、ルシャトリエの原理により「NOを減らす方向」に平衡が移動する。したがって、左(←)。
(5)
2SO_{2}+O_{2}=2SO_{3}+197kJ
\]
体積一定でAr(アルゴン/希ガスの1つ)を加えても、(希ガスは基本的にムシするので)平衡は移動しない。
ルシャトリエの原理に関する演習問題
平衡状態にある可逆反応の条件を変化させるとその変化を和らげる方向に平衡が移動する。これを【1】という。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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