セッケンと合成洗剤(違い・構造・製法・性質・欠点など)

目次

はじめに

【プロ講師解説】このページでは『セッケンと合成洗剤(違い・構造・製法・性質・欠点など)』について解説しています。


セッケンとは

  • 高級脂肪酸のナトリウム塩をセッケンという。
  • セッケンは親油性(疎水性)の長い鎖状の炭化水素基の部分と、親水性のカルボキシ基のNa塩の部分からできている。
  • セッケンのように親油性の部分と親水性の部分を併せもつものを両親媒性の物質という。

セッケンの製法

  • 代表的なセッケンの製法は次の通りである。

●セッケンの製法

  • けん化法
  • 中和法

❶ けん化法

  • 原料油脂を計算量の水酸化ナトリウムにより直接けん化し、塩析によってグリセリンとセッケンを分離する(セッケンを得る)。
  • けん化について詳しくは次のページを参照のこと。

参考:けん化価とは(計算問題・ヨウ素価との違いなど)

❷ 中和法

  • 原料油脂をあらかじめ加水分解して脂肪酸をつくり、グリセリンを回収した後、脂肪酸を中和する。
  • 油脂/脂肪酸/グリセリン等の用語について詳しくは次のページを参照のこと。

参考:油脂(構造・酸化・加水分解・グリセリンや脂肪酸との関係など)
参考:高級脂肪酸(炭素数・覚え方・種類・一覧・構造式・分子量など)
参考:グリセリン(構造式・化学式・油脂との関係など)


セッケンの性質

  • 代表的なセッケンの性質は次の通りである。

●セッケンの性質

  • ミセルコロイド
  • 界面活性作用
  • 乳化作用

❶ ミセルコロイド

  • セッケン水中では、セッケン粒子が多数会合してミセルとよばれる集合体をつくり、水中に分散する。
  • ミセルはコロイド粒子の大きさをもつためミセルコロイドともよばれ、光を散乱して水溶液はやや白く濁っている。
  • このとき、セッケン粒子は親水性の部分を外側(水中)に向けて会合している。

❷ 界面活性作用

  • 親水基と疎水基の両方をもつ物質は水分子同士の水素結合を切断し、水の表面張力を低下させる。
  • この作用を界面活性作用といい、界面活性作用を示す物質を界面活性剤という。
  • 界面活性作用により泡立ちが良くなり、繊維に対する浸透性が向上する。
  • また、セッケン水の表面で、セッケン粒子は親水基を水側に、疎水基を空気側に向けている。

❸ 乳化作用

  • セッケンは水に溶けにくい油などの汚れを疎水基の集中したミセルの内側に取り込んで、水中に分散させる。これを乳化作用という。
  • このようにしてできたコロイド粒子は、当然セッケンだけの状態よりも大きいため、光をより多く散乱して溶液全体が白く濁ったようになる。この溶液を乳濁液という。

セッケンの欠点

  • 代表的なセッケンの欠点は次の通りである。

●セッケンの欠点

  • タンパク質からなる繊維には使えない
  • 硬水中では使えない

❶ タンパク質からなる繊維には使えない

  • セッケンは弱酸と強塩基からなる塩なので、水中で加水分解して弱塩基性を示す。
  • 絹や羊毛などのタンパク質からなる繊維などには(加水分解して痛めてしまうため)使うことができない。

\[ \mathrm{R-COO^{-} + H_{2}O ⇄ R-COOH + OH^{-} }\]

❷ 硬水中では使えない

  • 硬水(Ca2+やMg2+などを多く含む水)中では、次の反応が起こって沈殿が生成し、洗浄作用が低下する。

\[ \mathrm{2R-COO^{-} + Ca^{2+} ⇄ (R-COO)_{2}Ca} \]


合成洗剤とは

  • 強酸であるスルホン酸R-SO3Hのナトリウム塩を合成洗剤という。
  • 強酸と強塩基からなる塩なので、その水溶液は中性を示す。

硫酸アルキルナトリウム(高級アルコール系)

アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS)


セッケン/合成洗剤の違い

  • セッケンと合成洗剤の違いをまとめる。
水溶液の液性硬水との反応生分解性タンパク質変性作用
セッケン (R-COONa)弱塩基性沈殿する高い小さい
合成洗剤 (R-SO3Na)中性沈殿しない低い大きい
  • セッケンは高級脂肪酸のナトリウム塩(R-COONa)であり、水溶液の液性は弱塩基性、硬水と反応して沈殿をつくる。合成洗剤はスルホン酸のナトリウム塩(R-SO3Na)であり、水溶液の液性は中性、硬水と反応しない。
  • 天然に存在する脂肪酸のナトリウム塩であるセッケンは、海や川などの自然環境に戻しても微生物がもつ酵素により分解されやすい。これを生分解性が高いという。生分解性が高いということはつまり、自然環境に対する影響が小さい。一方、人工的につくった合成洗剤は、生分解性が低いため水質汚染の原因になりやすい。
  • セッケンはタンパク質変性作用が小さいため、手荒れなどが起こりにくい。一方、合成洗剤はタンパク質変性作用が大きいため、手荒れが起こりやすい。

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著者情報

元講師、薬剤師、イラストレーター
数百名の中高生向け指導経験あり(過去生徒合格実績:東工大・東北大・筑波大・千葉大・岡山大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)。
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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