【プロ講師解説】このページでは『カルボン酸・エステル(一覧・構造・命名法・製法・反応・性質など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
カルボン酸とは
カルボン酸とはカルボキシ基(-COOH)をもつ化合物である。
カルボン酸一覧
分類 | 名称 | 構造式 |
---|---|---|
飽和脂肪酸 | ギ酸 | ![]() ![]() |
酢酸 | ![]() ![]() |
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プロピオン酸 | ![]() ![]() |
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不飽和脂肪酸 | アクリル酸 | ![]() ![]() |
ジカルボン酸 | シュウ酸 | ![]() ![]() |
マレイン酸 | ![]() ![]() |
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フマル酸 | ![]() ![]() |
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アジピン酸 | ![]() ![]() |
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芳香族カルボン酸 | 安息香酸 | ![]() ![]() |
フタル酸 | ![]() ![]() |
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テレフタル酸 | ![]() ![]() |
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ヒドロキシ酸 | 乳酸 | ![]() ![]() |
リンゴ酸 | ![]() ![]() |
カルボン酸は古来より知られていたものが多く、慣用名で呼ばれることが多い。
上記のものはいずれも重要なカルボン酸なので名前と構造式を対応させて必ず覚えておこう。
鎖式炭化水素のH1つをカルボキシ基で置換したカルボン酸を脂肪酸という。
脂肪酸のうち、炭化水素基が単結合のみのものを飽和脂肪酸、二重結合などを含むものを不飽和脂肪酸という。
また、カルボキシ基を2つもつものをジカルボン酸、ベンゼンのH原子をカルボキシ基で置換したものを芳香族カルボン酸、ヒドロキシ基をもつカルボン酸をヒドロキシ酸という。
カルボン酸についたカルボキシ基の数をそのカルボン酸の価数という。
カルボン酸の製法
カルボン酸の製法はそれぞれによって異なる。(1価のカルボン酸は以下の様に第1級アルコールの酸化によって得られる)



第1級アルコールを酸化すると、一段階目でアルデヒドが、二段階目でカルボン酸が生成する。
カルボン酸の性質
・分子間で水素結合を形成する(異性体であるエステルに比べて沸点が高い)
・ギ酸は還元性がある
カルボン酸は、炭化水素部分が小さければ水に溶けて酸性を示す。
また、分子間で水素結合を形成するので結合が切れにくく、異性体であるエステルに比べて沸点が高い。
カルボン酸の中で「ギ酸HCOOH」だけは(アルデヒド基があるため)還元性をもつ。
※アルデヒドの還元性についてはアルデヒド・ケトン(一覧・違い・命名法・製法・反応・性質など)を参照
カルボン酸の反応①(中和反応)
上で説明したように、カルボン酸は酸性なので塩基と中和反応を起こす。
R-COOH+NaHCO_{3}→R-COONa+\underbrace{ CO_{2}+H_{2}O }_{ H_{2}CO_{3} }
\]
ちなみに、カルボン酸の酸としての強さは以下の通りである。
HCl>\underbrace{ R-SO_{3}H }_{ スルホン酸 }>\underbrace{ R-COOH }_{ カルボン酸 }>H_{2}CO_{3}>フェノール
\]
※中和反応について詳しくは中和(定義・塩・中和反応式の作り方など)を参照
カルボン酸の反応②(エステル化)



カルボン酸は、アルコールと反応しエステル結合を形成する。
例として「酢酸とエタノールによるエステル形成反応」を確認しよう。
カルボン酸の反応③(脱水反応)


カルボン酸2分子間で脱水が起こると「酸無水物」が形成される。(カルボン酸は比較的安定した物質なので一般的な硫酸による脱水は不可。十酸化四リンP4O10+加熱などの特別な処理が必要になる)
例として酢酸の脱水、マレイン酸の脱水を確認しよう。
PLUS+
カルボン酸の反応④(脱炭酸反応)
カルボン酸の脱炭酸反応(炭酸イオンCO32-が抜けるような反応)によって、アルカンやケトンが生成する。
メタンやアセトンを実験室で生成する次の反応はこのカルボン酸の脱炭酸反応である。
メタンの製法
酢酸ナトリウムCH3COONaに水酸化ナトリウムNaOHを加えて加熱する。
CH_{3}COONa+NaOH→\underbrace{ CH_{4} }_{ メタン }+Na_{2}CO_{3}
\]
※メタンの製法について詳しくはアルカン(一般式の作り方・一覧・命名法・製法・性質・置換反応など)を参照
アセトンの製法
酢酸カルシウムを乾留する。


※乾留とは空気を遮断して加熱すること。生成物のアセトンの蒸気が引火しやすいので空気(酸素)を遮断した状態で加熱する必要がある。
※アセトンの製法について詳しくはアルデヒド・ケトン(一覧・違い・命名法・製法・反応・性質など)を参照
エステルとは
エステルとは分子内にエステル結合(-COO-)をもつ化合物である。
エステルの命名法
エステルの命名法は至って簡単。
上図R´をHで置き換えた「カルボン酸」の名前の後にR´(炭化水素基)の名称をつけるだけ。
例えば、上でエステルの例として挙げたこちらは…
COOに続いているメチル基CH3をHに変えてできるカルボン酸が”酢酸”なので「酢酸メチル」となる。
エステルの製法
高校化学で覚えておきたいエステルの製法には、酸触媒を使った合成法、カルボン酸無水物を使った合成法、アルケンやアルキンにカルボン酸を付加する方法の3種類存在する。
酸触媒を使った合成法



カルボン酸をアルコールと共に濃硫酸を触媒として加熱するとエステルが生じる。
例として「酢酸とエタノールによるエステル形成反応」を確認しよう。
PLUS+
この合成法の反応機構をざっくりと紹介しておく。(覚える必要はなし)
この反応は可逆的であり、したがって、出来るだけ平衡を右に移動させる(多くのエステルを得る)ためにはH2Oを少なくする必要がある。(ルシャトリエの原理)
そこで触媒として濃硫酸が用いられている。
カルボン酸無水物を使った合成法
無水酢酸をアルコールと反応させるとエステルが生じる。
この反応は、エステル結合とともにアセチル基(COCH3)も生成しているので「アセチル化」と捉えることもできる。
(エステルの製法というより)「ヒドロキシ基-OHの検出反応」として知られているが、一応頭に入れておくようにしよう。
PLUS+
この合成法の反応機構も紹介。(覚える必要はなし)
この反応は不可逆的であり、H2Oは生じない。
アルケンやアルキンにカルボン酸を付加する方法
アルケンやアルキンにカルボン酸を付加するとエステルが生じる。
例としてエチレンと酢酸から酢酸エチルができる反応を確認しよう。
PLUS+
次のように考えるとエステルができるのに納得できるはず。
また、この考え方は「カルボン酸無水物を使った合成法」でも適応できる。
カルボン酸から先にH2Oを抜くか、あとで抜くかの違いということ。
エステルの性質
・水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい
・芳香性をもつ
・ギ酸エステルは還元性をもつ
エステルは(異性体であるカルボン酸と異なり)中性である。
また、ギ酸エステルはカルボン酸のところで紹介したギ酸と同様、アルデヒド基があるので還元性を示す。
※アルデヒドの還元性についてはアルデヒド・ケトン(一覧・違い・命名法・製法・反応・性質など)を参照
エステルの反応
酸触媒を使った加水分解



エステルを加水分解するとカルボン酸とアルコールが生じる。
例として酢酸エチルの加水分解を確認しよう。
製法のときと逆で、希硫酸のように水を多く含む酸触媒を用いることで平衡を左に傾かせると多くのエステルを加水分解することができる。
塩基を使った加水分解(けん化)



エステルを強塩基(NaOH・KOH)により加水分解することをけん化という。
ここでは「酢酸エチルの水酸化ナトリウムNaOHによるけん化」を例に確認しよう。
PLUS+
けん化の反応機構は次のようになる。
カルボン酸とアルコキシドイオンからカルボン酸とアルコールが生成したあと、カルボン酸はアルコールと比べてH+を出しやすいので逆変化は起こらず、けん化が成立する。
カルボン酸・エステルに関する演習問題
カルボキシ基(-COOH)をもつ化合物を【1】という。
第1級アルコールを酸化すると、一段階目で【1】が、二段階目で【3】が生成する。
カルボン酸は、炭化水素部分が小さければ水に溶けて【1】性を示す。また、分子間で【2】結合を形成するので結合が切れにくく、異性体であるエステルに比べて沸点が【3(高or低)】い。
カルボン酸の中で【1】だけは(アルデヒド基があるため)還元性をもつ。
カルボン酸の酸としての強さはスルホン酸より【1(強or弱)】く、炭酸より【2(強or弱)】い。
カルボン酸はアルコールと反応し【1】結合を形成する。
カルボン酸2分子間で脱水が起こると【1】が形成される。
分子内にエステル結合(-COO-)をもつ化合物を【1】という。
カルボン酸をアルコールと共に【1】を触媒として加熱するとエステルが生じる。
異性体であるカルボン酸が【1】性であるのに対し、エステルは【2】性である。
エステルを加水分解すると【1】と【2】が生じる。
エステルを強塩基(NaOH・KOH)により加水分解することを【1】という。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細