【プロ講師解説】このページでは『ベンゼン(構造・特徴・製法・各種反応など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
ベンゼンとは
ベンゼンとは、分子式C6H6で表される正六角形の環状化合物である。
ベンゼンの特徴
・全ての原子が同一平面上に存在する
・非常に安定である
・安定な環のため、付加反応よりも置換反応の方が起こりやすく開環しにくい
・ベンゼン環が複数繋がる場合がある
ベンゼンについて知っておいてもらいたい特徴は上の3つ。
共鳴する
ベンゼンは二重結合を3つもつように表記されるが、実際にはC-C間で単結合と二重結合が交互に入れ替わる共鳴と呼ばれる現象が起こっている。
全ての結合が1.5重結合だと考えると分かり易い。
全ての原子が同一平面上に存在する
ベンゼンを形成するすべての原子は同一平面上に存在している。
非常に安定である
ベンゼン環のπ結合を形成している電子は炭素原子からなる六員環の表面に雲のように広がり非局在化(局所的に存在するのではなく満遍なく存在していること)している。
これにより、ベンゼンは(同じく炭素炭素二重結合C=Cをもつアルケンなどと比べて)非常に安定している。
ちなみにこのベンゼン環をもった安定な化合物をまとめて芳香族化合物と呼ばれる。
安定な環のため、付加反応よりも置換反応の方が起こりやすく開環しにくい
ベンゼンは安定な環のため、付加反応よりも置換反応の方が起こりやすく開環しにくい。(付加反応が起こると安定した状態が崩れてしまう場合が多い)
ベンゼン環が複数繋がる場合がある
ベンゼン環を2つ繋げてできた化合物をナフタレンC10H8、3つ繋げてできた化合物をアントラセンC14H10という。
ナフタレンの分子結晶は昇華性をもつ。
ベンゼンの製法
アルキン(一般式の作り方・一覧・製法・付加重合・置換反応など)でやったように、ベンゼンはアルキンであるアセチレン三分子の重合反応により合成される。
アセチレンの三重結合のうち一本が切れて隣のCと結合を作っている。
ベンゼンの反応①(付加反応)
ベンゼンの反応は環を破壊して行われる「付加反応(と酸化反応)」と環を保存したまま行われる「置換反応」に分けることができる。
まずは、付加反応の方から解説していく。
付加反応とは、ベンゼンの環構造を特殊な条件により破壊することで、新たな原子(官能基)を付加する反応である。
水素付加
ニッケルNiやパラジウムPd、白金Ptなどを触媒として高温高圧下でベンゼンに水素を付加させるとシクロヘキサンが生成する。
この反応はアルケン(一般式の作り方・一覧・命名法・製法・付加反応など)で紹介した接触還元の一種と考えることができる。
塩素付加
ベンゼンに光や紫外線を照射して塩素を付加させるとベンゼンへキサクロリド(ヘキサクロロシクロヘキサン)が生成する。
ベンゼンヘキサクロリドは以前農薬として用いられていた化合物である。
ベンゼンの反応②(酸化反応)
ベンゼンは一般的な酸化剤(KMnO4・K2Cr2O7など)に対しては安定であるが、酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5を触媒として空気(O2)酸化すると開環してジカルボン酸の無水物となる。
ベンゼンの反応③(置換反応)


置換反応とは、ベンゼンがもつ1つの水素H原子が他の原子(官能基)と置き換わる反応である。
ニトロ化
ベンゼンに存在するH原子とニトロ基が置き換わる反応をベンゼンのニトロ化という。
ベンゼンを濃硝酸と濃硫酸の混合物(=混酸)と反応させると、淡黄色油状物質のニトロベンゼンが生じる。
ベンゼンと濃硝酸が脱水縮合しているイメージ。
※純粋なニトロベンゼンは無色だがほとんどの場合不純物が混じり淡い黄色になっている
※ニトロベンゼンは甘い香りを持つ液体で、水に溶けにくい中性物質である
※ニトロベンゼンの密度は1.2g/mLであり、水よりも重い
PLUS+
上記のように覚えておけば問題ないが、ベンゼンのニトロ化の細かな流れを示すとこんな感じ。
H2SO4のH+はHNO3に渡っているが、最終的に再度H+が生じているので濃硫酸はベンゼンのニトロ化において触媒として働いていると言える。
スルホン化
ベンゼンに存在するH原子とスルホ基が置き換わる反応をベンゼンのスルホン化という。
ベンゼンを濃硫酸や発煙硫酸と反応させると、ベンゼンスルホン酸が生じる。
※ベンゼンスルホン酸は無色の結晶である
※(芳香族化合物としては珍しく)電離するため水によく溶ける(強酸性)
PLUS+
ベンゼンのスルホン化の細かな流れを示すとこんな感じ。
H2SO4はH+を別のH2SO4に渡し、最終的に再度H+が生じている。
反応物であるH2SO4自身が触媒としても働いているというイメージ。
アルキル化
ベンゼンに存在するH原子とアルキル基(メチル基・エチル基など)が置き換わる反応をベンゼンのアルキル化という。
ベンゼンと塩化メチルを反応させると、トルエンが生じる。
PLUS+
ベンゼンのアルキル化の細かな流れを示すとこんな感じ。
塩化メチルがAlCl3と反応して生じた陽イオンがベンゼンを攻撃し、置換反応が起こる。
ちなみに、最後に生じたH+は[AlCl4]–と反応し、HClとAlCl3が生じる。AlCl3は元に戻るので触媒といえる。
H++[AlCl4]–→HCl+AlCl3
ハロゲン化
ベンゼンに存在するH原子とハロゲン原子が置き換わる反応をベンゼンのハロゲン化という。
ベンゼンが塩素と反応するとクロロベンゼンが生じる。
PLUS+
ベンゼンのハロゲン化の細かな流れは次の通り。
まず、鉄が塩素と反応して塩化鉄(Ⅲ)が生じる。
2Fe+3Cl2→2FeCl3
FeCl3は、アルキル化でのAlCl3と同様に触媒として作用する。
ベンゼンに関する演習問題
分子式C6H6で表される正六角形の環状化合物を【1】という。
ベンゼンは二重結合を3つもつように表記されるが、実際には炭素原子間で単結合と二重結合が交互に入れ替わる【1】と呼ばれる現象が起こっている。
ベンゼンを形成するすべての原子は【1】上に存在している。
ベンゼンは安定な環のため、環を破壊して行われる【1(付加or置換)】反応よりも環を保存して行われる【2(付加or置換)】反応の方が起こりやすい。
ベンゼンは【1】三分子の重合反応により合成される。
ベンゼンと濃硝酸の置換反応では【1】が生じる。
ベンゼンと濃硫酸の置換反応では【1】が生じる。
ベンゼンとクロロメタン(塩化メチル)の置換反応では【1】が生じる。
ニッケルNiを触媒として高温高圧下でベンゼンに水素を付加させると【1】が生成する。
ベンゼンに光や紫外線を照射して塩素を付加させると【1】が生成する。
ベンゼンは一般的な酸化剤(KMnO4・K2Cr2O7など)に対しては安定であるが、酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5を触媒として空気(O2)酸化すると開環して【1】の無水物となる。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細