【プロ講師解説】このページでは『多糖類であるデンプン(アミロース・アミロペクチン)/セルロースの構造・還元性・加水分解など』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
はじめに
このページを読むと『多糖類(デンプン(アミロース・アミロペクチン)/セルロースの構造・還元性・加水分解など)』に関する以下の項目について学ぶことができます。
- 栄養多糖と構造多糖について
- 代表的な多糖類(デンプン・セルロース)の構造について
- 多糖類に関する基礎知識
- 多糖類の性質(吸湿性・水溶性・ヨウ素デンプン反応・還元性・加水分解など)について
- セルロースの利用について
- 多糖類に関する問題演習
多糖類とは
多数の単糖が縮合重合してできた糖(高分子化合物)を多糖という。
nコの単糖が縮合重合すると、(n-1)ヶ所で水が取れるため、多糖の分子式は(C6H10O5)nとなる。
栄養多糖と構造多糖
多糖類にはデンプンやグリコーゲンのように栄養源(エネルギー源)として貯蔵するために作られたものがあり、それらを栄養多糖という。
一方、セルロースは植物の細胞壁に存在し、植物体を支え、構造を維持する役割を果たしているため、構造多糖と呼ばれる。
デンプン
デンプンはα-グルコースが縮合重合してできる多糖である。
デンプンはその構造により「アミロース」と「アミロペクチン」に分けることができる。
\begin{eqnarray}
デンプン
\begin{cases}
アミロース & ( 20〜25 \% ) \\
アミロペクチン & ( 75〜80 \% )
\end{cases}
\end{eqnarray}
\]
デンプンのうち、20〜25%はアミロース、75〜80%はアミロペクチンである。これら2つについて個別に詳しく解説していく。
アミロース
アミロースは、多数のα-グルコースがマルトース(麦芽糖)のように、1位と4位のヒドロキシ基(-OH)の間で脱水縮合した構造をしている。
このとき生じたエーテル結合をグリコシド結合(α-1,4-グリコシド結合)という。
一見まっすぐ延びた直鎖状だが、マルトースのような折れ曲がった繋がり方をしているため、実際には直鎖状のらせん構造をしている。このとき、分子内の-OHはらせん構造を補強する「分子内水素結合」に使われる。
アミロペクチン
アミロペクチンは、多数のα-グルコースが1位と4位の-OHの間、及び1位と6位の-OHの間で脱水縮合した構造をしている。
このとき生じたエーテル結合をそれぞれα-1,4-グリコシド結合、α-1,6-グリコシド結合という。
1,4結合と1,6結合が存在するため、(アミロースと異なり)分枝状らせん構造をしている。
分子中の1つの枝は20個程度のグルコースが縮合したもので、らせんの長さはアミロースよりも短めである。
グリコーゲン
アミロペクチンとほぼ同じ構造をしている。ただし、アミロペクチンに比べて平均重合度が大きく(数万程度)、枝分かれの比率が高いという特徴がある。
セルロース
セルロースは、多数のβ-グルコースがセロビオースのように1位と4位の-OHの間で脱水縮合した構造をしている。
このとき生じたエーテル結合をβ-1,4-グリコシド結合という。
β-グルコース単位が表・裏・表・裏・・・とセロビオースのようなまっすぐな繋がり方をしているため、デンプンとは異なり直線構造となっている。
このとき、分子内の-OHは直線構造を補強する「分子内水素結合」だけではなく、分子同士を結びつける「分子間水素結合」も形成している。
多糖類の性質
多糖類は多数の単糖が脱水縮合してできた高分子化合物である。
単糖類や二糖類のような低分子化合物と異なり、分子量が非常に大きく複雑な立体構造をもつため、その点に注目して性質を理解していく必要がある。
吸湿性
多糖類は化合物内にヒドロキシ基(-OH)が多いため、吸湿性が非常に高い。
水溶性
デンプン
アミロースの-OHはらせん構造を形成するための「分子内水素結合」に使われるため、多数の-OHがあるにも関わらず、冷水には溶けにくい。
しかし、熱すると分子内水素結合が切れてらせん構造が崩れる。
結果、水分子と水素結合を形成することができ、熱水によく溶ける。
一方、アミロペクチンは枝分かれが多く、アミロースに比べて分子量も大きいため、熱水の場合も溶けにくく、白くなって下に沈む。(白色沈殿)
セルロース
セルロースの-OHは、分子内だけではなく、分子間での水素結合にも使われている。
規則正しく生じた水素結合によって分子同士が強く結びついているため、熱水に対しても結晶部分が崩れないので、溶けることはほとんどない。
PLUS+
ヨウ素デンプン反応
セルロース → 呈色しない
デンプンのアミロースやアミロペクチンにヨウ素ヨウ化カリウム溶液を加えると青〜青紫色を呈する。
この反応をヨウ素デンプン反応という。
一方、セルロースはらせん構造をもたないので呈色しない。
※ヨウ素デンプン反応について詳しくはヨウ素デンプン反応(原理・色の違い・反応式など)を参照。
還元性がない
多糖類は高分子化合物である。
したがって、還元性を示す「末端」の分子全体に対する比率が極めて小さいので、実質的に還元性を示さない。
加水分解する


多糖類は、酵素又は酸の触媒作用により加水分解し、二糖または単糖となる。
\underbrace{(C_{6}H_{10}O_{5})_{n} }_{ 多糖 }+(\frac{ n }{ 2 }-1)H_{2}O →^{ 酵素 } \underbrace{ \frac{ n }{ 2 }C_{12}H_{22}O_{11} }_{ 二糖 } \\
\underbrace{(C_{6}H_{10}O_{5})_{n} }_{ 多糖 }+(n-1)H_{2}O →^{ 酸 } \underbrace{ nC_{6}H_{12}O_{6} }_{ 単糖 }
\]
デンプンは酵素アミラーゼにより加水分解され、途中分解生成物であるデキストリンを経て、マルトース(麦芽糖)になる。(ここにマルターゼを加えるとさらにグルコースまで分解される:二糖の加水分解)
一方、酸を用いるとマルトースで止まらず、グルコースまで一気に分解される。
セルロースは酵素セルラーゼにより加水分解されてセロビオースになる。
(ここにセロビアーゼを加えるとさらにグルコースまで分解される:二糖の加水分解)
一方、酸を用いるとセロビオースで止まらずに、グルコースまで一気に分解される。
セルロースの利用
セルロースは再生繊維(レーヨン)やエステル化した化合物として利用される。この辺りについて詳しくは以下のコンテンツを確認。
演習問題
問1
多数の単糖が縮合重合してできた糖を【1】という。【1】には、栄養源として栄養を貯蔵する役割を果たす【2】と、植物の細胞壁などに存在し、その構造を維持する役割を果たす【3】がある。
問2
デンプンは【1(αorβ)】-グルコースが縮合重合した多糖である。
デンプンのうち、20〜25%は【2】、75〜80%は【3】である。
問3
多数のα-グルコースが1位と4位のヒドロキシ基の間で脱水縮合してできた多糖を【1】という。
【1】中に存在するエーテル結合は【2】と呼ばれる。【1】は【3(直鎖or分枝)】状のらせん構造をしており、
ヒドロキシ基はらせん構造を補強する分子【4(内or間)】水素結合に使われている。
問4
多数のα-グルコースが1位と4位のヒドロキシ基の間、及び1位と6位のヒドロキシ基の間で脱水縮合してできた多糖を【1】という。
【1】に含まれるエーテル結合にはα-1,4-グリコシド結合とα-1,6-グリコシド結合があるため、【2(直鎖or分枝)】状のらせん構造をとる。
また、【1】のらせんの長さはアミロースよりも【3(長or短)】めである。
問5
多数のβ-グルコースが1位と4位のヒドロキシ基の間で脱水縮合してできた多糖を【1】という。
【1】中に存在するエーテル結合は【2】と呼ばれる。
【1】は直線構造をしており、構造中に含まれる水素結合には、直線構造を補強する分子【3(内or間)】水素結合と、分子同士を結びつける分子【4(内or間)】水素結合がある。
問6
多糖類は化合物内に【1】基が非常に多いため、吸湿性が極めて【2(高or低)】い。
問7
アミロースは冷水に溶け【1(やすorにく)】い。
これは、アミロース中のヒドロキシ基がらせん構造を形成する分子【2(内or間)】水素結合に使われるためである。
問8
アミロースとアミロペクチンのうち、熱水に溶けやすいのは【1】である。
問9
セルロースは熱水に溶け【1(やすorにく)】い。
これは、規則正しく生じた【2】によって分子同士が強く結びついているためである。
ただし、【3】試薬を用いる方法や、水酸化ナトリウムと【4】を用いる方法などで溶かすことも可能である。
問10
デンプンのアミロースやアミロペクチンにヨウ素ヨウ化カリウム溶液を加えると青〜青紫色に呈色する。この反応を【1】反応という。
一方、セルロースは【2】構造をもたないので、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を加えても呈色しない。
問11
多糖は、【1】又は【2】の触媒作用により加水分解し、二糖または単糖となる。
問12
デンプンは酵素【1】により加水分解され、途中分解生成物である【2】を経て【3】になる。
また、ここでさらに【4】を加えると【5】まで分解される。
一方、【6】を用いると【3】で止まらず、【5】まで一気に分解される。
問13
セルロースは酵素【1】により加水分解されて【2】になる。
また、ここでさらにセロビアーゼを加えると【3】まで分解される。
一方、【4】を用いると【2】で止まらずに、【3】まで一気に分解される。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細