単糖類(分類・構造・性質・二糖や多糖との関係性など)

目次

はじめに

【プロ講師解説】このページでは『単糖類(分類・構造・性質・二糖や多糖との関係性など)』について解説しています。


単糖類とは

  • 単糖類は多くの水酸基をもつアルデヒド又はケトンである。このうち、アルデヒド基をもつものをアルドース、ケトン基をもつものをケトースという。
  • アルドースにはグルコース(ブドウ糖)やガラクトースなど、ケトースにはフルクトース(果糖)などが分類される。
  • 天然に存在する単糖類は炭素C原子を6個もつものが多く、これをヘキソース六炭糖)という。ヘキソース六炭糖)にはグルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、フルクトース(果糖)などがあり、全て分子式C6H12O6で表される。
  • また、C原子が5個のものも存在しており、これをペントース五炭糖)という。ペントースにはリボースなどがあり、分子式C5H10O5で表される。

リボースは遺伝やタンパク質の合成に重要な役割を果たすことで有名です。


単糖の構造

  • 高校化学で頻出な単糖であるグルコース・ガラクトース・フルクトース・リボースの構造を解説する。

グルコース(ブドウ糖)

鎖状構造・環状構造

  • グルコースにおいて、アルデヒド基と5個のヒドロキシ基-OHをもつものを鎖状構造アルデヒド型)という。
  • この構造には、4個の不斉炭素原子が存在するため、立体異性体が24=16個存在する(不斉炭素がn個のとき立体異性体は2n個存在)。
  • グルコースは、結晶中において、環状構造のα型又はβ型の状態で存在している。

水溶液中での平衡

  • アルデヒド型の1位のに5位のが付加することで、ヘミアセタールが生成し、この反応のことをヘミアセタール化という。
  • また、生じたヘミアセタールOHが六員環の上に突き出るものをβ型、下に突き出るものをα型という。

ガラクトース

鎖状構造

  • ガラクトースは、グルコースの4位のヒドロキシ基と水素H原子を入れ換えたものである。
  • グルコースと同じように4個の不斉炭素をもち、立体異性体が24個(=16個)存在する。

水溶液中での平衡

  • 水溶液中では、アルデヒド型・α型・β型の三種類の平衡状態になっている。

フルクトース(果糖)

鎖状構造

  • 下図のように、ケトン基と5個のヒドロキシ基を有するものを(フルクトースの)鎖状構造という。
  • 大きな四角で囲まれた部分以外はグルコースと同じ構造になっている。
  • また、3個の不斉炭素が存在するため、立体異性体が23個(=8個)存在する。

水溶液中での平衡

  • フルクトースは、水溶液中では五員環のα型・β型、六員環のα型・β型、鎖状のケトン型の5種類が平衡状態になっている。

リボース

鎖状構造

  • リボースはこれまでに出てきた3つの単糖と異なり、五炭糖(ペントース)の一種である。
  • 1位にアルデヒド基、2位〜5位にヒドロキシ基を有している。
  • 3個の不斉炭素が存在するため、立体異性体が23個(=8個)存在する。

水溶液中での平衡

  • 五員環と六員環それぞれにα・β型が存在するため、下図のように鎖状構造も含め全部で5種類の構造が平衡状態となっている。

シクロアルカンの立体構造

  • 炭素C原子が単結合のみにより繋がったときの一般的な結合角は109.5°である。
  • このようなC原子5個が単結合によって5員環を形成するとき、その結合角は正五角形の角度108°である必要があるが、この値は109.5°に近いため、C原子は平面状に並ぶことができる。
  • 一方、6個のC原子が平面状で六員環を形成するときは、その結合角は正六角形の内角の角度である120°になる必要があるが、この値は109.5°よりもかなり大きい。
  • したがって、六員環は平面構造をとることができずに各C原子は次のような配置をとる。
  • 舟型とイス型を比較してより安定なのはイス型の方で、C6H12などもほとんどがイス型として存在している。

糖類の立体構造

  • 糖類が五員環を形成する際は、シクロアルカンの場合と同様に環を形成するのに用いられる各原子(C・O原子)はほぼ同一平面状に存在している。
  • また、単糖が六員環を形成する際も、シクロアルカンの場合と同様にイス型の構造をとる。

単糖の性質

  • 単糖はヒドロキシ基を多くもったアルコールであり、アルデヒド基をもったアルデヒドでもある。したがって、アルコールとしての性質とアルデヒドとしての性質を併せもっている。
  • 代表的な単糖類の性質は次の通りである。

●単糖の性質

  • 水溶性
  • 光学活性
  • 甘い味
  • 還元性
  • 縮合性
  • 発酵性

❶ 水溶性

  • 単糖は、有しているヒドロキシ基の数が非常に多い。
  • したがって、このヒドロキシ基が水分子と水素結合を形成することができるため、水に非常に良く溶ける。

❷ 光学活性

  • 単糖は、分子内に不斉炭素をもつため光学活性を示す。

❸ 甘い味

  • 単糖は、分子内に多数のヒドロキシ基を有するため、甘い味がする。
  • これは、単糖と舌の上の甘みを認識する受容体とが、水素結合によって結びつくからだと考えられている。
※ X=O,N

❹ 還元性

グルコース・ガラクトースの還元性

  • アルドースの一種であるグルコースとガラクトースは、水溶液中で「鎖状のアルデヒド型」の構造をとることができる。
  • したがって、アルデヒドがもつ還元性を有している。
  • 還元性をもっていると、酸化剤(フェーリング液・アンモニア性硝酸銀水溶液など)と反応してカルボン酸になる。
  • 中でも、フェーリング反応や銀鏡反応は非常に有名で、入試でも頻出なのでしっかり覚えておこう(フェーリング反応や銀鏡反応について詳しくは次のページを参照のこと)。

参考:銀鏡反応とフェーリング反応(原理・反応式・沈殿・色変化など)

フルクトースの還元性

  • フルクトースは、グルコースやガラクトースと異なり「ケトース」の一種であり、水溶液中で「鎖状のケトン型」の構造を示す。
  • アルデヒド基がないため還元性はないのではと感じるかもしれないが、次のような原理で還元性を示す。
  • フルクトースのケトン基は、隣に炭素にヒドロキシ基がくっついた構造をもつ。
  • この構造があると、次のような反応を起こし、アルドース同様還元性を示す。
  • このような、ケトン基の隣にヒドロキシ基の付いた炭素をもつケトンをα-ヒドロキシケトンという。

❺ 縮合性

アセタール化

  • α型及びβ型に存在するヘミアセタールOHは、普通のOHに比べ反応性が高いため、下に示すように容易に他のOHと縮合を起こす。
  • 結果、2つの単糖が結合し二糖になる。
  • ちなみに、このような反応によって形成されるエーテル結合をグリコシド結合という。

アセタール化の仕組み

  • 上記の反応はアセタール構造が生じるためアセタール化とよばれる。単糖二分子のアセタール化の流れは次のようになる。

メチル化(エーテル化)

  • 単糖分子内のヒドロキシ基-OHは硫酸ジメチル(CH32SO4+水酸化ナトリウムNaOHによって、-O-CH3となる。
  • この反応では、単糖にメチル基およびエーテル結合が生じるため、メチル化でもありエーテル化でもある。

アセチル化(エステル化)

  • 単糖分子内のヒドロキシ基-OHは無水酢酸(CH3CO)2O+濃硫酸H2SO4により、-O-COCH3となる。
  • この反応では、単糖にアセチル基(CH3CO-)およびエステル結合(-COO-)が生じるため、アセチル化でもありエステル化でもある。

リン酸エステル化

  • 単糖分子内のヒドロキシ基-OHはリン酸H3PO4と反応して-O-PO(OH)2となる。

❻ 発酵性

  • 微生物がO2分子なしで糖類を分解することを発酵という。

乳酸発酵

  • 乳酸菌によってブドウ糖などは多くの段階を経て分解され、最終的に乳酸となる。
  • 乳酸菌はこのような分解を行って生命活動に必要なエネルギーを得る。
  • この反応は人の体内でも行われている。つまり、人が激しい運動をしたとき筋肉中で乳酸発酵と同じことが起き、その結果としてエネルギーを獲得している。

アルコール発酵

  • 酵母菌によってグルコースなどが段階的に分解され、最終的にエタノールと二酸化炭素を生じる。
  • 酵母はこれによってエネルギーを得ている。また、その分解過程において作用する酵素群をチマーゼという。

\[ \mathrm{C_{6}H_{12}O_{6}\overset{チマーゼ}{→}2C_{2}H_{5}OH+2CO_{2}} \]


単糖と二糖の関係性

  • 単糖は縮合すると二糖になる。ここでは、二糖と、元となる単糖の関係性を一覧で示す。
単糖①単糖②二糖
α-グルコースα-グルコースマルトース イソマルトース トレハロース
β-グルコースβ-グルコースセロビオース
β-ガラクトースβ-グルコースラクトース
α-グルコースβ-フルクトーススクロース
  • 二糖それぞれの詳しい構造などについては次のページを参照のこと。

参考:二糖類(マルトース/スクロースなどの還元性・構造式・結合・覚え方など)


単糖類まとめ

この『単糖類(分類・構造・性質・二糖や多糖との関係性など)』のページで解説した内容をまとめる。

  • 単糖類でアルデヒド基をもつものをアルドース、ケトン基をもつものをケトースという。
  • アルドースにはグルコース(ブドウ糖)やガラクトースなど、ケトースにはフルクトース(果糖)などが分類される。
  • 単糖類はヒドロキシ基を多く有するため、水によく溶ける。
  • 単糖類は分子内に不斉炭素をもつため、光学活性を示す。
  • 単糖類は分子内に多数のヒドロキシ基を有するため、甘い味がする。
  • グルコースやガラクトースは水溶液中でアルデヒド型の構造を取るため還元性を示す。フルクトースは水溶液中でケトン型の構造を取るが、α-ヒドロキシケトンなので還元性を示す。
  • 単糖類は縮合性を示す(アセタール化・メチル化・エーテル化・アセチル化・エステル化・リン酸エステル化)。
  • 微生物が酸素なしで糖類を分解することを発酵という。発酵には乳酸発酵やアルコール発酵などがある。
  • 単糖が縮合して二糖になることがある(二糖類に関しては二糖類(マルトース/スクロースなどの還元性・構造式・結合・覚え方など)を参照)。

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著者情報

元講師、薬剤師、イラストレーター
数百名の中高生向け指導経験あり(過去生徒合格実績:東工大・東北大・筑波大・千葉大・岡山大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)。
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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