【プロ講師解説】このページでは『単糖類(グルコース・ガラクトース・フルクトースの分類や構造、性質、二糖や多糖との関係性など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
はじめに
このページを読むと『単糖類(グルコース・ガラクトース・フルクトースの分類や構造、性質、二糖や多糖との関係性など)』に関する以下の項目について学ぶことができます。
- 代表的な単糖類の構造について
- 各単糖類(グルコース・ガラクトース・フルクトース・リボース)に関する基礎知識
- 各単糖類の性質(水溶性・旋光性・甘味・還元性・縮合性・発酵性など)
- 単糖類に関する問題演習
単糖類とは
単糖類は多くの水酸基をもつアルデヒド又はケトンである。このうち、アルデヒド基をもつものをアルドース、ケトン基をもつものをケトースという。
アルドースにはグルコース(ブドウ糖)やガラクトースなど、ケトースにはフルクトース(果糖)などが分類される。
天然に存在する単糖類は炭素C原子を6コもつものが多く、ヘキソース(六炭糖)と呼ばれる。ヘキソース(六炭糖)にはグルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、フルクトース(果糖)などがあり、全て分子式C6H12O6で表される。
また、C原子が5コのものも存在しており、それはペントース(五炭糖)と呼ばれる。
ペントースにはリボースなどがあり、分子式C5H10O5で表される。
ちなみにリボースは遺伝やタンパク質の合成に重要な役割を果たすことで有名である。
単糖の構造
ここからは高校化学で頻出な単糖であるグルコース・ガラクトース・フルクトース・リボースの構造を紹介していく。
グルコース(ブドウ糖)
鎖状構造・環状構造
グルコースにおいて、アルデヒド基と5コのヒドロキシ基-OHをもつものを鎖状構造(アルデヒド型)という。
4コの不斉炭素原子が存在するため、立体異性体が24=16コ存在する。(不斉炭素がnコのとき立体異性体は2nコ存在)
グルコースは、結晶中において、環状構造のα型又はβ型の状態で存在している。
水溶液中での平衡
グルコースは、水溶液中において、鎖状構造のアルデヒド型グルコース、環状構造のα-グルコース、β-グルコースの3種類が平衡状態で存在している。
アルデヒド型の1位の
また、生じたヘミアセタールOHが六員環の上に突き出るものをβ型、下に突き出るものをα型という。
ガラクトース
鎖状構造
ガラクトースは、グルコースの4位のヒドロキシ基と水素H原子を入れ換えたものである。
グルコースと同じように4コの不斉炭素をもち、立体異性体が24コ(=16コ)存在する。
水溶液中での平衡
水溶液中では、アルデヒド型・α型・β型の三種類の平衡状態になっている。
フルクトース(果糖)
鎖状構造
下図のように、ケトン基と5コのヒドロキシ基を有するものを(フルクトースの)鎖状構造という。
大きな四角で囲まれた部分以外はグルコースと同じ構造になっている。
また、3コの不斉炭素が存在するため、立体異性体が23コ(=8コ)存在する。
水溶液中での平衡
フルクトースは、水溶液中では五員環のα型・β型、六員環のα型・β型、鎖状のケトン型の5種類が平衡状態になっている。
リボース
鎖状構造
リボースはこれまでに出てきた3つの単糖と異なり、五炭糖(ペントース)の一種である。
1位にアルデヒド基、2位〜5位にヒドロキシ基を有している。
3コの不斉炭素が存在するため、立体異性体が23コ(=8コ)存在する。
水溶液中での平衡
五員環と六員環それぞれにα・β型が存在するため、下図のように鎖状構造も含め全部で5種類の構造が平衡状態となっている。
PLUS+
シクロアルカンの立体構造に関して
炭素C原子が単結合のみにより繋がったときの一般的な結合角は109.5°である。このようなC原子5コが単結合によって5員環を形成するとき、その結合角は正五角形の角度108°である必要があるが、この値は109.5°に近いため、C原子は平面状に並ぶことができる。
一方、6コのC原子が平面状で六員環を形成するときは、その結合角は正六角形の内角の角度である120°になる必要があるが、この値は109.5°よりもかなり大きい。したがって、六員環は平面構造をとることができずに各C原子は以下のような配置をとる。
舟型とイス型を比較してより安定なのはイス型の方で、C6H12などもほとんどがイス型として存在している。
PLUS+
糖類の立体構造に関して
糖類が五員環を形成する際は、シクロアルカンの場合と同様に環を形成するのに用いられる各原子(C・O原子)はほぼ同一平面状に存在している。
また、単糖が六員環を形成する際も、シクロアルカンの場合と同様にイス型の構造をとる。
単糖の性質
単糖はヒドロキシ基を多くもったアルコールであり、アルデヒド基をもったアルデヒドでもある。
したがって、アルコールとしての性質とアルデヒドとしての性質を併せもっている。
水溶性
単糖は、有しているヒドロキシ基の数が非常に多い。
したがって、このヒドロキシ基が水分子と水素結合を形成することができるため、水に非常に良く溶ける。
また、先述の通り、単糖は水溶液中において平衡状態になっているということも忘れないように。
光学活性
単糖は、分子内に不斉炭素をもつため光学活性を示す。
甘い味
単糖は、分子内に多数のヒドロキシ基を有するため、甘い味がする。
これは、単糖と舌の上の甘みを認識する受容体とが、水素結合によって結びつくからだと考えられている。
※ X=O,N
還元性
グルコース・ガラクトースの還元性
アルドースの一種であるグルコースとガラクトースは、水溶液中で「鎖状のアルデヒド型」の構造をとることができる。
したがって、アルデヒドがもつ還元性を有している。
還元性をもっていると、酸化剤(フェーリング液・アンモニア性硝酸銀水溶液など)と反応してカルボン酸になる。
中でも、フェーリング反応や銀鏡反応は非常に有名で入試でも頻出なのでしっかり覚えておこう。(フェーリング反応や銀鏡反応について詳しくは【銀鏡反応 & フェーリング反応】原理や反応式、沈殿、色変化など総まとめ!を確認!)
フルクトースの還元性
フルクトースは、グルコースやガラクトースと異なり「ケトース」の一種であり、水溶液中で「鎖状のケトン型」の構造を示す。
アルデヒド基がないため還元性は示さないのではと思うかもしれないが、次のような原理で還元性を示す。
フルクトースのケトン基は、隣に炭素にヒドロキシ基がくっついた構造をもっている。
この構造をもっていると、次のような反応を起こし、アルドース同様還元性を示す。
このような、ケトン基の隣にヒドロキシ基の付いた炭素をもつケトンを「α-ヒドロキシケトン」と呼ぶ。
縮合性
アセタール化
α型及びβ型に存在するヘミアセタールOHは、普通のOHに比べ反応性が高いため、下に示すように容易に他のOHと縮合を起こす。
結果、2つの単糖がくっついて二糖になる。
ちなみに、このような反応によって形成されるエーテル結合を「グリコシド結合」という。
PLUS+
アセタール化の仕組み
上記の反応はアセタール構造が生じるためアセタール化と呼ばれる。単糖二分子のアセタール化の流れは次のようになる。
メチル化(エーテル化)
単糖分子内のヒドロキシ基-OHは硫酸ジメチル(CH3)2SO4+水酸化ナトリウムNaOHによって、-O-CH3となる。
この反応はメチル化でもありエーテル化でもある。
アセチル化(エステル化)
単糖分子内のヒドロキシ基-OHは無水酢酸(CH3CO)2O+濃硫酸H2SO4により、-O-COCH3となる。
リン酸エステル化
単糖分子内のヒドロキシ基-OHはリン酸H3PO4と反応して-O-PO(OH)2となる。
発酵性
微生物がO2分子なしで糖類を分解することを発酵という。
乳酸発酵
乳酸菌によってブドウ糖などは多くの段階を経て分解され、最終的に乳酸となる。
乳酸菌はこのような分解を行って生命活動に必要なエネルギーを得る。
この反応は人の体内でも行われている。
つまり、人が激しい運動をしたとき筋肉中で乳酸発酵と同じことが起き、その結果としてエネルギーを獲得している。
アルコール発酵
酵母菌によってグルコースなどが段階的に分解され、最終的にエタノールと二酸化炭素を生じる。
酵母はこれによってエネルギーを得ている。また、その分解過程において作用する酵素群をチマーゼという。
C_{6}H_{12}O_{6}\overset{チマーゼ}{→}2C_{2}H_{5}OH+2CO_{2}
\]
単糖と二糖の関係性
今説明したように、単糖は縮合して二糖になる場合がある。
ここでは、二糖と、元となる単糖の関係性を一覧にしておこう。
単糖① | 単糖② | 二糖 |
---|---|---|
α-グルコース | α-グルコース | マルトース イソマルトース トレハロース |
β-グルコース | β-グルコース | セロビオース |
β-ガラクトース | β-グルコース | ラクトース |
α-グルコース | β-フルクトース | スクロース |
それぞれの詳しい構造などについては二糖類(マルトース/スクロースなどの還元性・構造式・結合・覚え方など)を確認しよう。
単糖類まとめ
最後に、この『単糖類(グルコース・ガラクトース・フルクトースの分類や構造、性質、二糖や多糖との関係性など)』のページで解説した内容をまとめておく。
- 単糖類でアルデヒド基をもつものをアルドース、ケトン基をもつものをケトースという
- アルドースにはグルコース(ブドウ糖)やガラクトースなど、ケトースにはフルクトース(果糖)などが分類される
- 単糖類はヒドロキシ基を多く有するため、水によく溶ける
- 単糖類は分子内に不斉炭素をもつため、光学活性を示す
- 単糖類は分子内に多数のヒドロキシ基を有するため、甘い味がする
- グルコースやガラクトースは水溶液中でアルデヒド型の構造を取るため還元性を示す。フルクトースは水溶液中でケトン型の構造を取るが、α-ヒドロキシケトンなので還元性を示す
- 単糖類は縮合性を示す(アセタール化・メチル化・エーテル化・アセチル化・エステル化・リン酸エステル化)
- 微生物が酸素なしで糖類を分解することを発酵という。発酵には乳酸発酵やアルコール発酵などがある
- 単糖が縮合して二糖になることがある(二糖類に関しては二糖類(マルトース/スクロースなどの還元性・構造式・結合・覚え方など)を参照)
演習問題
問1
単糖類のうち、アルデヒド基をもつものを【1】、ケトン基をもつものを【2】という。
問2
天然に存在する単糖類は炭素C原子を6個もつものが多く、【1】と呼ばれる。【1】は、分子式【2】で表される。また、C原子が5個のものも存在しており、それは【3】と呼ばれる。【3】は、分子式【4】で表される。
問3
グルコース水溶液中では、鎖状構造の【1】型グルコース、環状構造の【2】-グルコース、【3】-グルコースの3種類が平衡状態で存在している。
ヘミアセタール構造のヒドロキシ基が六員環の上に突き出るものを【2】-グルコース、下に突き出るものを【3】-グルコースという。
問4
グルコースの4位のヒドロキシ基と水素H原子を入れ換えた単糖を【1】という。
【1】は【2】個の不斉炭素原子をもち、立体異性体が【3】個存在する。
問5
フルクトースは【1】個の不斉炭素原子をもち、立体異性体が【2】個存在する。
リボースは【3】個の不斉炭素原子をもち、立体異性体が【4】個存在する。
問6
単糖は有しているヒドロキシ基の数が非常に【1(多or少な)】い。
したがって、このヒドロキシ基が水分子と【2】を形成することができるので、水に非常に良く溶ける。
問7
単糖は分子内に不斉炭素原子をもつため【1】性を示す。
問8
グルコースとガラクトースは水溶液中で鎖状の【1】型の構造をとることができる。
したがって、【1】がもつ還元性を有している。一方、フルクトースは水溶液中で鎖状の【2】型の構造を示す。
フルクトースのように【2】基の隣にヒドロキシ基の付いた炭素をもつ化合物を【3】と呼ぶ。
【3】は変形して【1】になることができるため還元性を示す。
問9
ヘミアセタールOHは、普通のOHと比較して反応性が【1(高or低)】いため、
容易に他のOHと縮合を起こす。このような反応によって形成されるエーテル結合を【2】という。
問10
微生物がO2分子なしで糖類を分解することを【1】という。
例えば、乳酸菌によってブドウ糖などは多くの段階を経て分解され、最終的に【2】となる。
関連:有機のドリルが、できました。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細