【プロ講師解説】このページでは『フェノール類(名称・製法・性質・反応など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
フェノール類とは
フェノール類とは、ベンゼン環の水素H原子がヒドロキシ基(-OH)で置換されたものである。
フェノール類の名称
フェノール類はアルコールと同様に語尾が「オール(ol)」になる。
フェノールの製法
クメン法(現代の工業的製法)
①プロピレンでベンゼンのHを置換し、クメンを得る。(正確にはプロピレンにH+を付加後ベンゼンのHを置換)
②クメンを酸素で穏やかに酸化してクメンヒドロペルオキシドという過酸化物が生じる。
③希硫酸中で-O-O-結合が切断され、複雑な反応を経て、アセトンとフェノールが得られる。
アルカリ融解法(昔の工業的製法)
①ベンゼンを濃硫酸とともに加熱するとベンゼンスルホン酸が生じる。
②ベンゼンスルホン酸と水酸化ナトリウム水溶液を混ぜてベンゼンスルホン酸ナトリウムを得る。
③ベンゼンスルホン酸ナトリウムと水酸化ナトリウム(固体)を混ぜて約300℃に加熱し、ナトリウムフェノキシドを得る。
固体が融解した状態で反応が進むのでこの過程はアルカリ融解と呼ばれる。
④ナトリウムフェノキシドに塩酸や炭酸のようなフェノールよりも強い酸を加えることで弱酸遊離反応によってフェノールを得る。(詳しくは後述)
ダウ法(クロロベンゼンの加水分解)
①ベンゼンを塩素と反応させてクロロ化し、クロロベンゼンを得る。
②クロロベンゼンを水酸化ナトリウム水溶液と混ぜ、300℃に加熱し、ナトリウムフェノキシドを得る。
この際(クロロベンゼンは揮発性の液体なので)2.0×107程度の圧力をかけて蒸発を防ぐ必要がある。
また、高圧下では、水も蒸発しにくいので、(アルカリ融解法と異なり)液体同士で混ぜやすい水酸化ナトリウム”水溶液”を用いる。
③アルカリ融解法と同様、ナトリウムフェノキシドに塩酸や炭酸のようなフェノールよりも強い酸を加えることで弱酸遊離反応によってフェノールを得る。(詳しくは後述)
フェノールの性質
・沸点/融点が高い
弱酸性
フェノールは僅かに電離して水素イオンH+を出すため、弱酸性である。
同じようにヒドロキシ基-OHをもつ化合物のアルコールは中性なのに、フェノールはなぜ酸性になるの?という質問をよく受けるので解説する。
フェノールが弱酸性、アルコールが中性なのは「フェノキシドイオンはO原子上の余剰な負電荷をベンゼン環に与えることによって安定化できるから」である。
H+が脱離したときにできるイオンが安定したものだとH+が脱離しやすくなる。
フェノールからH+が脱離してできるフェノキシドイオンは余っている負電荷をベンゼン環の方に流すことによって安定化できるため比較的H+が脱離しやすく、酸性となる。
一方、アルコールからH+が脱離してできるアルコキシドイオンは負電荷を分散することができないためH+が脱離しづらく、中性となる。
また、フェノールはあくまで弱酸であり、カルボン酸や炭酸などと比較して弱い酸であることも知っておこう。
塩酸,硫酸 > カルボン酸 > 炭酸(第1電離) > フェノール
(塩酸,硫酸のみ強酸、後は弱酸)
沸点・融点が高い
フェノールはヒドロキシ基-OHをもっており、分子間で水素結合を形成するため、沸点・融点が非常に高く常温常圧で白色結晶である。
フェノールの反応①(中和反応)
先述の通り、フェノールは水に溶けて僅かに酸性を示す。
酸であるフェノールに、塩基である水酸化ナトリウムNaOHを反応させると、ナトリウムフェノキシドと呼ばれる塩が生成する。
※中和反応について詳しくは中和(定義・塩・中和反応式の作り方など)を参照
フェノールの反応②(弱酸遊離反応)
ナトリウムフェノキシドとH2CO3を反応させるとフェノールが遊離する。
この反応は酸としての強さが「H2CO3>フェノール」であるために起こる弱酸遊離反応である。
※弱酸遊離反応について詳しくは【弱酸・弱塩基遊離反応】原理や公式、反応式の作り方などを参照
フェノールの反応③(置換反応)
ブロモ化
フェノールと臭素Br2を反応させると2.4.6-トリブロモフェノールの白色沈殿が生成する。
ベンゼンの臭素化の場合は鉄などの触媒が必要であったが、フェノールの場合は触媒なしでOK。
※ベンゼンのハロゲン化について詳しくはベンゼン(構造・特徴・製法・各種反応など)を参照
ニトロ化
フェノールを混酸(濃硝酸+濃硫酸)とともに加熱するとニトロフェノールが得られる。(-OHは電子供与性の官能基なのでオルトニトロフェノール・パラニトロフェノールが主生成物)
これをさらに続けると2.4.6-トリニトロフェノール(ピクリン酸)の黄色沈殿が得られる。
ピクリン酸は水に溶けて弱酸性を示す。
フェノールの反応④(エステル化(アセチル化))
フェノールは無水酢酸(CH3CO)2Oと反応してエステルを形成する。
フェノールの反応⑤(検出反応)
ベンゼン環に直接結合したヒドロキシ基-OHをフェノール性ヒドロキシ基という。
このフェノール性ヒドロキシ基をもつ物質(フェノール類)はFe3+と錯イオンを形成して呈色する。
化合物 | FeCl3水溶液を加えた際の呈色 |
---|---|
フェノール | 紫 |
クレゾール | 青紫 |
1-ナフトール | 紫 |
2-ナフトール | 緑 |
この反応はフェノール性ヒドロキシ基の検出反応として用いられる。
また、ヒドロキシ基があってもベンゼン環に直接結合していないとフェノール性ヒドロキシ基ではないため呈色しないという点に注意しよう。
フェノールに関する演習問題
ベンゼン環の水素H原子がヒドロキシ基(-OH)で置換されたものを【1】類という。
フェノールの製法には現代の工業的製法である【1】法、昔の工業的製法である【2】法、クロロベンゼンの加水分解を行う【3】法などがある。
フェノールは僅かに電離して水素イオンH+を放出するため【1】性である。
フェノールは分子間で【1】結合を形成するため沸点・融点が非常に高く、常温常圧で【2】色結晶である。
フェノールをNaOHと反応させると【1】と呼ばれる塩が生成する。
ナトリウムフェノキシドとH2CO3を反応させると【1】が遊離する。この反応は【2】反応である。
フェノールと臭素Br2を反応させると【1】の白色沈殿が生成する。
フェノールを混酸(濃硝酸+濃硫酸)とともに加熱すると【1】が得られる。これをさらに続けると【2】の黄色沈殿が得られる。また、【2】は水に溶けて【3】性を示す。
フェノールは無水酢酸(CH3CO)2Oと反応して【1】を形成する。
フェノール類は塩化鉄(Ⅲ)FeCl3水溶液を加えると【1】色を呈する。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細