【プロ講師解説】このページでは『緩衝液(仕組み・共通イオン効果・濃度を使ったpH計算の解き方など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
緩衝液とは
弱塩基+その塩の混合液
緩衝液とは弱酸とその塩の混合液、また、弱塩基とその塩の混合液である。
緩衝液は、酸や塩基を多少加えてもそのpHを変化させない性質(=緩衝作用)をもっている。
緩衝液の仕組み
緩衝液(緩衝作用)の仕組みについて、酢酸と酢酸ナトリウムの混合液を使って確認する。
酸を加える
酢酸と酢酸ナトリウムの混合液にHCl(酸)を加えると、次のような反応が起こる。
CH_{3}COONa + HCl → CH_{3}COOH + NaCl
\]
(HClから出た)H+が(CH3COONaから出た)CH3COO–と反応してCH3COOHとなり、結果的に溶液中のH+の濃度にはほとんど変化がない。(=pHにほとんど変化がない)
塩基を加える
次に、酢酸と酢酸ナトリウムの混合液にNaOH(塩基)を加えた場合を考える。
CH_{3}COOH + NaOH → CH_{3}COONa + H_{2}O
\]
これも、(NaOHから出た)OH–が(CH3COOHから出た)H+と反応して無くなり、溶液中のOH–の濃度に変化はない。(=pHにほとんど変化がない)
このように、多少の酸や塩基が入ってきてもpHを変化させない性質を緩衝作用という。
共通イオン効果
次は共通イオン効果というものについて、先ほどと同様酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液を使って解説する。
一般的に、水溶液中で酢酸ナトリウム、酢酸は以下のような反応を起こす。
CH_{3}COONa → CH_{3}COO^{-} + Na^{+}\\
CH_{3}COOH → CH_{3}COO^{-} + H^{+}
\]
酢酸ナトリウムは塩なので、完全に電離する。(上の式)
酢酸も(電離度を考慮しなくてはならないが)電離する。(下の式)
しかし、これらが混合液になったとき、普段とは少し異なった反応を示す。
酢酸ナトリウムの方は、通常通り電離する。
CH_{3}COONa → CH_{3}COO^{-} + Na^{+}
\]
酢酸も電離しようとするが、酢酸ナトリウムから酢酸イオン(CH3COO–)が大量に出ているため抑制されてしまう。
CH_{3}COOH ← CH_{3}COO^{-} + H^{+}
\]
このように「共通しているイオンの放出が抑制される」ことを共通イオン効果という。
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式
緩衝液のpHを計算する前準備として、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式について解説する。
pH=pK_{a}+log_{10}\frac{ C_{s} }{ C_{a} }
\]
酢酸ナトリウムの濃度をCs、酢酸の濃度をCaとすると
[CH_{3}COO^{-}]≒C_{s}\\
[CH_{3}COOH]≒C_{a}
\]
のように近似できる。
これは、CH3COONaが完全電離すること、また共通イオン効果により、CH3COOHの電離が抑制されることから理解できるはず。
さらに、これを使うと次のような式変形を行うことができる。
K_{a}=\frac{ [CH_{3}COO^{-}][H^{+}] }{ [CH_{3}COOH] }\\
\begin{align}
↔︎[H^{+}]&=K_{a}×\frac{ [CH_{3}COOH] }{ [CH_{3}COO^{-}] }\\
&=K_{a}×\frac{ C_{a} }{ C_{s} } \end{align}
\]
\begin{align}
pH&=-log_{10}[H^{+}]\\
&=-log_{10}(\frac{ K_{a}×C_{a} }{ C_{s} })\\
&=-log_{10}K_{a}-log_{10}( \frac{ C_{a} }{ C_{s} })\\
&=pK_{a}-log_{10}(\frac{ C_{a} }{ C_{s} })\\
&=pK_{a}+log_{10}(\frac{ C_{s} }{ C_{a} }) \end{align}
\]
一番最後の式をヘンダーソン・ハッセルバルヒの式と呼び、緩衝液のpHを求める際に使うことが多い。
緩衝液のpH計算
入試頻出の緩衝液が絡んだpH計算の解き方を解説する。
※基本的なpH計算の解き方については【pH計算】定義から公式、求め方、希釈や混合が絡む問題などを参照
緩衝液のpHの求め方
問題
\begin{align}
pH&=pK_{a}+log_{10}(\frac{ C_{s} }{ C_{a} }) \\
&=4.7+log_{10}(\frac{ \frac{ 0.20×\frac{ 10 }{ 1000 } }{ 1.0 } }{ \frac{ 0.20×\frac{ 20 }{ 1000 } }{ 1.0 } }) \\
&=4.7-0.30\\
&=4.4
\end{align}
\]
緩衝液に酸を加えた場合のpHの求め方
問題
(1)この混合溶液のpHを求めよ。ただし、酢酸のpKaは4.7とする。
(2)この混合溶液に、1.0mol/Lの塩酸を40mL加えた。このときの混合溶液のpHを求めよ。ただし、log2=0.30とする。
(1)
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式に与えられた値を当てはめる。
\begin{align}
pH&=pK_{a}+log_{10}(\frac{ C_{s} }{ C_{a} }) \\
&=4.7+log_{10}(\frac{ \frac{ 0.12 }{ 1.0 } }{ \frac{ 0.12 }{ 1.0 } } ) \\
&=4.7-0\\
&=4.7
\end{align}
\]
(2)
緩衝液に酸または塩基を加えたときのpHは以下のSTEPで求める。
STEP1 | 反応量シートを書く →酸(塩基)と塩のmolを求める |
STEP2 | STEP1で求めたmolをヘンダーソン・ハッセルバルヒの式に当てはめる →混合溶液のpHを求める |
STEP1
まずは、反応量シートを書く。(反応量シートの書き方については化学反応式(係数・作り方・書き方・計算問題の解き方など)を参照)
このシートにより、酸(CH3COOH)と塩(CH3COONa)のmol数が分かる。
STEP2
次に、STEP1で出したmolをヘンダーソン・ハッセルバルヒの式に代入する。(ここでは一応濃度に変換しているが、同じ溶液中にいる=体積が同じなので、molのまま使ってもOK)
\begin{align}
pH&=pK_{a}+log_{10}(\frac{ C_{s} }{ C_{a} }) \\
&=4.7+log_{10}(\frac{ \frac{ 0.080 }{ 1 } }{ \frac{ 0.16 }{ 1 } } ) \\
&=4.7-0.30\\
&=4.4
\end{align}
\]
緩衝液に関する一問一答
弱酸とその塩の混合液、また弱塩基とその塩の混合液を【1】という。【1】は酸や塩基を多少加えてもそのpHを変化させない性質(=【2】)をもっている。
塩化銀AgClの飽和水溶液に塩化ナトリウムNaClを加えると塩化物イオンCl–の濃度が高くなるため、Cl–の濃度が【1(増加or減少)】する方向に平衡が移動し、AgClの固体が析出する。この現象を【2】という。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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