【プロ講師解説】このページでは『元素分析(装置の仕組み・流れ、実際に試験で出る計算問題の解法など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
元素分析とは
化合物中の元素の組成を調べて、組成式を決定する操作を元素分析という。
元素分析の仕組み・流れ
元素分析は下のような装置を用いて行われる。
この装置を使った元素分析の仕組みと流れについて以下のSTEPで説明していこう。
STEP1 | O2又は乾燥した空気を吹き込みながら試料を燃焼させる |
STEP2 | 気体がCuOを通過する → 試料の不完全燃焼を防ぐ |
STEP3 | 気体がCaCl2を通過する → H2Oが吸収される |
STEP4 | 気体がソーダ石灰を通過する → CO2が吸収される |
STEP1
まずは、O2又は乾燥した空気を吹き込みながら試料(有機物:CxHyOz)を燃焼させる。
結果、試料中のCはCO2(気体)に、HはH2O(気体)に変化する。
STEP2
→試料の不完全燃焼を防ぐ
STEP1の燃焼が不十分で、Cが本来CO2まで酸化されるところ、COまでしか酸化されていないという場合がある。
そこで、酸化剤である「CuO」中を通過させることで試料の不完全燃焼を防ぐ。
CuO + CO → Cu + CO_{2}
\]
STEP3
→H2Oが吸収される
次に、気体(CO2・H2O・O2)がCaCl2を通過する。
塩化カルシウムCaCl2は中性の乾燥剤である。
したがって、H2Oのみが吸収される。
※乾燥剤について詳しくは【乾燥剤】酸性・中性・塩基性の乾燥剤一覧や分類・仕組みなどを参照
STEP4
→CO2が吸収される
ソーダ石灰(NaOH+CaO)は塩基性の乾燥剤なので、酸性気体であるCO2が吸収される。(ただし、この場合は“乾燥剤”として働いているわけではない:乾燥剤について詳しくは【乾燥剤】酸性・中性・塩基性の乾燥剤一覧や分類・仕組みなどを参照)
元素分析では、以上の手順で得た塩化カルシウム管に吸収されたH2O、及びソーダ石灰管に吸収されたCO2の質量をもとに、元の有機化合物の組成式を求める。
※具体的な計算方法については、以下で解説しているので必ずマスターしておこう。
塩化カルシウム管とソーダ石灰管を入れ替えてはいけない理由
中性の乾燥剤である塩化カルシウムと塩基性の乾燥剤であるソーダ石灰の順番は入れ替えてはならない。
ソーダ石灰は塩基性の乾燥剤であり、H2Oや酸性気体であるCO2を吸収する。
したがって、ソーダ石灰を先にセッティングするとH2OとCO2をいっぺんに吸収してしまい、それぞれの正確な量を量ることが出来ない。
したがって、元素分析をする際は必ず「塩化カルシウム管→ソーダ石灰管」の順に試料を通す必要がある。
元素分析と組成式の決定
元素分析の結果を用いて有機化合物の組成式を決定することができる。
元素分析後の塩化カルシウム管の増加量(=吸収されたH2Oの質量)をAg、ソーダ石灰管の増加量(=吸収されたCO2の質量)をBgだとすると、有機化合物CxHyOzwgに含まれるC・H・Oのモル比は
\begin{align} & C:H:O \\
&=\frac{ B×\frac{ 12 }{ 44 }(g) }{ 12(g/mol) } : \frac{ A×\frac{ 2 }{ 18 }(g) }{ 1(g/mol) } : \frac{ w-(B×\frac{ 12 }{ 44 }+A×\frac{ 2 }{ 18 })(g) }{ 16(g/mol) } \end{align}
\]
このように表すことができる。
※上式に関する解説
\frac{ B×\frac{ 12 }{ 44 }(g) }{ 12(g/mol) }
\]
まずはこの部分に注目。
分子では、吸収されたCO2の質量Bgに「Cの原子量(12)/CO2の分子量(44)」をかけることで「C原子だけの質量」を導き出している。それをC原子の原子量12(g/mol)で割ることでC原子のmolが得られる。
同様に、次の式で吸収されたH2O(Ag)中に含まれるH原子のmolが得られる。
\frac{ A×\frac{ 2 }{ 18 }(g) }{ 1(g/mol) }
\]
また、O原子のmolは次のようになる。
\frac{ w-(B×\frac{ 12 }{ 44 }+A×\frac{ 2 }{ 18 })(g) }{ 16(g/mol) }
\]
元の有機化合物の質量wgからH原子・C原子の質量を引いて間接的にO原子の質量を求めている。
最後にもう一度、C・H・Oのモル比を表す式を確認する。
\begin{align} & C:H:O \\
&=\frac{ B×\frac{ 12 }{ 44 }(g) }{ 12(g/mol) } : \frac{ A×\frac{ 2 }{ 18 }(g) }{ 1(g/mol) } : \frac{ w-(B×\frac{ 12 }{ 44 }+A×\frac{ 2 }{ 18 })(g) }{ 16(g/mol) } \end{align}
\]
これを用いて次の例題を解いていこう。
元素分析の計算問題
問題文で与えられている数値を先ほどの公式に入れると…
\begin{align} & C:H:O \\
&=\frac{ 14.08×\frac{ 12 }{ 44 } }{ 12 } : \frac{ 3.60×\frac{ 2 }{ 18 } }{ 1 } : \frac{ 4.88-(14.08×\frac{ 12 }{ 44 }+3.60×\frac{ 2 }{ 18 }) }{ 16 } \\
&=0.32:0.4:0.04 \\
&=8:10:1 \end{align}
\]
よって、組成式はC8H10Oとなる。
問題文で与えられている数値を先ほどの公式に入れると…
\begin{align} & C:H:O \\
&=\frac{ 23.3×\frac{ 12 }{ 44 } }{ 12 } : \frac{ 12.2×\frac{ 2 }{ 18 } }{ 1 } : \frac{ 10-(23.3×\frac{ 12 }{ 44 }+12.2×\frac{ 2 }{ 18 }) }{ 16 } \\
&≒0.53:1.35:0.14 \\
&≒4:10:1 \end{align}
\]
よって、組成式はC4H10Oとなる。
窒素Nが入っているが、やり方はほぼ一緒。問題文で与えられている数値を先ほどの公式に入れると…
\begin{align} & C:H:N:O \\
&=\frac{ 45.6 }{ 12 } : \frac{ 8.8 }{ 1 } : \frac{ 13.6 }{ 14 } : \frac{ 100-(45.6+8.8+13.6) }{ 16 } \\
&≒3.8:8.8:0.97:2 \\
&≒4:9:1:2 \end{align}
\]
よって、組成式はC4H9NO2となる。
元素分析に関する演習問題
有機化合物の各成分元素の種類や含有量を求める実験操作を【1】という。
【1】剤であるCuOは、試料の不完全燃焼を防ぐために用いられる。
塩化カルシウムCaCl2は【1】性の乾燥剤であり【2】のみを吸収する。
ソーダ石灰(NaOH+CaO)は【1】性の乾燥剤なので、酸性気体である【2】が吸収される。
関連:有機のドリルが、できました。
有機化学の問題演習を行うための"ドリル"ができました。解答・解説編には大学入試頻出事項が網羅的にまとまっています。詳細は【公式】有機化学ドリルにて!

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細