【プロ講師解説】難関大を目指す受験生から質問の多い酵素反応速度論。ミカエリス定数やミカエリス・メンテン式に関してきちんと習うのは大学に入ってからですが、高校生のうちにある程度学習しておいて損はありません。このページでは『酵素反応速度論/ミカエリス定数/ミカエリス・メンテン式など』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

反応速度

酵素(一覧・酵素基質複合体・基質特異性・最適温度・最適pHなど)でやったように、酵素反応は以下の二段階で進行する。

これに基づいて、酵素反応の速度式を導いていこう。

酵素(E)、基質(S)、酵素-基質複合体(ES)、生成物(P)が絡む各反応の速度定数をk1、k-1、k2とする。

\[
E + S \underset{k_{-1}}{\overset{k_{1}}{\rightleftarrows}} ES・・・①\\
ES \overset{k_{2}}{\rightarrow} E + P・・・②
\]

酵素(E)、基質(S)、酵素-基質複合体(ES)、生成物(P)の濃度をそれぞれ[E]、[S]、[ES]、[P]とする。

①におけるESの生成速度v1は次のようになる。

\[
v_{1}=k_{1}[E][S] \]

①におけるESの分解速度v-1は次のようになる。

\[
v_{-1}=k_{-1}[ES] \]

②におけるESの分解速度v2は次のようになる。

\[
v_{2}=k_{2}[ES] \]

よってESの分解の合計速度v3は次のようになる。

\[
v_{3}=v_{-1}+v_{2}=k_{-1}[ES]+k_{2}[ES]=(k_{-1}+k_{2})[ES] \]

「酵素」には基質と結合していない状態のEと結合している状態のESがあるから全酵素濃度を[E_{T}]とすると

\[
[E_{T}]=[E]+[ES]・・・③
\]

となる。

多くの酵素反応では①の平衡には瞬時に達する。(単純にくっつくか離れるかだけの話なので)
一方、②の反応は①に比べてかなり遅く、いわゆる律速段階となる。

※律速段階とは
反応が複数の段階を経て進むとき、その中で最も反応速度が遅い段階。この段階の反応速度によって全体の反応速度が決まる。(速度が律せられる)

通常、酵素反応は[E]<<[S]の条件で行う(触媒である酵素Eは少量で良い)ので、ESがE+Pに変化してもEは瞬時に過剰のSと反応してESとなる。従って、Sが過剰のとき、[ES]は一定となる。(定常状態:ESの生成と分解がつり合う状態)

このときv1=v3なので

\[
k_{1}[E][S]=(k_{-1}+k_{2})[ES]・・・④
\]

③と④から[E]を消去して、[ES]について解く。

④より

\[
[E]=\frac{ (k_{-1}+k_{2})[ES] }{ k_{1}[S] }
\]

これを③に代入すると

\[
\begin{align}
[E_{T}]&=\frac{ (k_{-1}+k_{2})[ES] }{ k_{1}[S] }+[ES] \\
&=\Biggl( \frac{ k_{-1}+k_{2}[ES] }{ k_{1}[S] }+1[ES] \Biggr) \\
&=\frac{ k_{-1}+k_{2}+k_{1}[S] }{ k_{1}[S] }[ES] \end{align}
\]

よって…

\[
\begin{align}
[ES]&=\frac{ k_{1}[S][E_{T}] }{ k_{-1}+k_{2}+k_{1}[S] } \\
&= \frac{ [S][E_{T}] }{ \frac{ k_{-1}+k_{2} }{ k_{1} }+[S] }\\
&=\frac{ [S][E_{T}] }{ K_{m}+[S] }\Biggl(ミカエリス定数K_{m=} \frac{ k_{-1}+k_{2} }{ k_{1} } \Biggr)
\end{align}
\]

以上より、Pの生成速度v2は以下のようになる。

\[
v_{2}=k_{2}[ES]=\frac{ k_{2}[S][E_{T}] }{ K_{m}+[S] }
\]

また、[E]<<[S]のとき、全ての酵素Eが基質Sと結合し、酵素-基質複合体ESを作っている。つまり、すべての酵素EがPの生成に関与している。
このとき、[ES]=[ET]が成立し、生成物Pの生成速度は最大値vmaxになる。

よって、v2=k2[ES] より

\[
v_{max}=k_{2}[E_{T}]\\
\begin{align} \therefore v_{2}&=\frac{ k_{2}[S][E_{T}] }{ K_{m}+[S] }\\
&=\frac{ v_{max}[S] }{ K_{m}+[S] } (ミカエリス・メンテンの式)
\end{align}
\]

これがミカエリス・メンテン式である。

以下、ミカエリス・メンテンの式及びミカエリス定数についてさらに詳しく解説していく。

[S]がKmよりも十分に小さいとき

[S]<<KmよりKm+[S]≒Kmなので…

\[
\begin{align} v_{2}&=\frac{ v_{max}[S] }{ K_{m}+[S] }\\
&≒\frac{ v_{max} }{ K_{m} }[S] \end{align}
\]

より、v2は[S]に比例する。

[S]がKmよりも十分に大きいとき

[S]>>KmよりKm+[S]≒[S]なので…

\[
\begin{align} v_{2}&=\frac{ v_{max}[S] }{ K_{m}+[S] }\\
&≒\frac{ v_{max}[S] }{ [S] }\\
&=v_{max}
\end{align}
\]

より、v2は[S]によらず一定(最大値)となる。

[S]=Kmのとき

\[
\begin{align} v_{2}&=\frac{ v_{max}[S] }{ K_{m}+[S] }\\
&≒\frac{ v_{max}K_{m} }{ K_{m}+K_{m} }\\
&=\frac{ v_{max} }{ 2 }
\end{align}
\]

普通k2はk1、k-1よりも十分小さいから

\[
\begin{align} K_{m}&=\frac{ k_{-1}+k_{2} }{ k_{1} }\\
&≒\frac{ k_{-1} }{ k_{1} }
\end{align}
\]

一方、

\[
E + S \underset{k_{-1}}{\overset{k_{1}}{\rightleftarrows}} ES
\]

において、ESの解離平衡定数をKsとすると

\[
\begin{align} K_{s}&=\frac{ [E][S] }{ [ES] }\\
&≒\frac{ k_{-1} }{ k_{1} }(\because v_{1}=v_{-1}よりk_{1}[E][S]=k_{-1}[ES])
\end{align}
\]

よって

\[
K_{m}≒K_{s}
\]

最後の式(Km≒Ks)から分かるのは、ミカエリス定数Kmの大きさと複合体ESの解離しやすさは一致するということである。複合体ESが酵素Eと基質Sに解離してしまうと、その分生成物Pが生じなくなる。つまり、ミカエリス定数Kmの大きさは酵素の触媒能力の指標になる。結論、Kmが小さいほど基質Sとの親和性が高く、触媒能力が高い酵素であるということである。

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著者プロフィール

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター

数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

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