【プロ講師解説】このページでは『アルケン(一般式の作り方・一覧・命名法・製法・付加反応など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
アルケンとは
アルケンとは、一般式CnH2nで表される、炭素炭素二重結合(C=C)を1つもつ鎖式不飽和炭化水素である。
アルケンは「アルカンからHが2つとれて二重結合を形成したもの」と考えることができる。
アルカンからHを2つ取るわけだから一般式がアルカンのCnH2n+2からHを2つ少なくしたCnH2nになるのも理解できるはず。
※アルカンについて詳しくはアルカン(一般式の作り方・一覧・命名法・製法・性質・置換反応など)を参照
アルケン一覧
n | 分子式 | 一般名 | 慣用名 |
---|---|---|---|
2 | C2H4 | エテン | エチレン |
3 | C3H6 | プロペン | プロピレン |
4 | C4H8 | ブテン | なし |
5 | C5H10 | ペンテン | なし |
6 | C6H12 | ヘキセン | なし |
高校で頻出のアルケンを表にするとこんな感じ。名称的はアルカンの語尾「〜アン」を「〜エン」にすればOK。
ちなみに、慣用名というのはルールに基づかない特殊な呼び方のこと。
アルケンの命名法
STEP1 | 主鎖の炭素C原子の数を数えて、ベースとなるアルケン名を決定する |
STEP2 | C=C結合を形成しているCの番号が最も小さくなるようにCに番号をふる |
STEP3 | 置換基がある場合はそれが何番目のCに付いているのかを確認する |
STEP4 | (置換基が付いているC番号)-(置換基名)-(二重結合のあるC番号)-(アルケン名)の順で名前をつける |
今回は例として次の3つを一気に説明していこう。
STEP1
まずは、主鎖のC原子の数を数えてベースとなるアルケン名を決定する。
①・②は主鎖の炭素数が4つなので「ブテン」、③は3つなので「プロペン」となる。
STEP2
次に、C=C結合を形成しているCの番号が最も小さくなるようにCに番号をふる。
STEP3
次に、置換基がある場合はそれが何番目のCに付いているのかを確認する。
今回の場合、③のアルケンの二番目の炭素にメチル基が付いている。
STEP4
最後に、(置換基が付いているC番号)-(置換基名)-(二重結合のあるC番号)-(アルケン名)の順で名前をつける。
①のアルケンは、一番目と二番目の炭素間に二重結合があるので「1-ブテン(若い方の炭素番号をつける)」、②のアルケンは二番目と三番目の炭素間に二重結合があるので「2-ブテン」、③のアルケンは一番目と二番目の炭素間に二重結合があり、かつ二番目のCにメチル基がくっついているので「2-メチル-1-プロペン」となる。
アルケンの製法


アルケンは主に、アルコールを脱水することで作られる。
例として「エタノールの脱水によるエチレンの生成反応」を確認しよう。
アルケンの反応①(付加反応)
・水H2Oの付加
・水素H2の付加
・ハロゲンX2付加
アルケンに特徴的な反応としてまずは付加反応について確認していこう。
ハロゲン化水素HXの付加


ハロゲン化水素HXのアルケンへの付加では、次のようにアルケンの二重結合のうち一本が切れ、HXのHとXが付加する。
PLUS+
大学受験ではこれだけ知っておけば十分だが、ここに関しては大学の有機化学ですぐに習う部分なので少し詳しく解説する。(余裕のある人以外は飛ばしてOK)
【基礎知識】有機化合物の結合と立体構造、回転などでやったように、アルケンのC=C結合を形成しているπ結合の電子対は、雲のように漂っている。
極性の大きなハロゲン化水素分子(ここでは塩化水素HClとする)がπ結合の電子対に接近すると、H+とCl–に分かれて二段階で付加が起こる。
塩化水素が酸としてH+を放出し、そのH+をπ結合の電子対が塩基として受け取り、塩化物イオンCl–を引きずり込んでいる。
水H2O付加


水H2Oのアルケンへの付加では、次のようにアルケンの二重結合のうち一本が切れ、H-OHのHとOHが付加する。
H2Oの付加には酸触媒である希硫酸やリン酸が必要である。
また、結果として生成するのはヒドロキシ基(-OH)を1つもつ炭化水素”アルコール”なので、この反応はアルコールの製法と考えることもできる。
アルコールについて詳しくはアルコール・エーテル(一覧・違い・命名法・製法・反応・性質など)を参照
PLUS+
H2O付加についても受験レベルはこれで十分。これ以降少しだけ詳しく解説する。
水はハロゲン化水素に比べて電離しにくいため、炭素炭素二重結合(C=C)に水を付加させる場合には酸触媒が必要となる。
希硫酸やリン酸のような酸性水溶液では、(水分子H2Oに酸由来のH+が付いてできた)オキソニウムイオンH3O+が存在するため、これが触媒として作用して次のような反応が起こる。
H3O+は再生するので触媒と考えることができる。
ちなみに、H3O+のような触媒を使わずにアルケンに水を加えても付加反応が起こることはないので注意しよう。
補足:マルコフニコフ則
アルケンへのハロゲン化水素HXや水H2Oの付加を考える際、少し注意しなければならないことがある。
プロピレン(CH3ーCH=CH2)へのH2Oの付加を例に説明していこう。
プロピレンにH2Oが付加すると二種類の物質が生成する。
1つは、Hが真ん中の炭素にくっついた「1-プロパノール」、もう1つはHとOHが逆にくっついた「2-プロパノール」である。
しかし、1-プロパノールと2-プロパノールは同じ量、つまり50%ずつできるという訳ではない。
Hが多く付いている炭素にHが結合する
マルコフニコフ則というルールによって、既にHが多く付いている方の炭素にHが、Hが少ない方の炭素にOHが付く。
したがって、今回の場合は2-プロパノールができる可能性の方が、1-プロパノールができる可能性よりも高いということになる。
結果として、2-プロパノールが主生成物(量が多い生成物)、1-プロパノールが副生成物(量が少ない生成物)となる。
※マルコフニコフ則について詳しくは【マルコフニコフ則】反応の原理を大学レベルまで踏み込んで解説を参照
水素H2付加


水素H2のアルケンへの付加では、次のようにアルケンの二重結合のうち一本が切れ、H-Hの2つのHが付加する。
この反応では触媒としてニッケルNi・パラジウムPd・白金Ptなどを用いる。
PLUS+
これについても反応の原理を少し詳しく解説しておこう。
ニッケルNi・パラジウムPd・白金Ptなどの金属触媒の表面に接触したH2はH-Hの共有結合が切れた状態で吸着し、付加反応が進行しやすくなる。
この反応は、接触還元と呼ばれている。
※還元反応について詳しくは酸化・還元の定義〜水素・酸素・電子の3パターン〜を参照
ハロゲンX2付加


ハロゲンX2のアルケンへの付加では、次のようにアルケンの二重結合のうち一本が切れ、X-Xの2つのXが付加する。
PLUS+
酸化剤・還元剤(違い・見分け方・例・一覧など)でやったように、ハロゲンの単体は酸化剤(電子e–を奪うもの)として働く。
X2+2e–→2X–
π電子を狙い、酸化剤であるX2が攻撃してくるので、付加反応が起こる。
無機化学の色まとめ(イオン/化合物(沈殿)/ハロゲンなど)にあるようにBr2の色は赤褐色であり、付加後Br2が無くなるため溶液は無色となる。
この反応は色の変化で確認しやすいためC=C結合やC≡C結合の検出反応として用いられる。
ちなみにこの反応の原理を詳しく図示すると次のようになる。(入試不要)
(二段階で反応が進む)
アルケンの反応②(付加重合)
アルカンは複数の分子が連続して付加反応を繰り返し、分子量の大きな“高分子”となることがある。
この反応を付加重合という。
二重結合のうち一本を切って、それぞれが外側と結合を作っている。
nというのは[]内のものが大量にあることを示しており、この状態になった化合物の名称には“ポリ”を付けることが多い。
※付加重合について詳しくは付加重合・共重合(ビニル系・ビニリデン系・テフロン・天然ゴムなど)を参照
アルケンの反応③(酸化開裂反応)
C=C結合をもつ化合物に強い酸化剤(オゾンO3・過マンガン酸カリウムKMnO4など)を加え、適切な条件下で反応させると、C=C結合が切断され、カルボニル基へと変化する。
この反応の生成物を見ると、元のアルケンの構造式を導き出すことができる。
例として、あるアルケンを強力な酸化剤で酸化したときに以下の化合物が得られたとする。
この場合、元のアルケンは…
このように推測することができる。
大学受験で頻出の知識ではないものの、稀に出題されることがあるので余裕がある人は覚えておくようにしよう。
アルケンに関する演習問題
一般式CnH2nで表される、炭素炭素二重結合(C=C)を1つもつ鎖式不飽和炭化水素を【1】という。
n | 分子式 | 一般名 | 慣用名 |
---|---|---|---|
2 | C2H4 | エテン | 【1】 |
3 | C3H6 | プロペン | 【2】 |
4 | C4H8 | 【3】 | なし |
5 | C5H10 | 【4】 | なし |
6 | C6H12 | 【5】 | なし |
アルケンは【1】を脱水することで作られる。
アルケンの二重結合のうち片方が切れ他の原子(団)が結合する反応を【1】という。
プロピレンに水H2Oが付加するとき、主生成物となるのは【1】である。
アルケンは複数の分子が連続して付加反応を繰り返し、分子量の大きな”高分子”となることがある。この反応を【1】という。【1】した物質は名前の先頭に【2】がつくことが多い。
関連:有機のドリルが、できました。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細