【プロ講師解説】このページでは『ハロゲン単体・ハロゲン化水素の性質・製法』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
ハロゲンの単体
②酸化力・還元力
③ハロゲン同士の反応
④水素との反応
⑤水との反応
⑥塩素の工業的製法:陽イオン交換膜法
⑦塩素の実験室的製法:酸化マンガン(Ⅳ)に濃塩酸を加えて加熱する
ハロゲン単体の重要ポイントは7つ。
①色・状態
色 | 状態 | |
---|---|---|
F2 | 淡黄色 | 気体 |
Cl2 | 黄緑色 | 気体 |
Br2 | 赤褐色 | 液体 |
I2 | 黒紫色 | 固体 |
ハロゲン単体の色と常温常圧時の状態は上の通り。
状態がフッ素と塩素で気体、臭素で液体、ヨウ素で固体になる理由を説明していこう。
分子量が異なると、それに伴ってファンデルワールス力にも違いが出てくる。
分子量が小さいと分子間の接触面積が小さいためお互いがお互いを引き合う力(=ファンデルワールス力)は小さくなる。
逆に分子量が大きいと接触面積も大きくなるため、ファンデルワールス力も大きくなる。
したがって、ハロゲンの単体の中で1番分子量の小さいF2のファンデルワールス力が最も小さく、分子量が大きくなるにつれてファンデルワールス力も大きくなっていく。
ここで、ファンデルワールス力と沸点・融点の関係を確認しておこう。
先ほどから述べているように、ファンデルワールス力は分子同士がお互いを引き合う力のこと。
したがって、この力が大きくなるほど分子同士がお互いを引き合っている、つまり、分子同士の結合が強いということになる。
結合が強い方が当然結合が切れにくく、固体から液体や気体になりづらい(=沸点・融点が高い)。
以上を考慮すると、ハロゲン単体の常温常圧時の状態が以下のようになるのが理解できるはず。
②酸化力・還元力
ハロゲン単体は酸化剤として働くことがあるが、このときの酸化力の強弱は次のような順になっている。
酸化剤としての強さは、電気陰性度の大小と深く関係している。
電気陰性度(表・覚え方・一覧・電子親和力との関係など)でやったように、電気陰性度とは電子を引っ張る強さのことだった。
したがって、電気陰性度が大きい方が相手のもつe–を引っ張る力が強い、つまり、相手のもつe–を奪いやすいということになる。
e–を奪われるというのは酸化されるということを意味するので、「電気陰性度が大きい=相手を酸化しやすい=酸化力が強い」となるわけである。
以上を考慮すると、ハロゲンの酸化力が下のようになるのが理解できるはず。
③ハロゲン同士の反応
問題
F2 + 2HCl →
Br2 + 2HCl →
ここまで紹介した知識を生かすとこの問題を解くことができる。
まず、上の式について考えてみよう。
FとClの電気陰性度を比べると、Fの方が大きい。したがって、Fの方が「酸化力=電子e–を奪う力」が強いということになる。
Fの方がe–を奪う力が強いのに、Fが分子でClがイオン(e–が多い状態)になっているのはおかしいので、F2がCl–からe–を奪って次のような反応が起こる。
F_{2}+2Cl^{-}→Cl_{2}+2F^{-}
\]
次に、下の式について考えてみよう。
BrとClの酸化力を比べると(より電気陰性度の大きい)Clの方が強い。
したがって、Br2がCl–からe–を奪い取ることはなく、反応は起こらない。
Br_{2}+2Cl^{-}→×
\]
④水素との反応
ハロゲン | 反応 |
---|---|
フッ素 | 低温・暗所でも爆発的に反応 |
塩素 | 常温でも光を当てることで爆発的に反応 |
臭素 | 高温で触媒を使うと反応 |
ヨウ素 | 高温で触媒を使うと一部が反応 |
ハロゲンの単体と水素H2との反応でも、ポイントは”酸化力”である。
F2は酸化力が高いため、低温や暗所であってもH2と爆発的に反応する。
H_{2} + F_{2} → 2HF
\]
また、F2の次に酸化力の強いCl2は(低温や暗所では難しいものの)常温で光を当てれば反応する。
H_{2} + Cl_{2} → 2HCl
\]
Br2やI2は酸化力が低いため、高温下で触媒を使う必要がある。
H_{2} + Br_{2} \overset{触媒}{→} 2HBr\\
H_{2} + I_{2} \overset{触媒}{→} 2HI
\]
⑤水との反応
ハロゲン | 反応 |
---|---|
フッ素 | 激しく反応する |
塩素 | 少し溶けて塩素水になる |
臭素 | 少し溶けて臭素水になる |
ヨウ素 | 溶けない |
先ほどから書いているように、フッ素は酸化力が極めて高いため、水H2Oとも激しく反応する。
2F_{2} + 2H_{2}O → 4HF + O_{2}
\]
塩素は、水に少しだけ溶けて塩素水となる。(塩素の一部はH2Oと次のように反応)
Cl_{2} + H_{2}O → HCl + HClO
\]
このとき、HClに含まれるClの酸化数は「-1」、HClOに含まれるClの酸化数は「+1」になっている。(酸化数について詳しくは酸化数(求め方・ルール・例外・例題・一覧・演習問題)を参照)
つまり、Cl2のうち、片方のClは酸化されていて、もう片方のClは還元されている。このような反応を自己酸化還元反応といい、詳しくは自己酸化還元反応(原理・例・反応式など)で解説しているので必ず確認しておこう。
また、このとき発生したHClOは酸化力があり、漂白・殺菌作用をもつということも併せて覚えておくとgood。
臭素も塩素同様に自己酸化還元反応を起こすが、その反応性は塩素より低い。
Br_{2} + H_{2}O → HBr + HBrO
\]
I2は常温常圧で固体であり、分子結晶を形成しているので基本的に水には溶けない。
ただし、ヨウ化カリウムKI水溶液ではI–と反応してI3–となり、褐色の溶液になって溶解する。
I^{-} + I_{2} ⇄ I_{3}^{-}(褐)
\]
⑥塩素の工業的製法:陽イオン交換膜法
塩素の単体Cl2を工業的に作る際は、NaOHの工業的製法である陽イオン交換膜法を用いる。
※陽イオン交換膜法について詳しくは【陽イオン交換膜法】水酸化ナトリウムの製法の仕組みや反応式などを参照
⑦塩素の実験室的製法:酸化マンガン(Ⅳ)に濃塩酸を加えて加熱する
塩素の単体Cl2を実験室内で作る際は、酸化マンガン(Ⅳ)MnO2に濃塩酸HClを加えて加熱する。
※この製法について詳しくは塩素の製法(洗気びんの順番の理由・覚え方など)を参照
ハロゲンの水素化物(ハロゲン化水素)
②沸点
③ハロゲン化物イオンと銀イオン
④カルシウムイオンとの反応
⑤フッ化水素酸の反応
⑥塩化水素の工業的製法:水素と塩素を反応させる
⑦塩化水素の実験室的製法:塩化ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱する
ハロゲンと水素から成る化合物をハロゲン化水素という。ハロゲン化水素の重要ポイントは7つ。
①酸としての強さ




ハロゲン化水素のうち、フッ化水素HFだけは弱酸、その他は強酸となっている。
②沸点
ハロゲン化水素の沸点をグラフにすると、次のようになる。
基本的に、ハロゲン化水素の沸点は分子量に比例する。
これは(単体のところでやったように)分子量の大きい方がファンデルワールス力が大きくなり、分子間の結合が切れにくくなるためである。
※フッ化水素だけは水素結合を形成するため沸点が異常に高くなっている点に注意しよう。
③ハロゲン化物イオンと銀イオン
Ag+ + Cl– → AgCl(白)
Ag+ + Br– → AgBr(淡黄)
Ag+ + I– → AgI(黄)
ハロゲン化物イオンと銀イオンの反応は、生成物の色が特徴的で出題されやすい。
※無機化学で頻出の色については無機化学の色まとめ(イオン/化合物(沈殿)/ハロゲンなど)を参照
④カルシウムイオンCa2+との反応
ハロゲン化物イオンのうち、フッ化物イオンのみCa2+と反応してフッ化カルシウムCaF2として沈殿する。
Ca^{2+} + 2F^{-} → CaF_{2}
\]
⑤フッ化水素酸HFの反応
フッ化水素HFの水溶液であるフッ化水素酸は、ガラス(主成分:SiO2)を溶解させる。
SiO_{2} + 6HF → H_{2}SiF_{6} + 2H_{2}O
\]
⑥塩化水素の工業的製法:水素と塩素を反応させる
塩化水素HClを工業的に作る際は水素H2と塩素Cl2を反応させる。
H_{2} + Cl_{2} → 2HCl
\]
⑦塩化水素の実験室的製法:塩化ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱する
塩化水素HClを実験室で作る際は塩化ナトリウムNaClに濃硫酸H2SO4を加えて加熱する。
NaCl + H_{2}SO_{4} → NaHSO_{4} + HCl
\]
この反応は揮発性酸遊離反応の一種である。
※揮発酸遊離反応について詳しくは揮発性酸遊離反応(原理・例・濃硫酸を使う理由など)を参照
ハロゲンのオキソ酸
ハロゲンでのオキソ酸で押さえておくべきは塩素のオキソ酸。
塩素酸を基準として、酸素が1コ多いものを過塩素酸、1コ少ないものを亜塩素酸、2コ少ないものを次亜塩素酸という。
酸としての強さは過塩素酸が最も高く、酸化力はいずれのオキソ酸ももっている。
※オキソ酸について詳しくはオキソ酸(例・酸化力・一覧・強さ・構造・酸化数など)を参照
ハロゲン・ハロゲン化水素に関する演習問題
色 | 常温常圧時の状態 | |
---|---|---|
F2 | 【1】色 | 【2】 |
Cl2 | 【3】色 | 【4】 |
Br2 | 【5】色 | 【6】 |
I2 | 【7】色 | 【8】 |
①F2 + 2HCl →
②Br2 + 2HCl →
F2,Cl2,Br2,I2のうち、低温や暗所であってもH2と爆発的に反応するのは【1】である。
F2,Cl2,Br2,I2のうち、水H2Oに溶けないのは【1】である。
塩素の単体Cl2を工業的に作る際は、NaOHの工業的製法である【1】を用いる。
ハロゲンと水素から成る化合物を【1】という。
ハロゲン化水素のうち【1】だけは弱酸、その他は強酸である。
ハロゲン化物イオンと銀イオンの反応は生成物の色が特徴的で、AgClは【1】色、AgBrは【2】色、AgIは【3】色である。
ハロゲン化物イオンのうち、【1】のみCa2+と反応して【2】として沈殿する。
フッ化水素の水溶液であるフッ化水素酸は、【1】(主成分:SiO2)を溶解させる。
HClを実験室で作る際は塩化ナトリウムNaClに【1】を加えて加熱する。
酸素O原子を含む酸を【1】という。塩素はこの【1】の種類が多く、塩素酸HClO3を基準として、酸素が1コ多いものを【2】、1コ少ないものを【3】、2コ少ないものを【4】という。酸としての強さは【5】が最も強い。
関連:無機のドリルが、できました。
無機化学の問題演習を行うための"ドリル"ができました。解答・解説編には大学入試頻出事項が網羅的にまとまっています。詳細は【公式】無機化学ドリルにて!

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細