【プロ講師解説】このページでは『酸化数(求め方・ルール・例題・演習問題など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
酸化数とは
酸化数とは、物質のもつ電子が基準よりも多いか少ないかを表した値である。
酸化された物質は、マイナスの電荷をもつ電子e–を失うためプラスに帯電する。電子e–を1つ失うと酸化数+1、2つ失うと酸化数+2となる。
対して、還元された物質は、マイナスの電荷をもつ電子e–を得るため、マイナスに帯電する。電子e–を1つ得ると酸化数−1、2つ得ると酸化数−2となる。
様々な原子の酸化数
原子の酸化数をどのように決定するのかについて具体的に説明していこう。
※全て電気陰性度を使って説明するので電気陰性度についてよく復習してから見るのがオススメ(参考:電気陰性度(表・覚え方・一覧・電子親和力との関係など))
単体の酸化数
単体の酸化数は0である。
単体の場合、2つの原子の電気陰性度に差がないため共有電子対は真ん中に存在する。
したがって、原子は電子e–を得ることも失うこともないため、酸化数は0となる。
化合物の酸化数
化合物全体の酸化数は0である。
化合物は異なる原子同士が結合してできており、原子の電気陰性度には当然差がある。
今回の化合物HClでは、共有電子対が電気陰性度の大きいClの方に引きつけられており、Clは電子e–を得ていると考えることができる。
しかし、化合物全体で電子e–の総数は変化していないため、化合物全体の酸化数は0となる。
単原子イオンの酸化数
単原子イオンの酸化数はそのイオンの電荷と等しくなる。
これは酸化数の定義が「電子e–が基準より多いか少ないかを表した値」であることを考えると当然である。
多原子イオンの酸化数
多原子イオンの酸化数については単原子イオンの酸化数と同様の考え方をすればいい。
構成する原子の酸化数の総和がイオンの価数と一致する。
水素H原子の酸化数
水素H原子は、他の非金属元素と比べると電気陰性度が小さいため、共有電子対が結合している相手の方に引きつけられ、酸化数は+1となる。
ただし、金属元素と比べると電気陰性度が大きいため、金属の水素化物の場合は共有電子対が水素H原子の方に引きつけられて酸化数は−1となる。
酸素O原子の酸化数
酸素O原子は電気陰性度が大きく、2組の共有電子対を自分の方に引きつけるため、酸化数は−2となる。
ただし、過酸化水素H2O2のような過酸化物(-O-O-構造をもつ)の場合、(片方の電子対しか引きつけないため)酸化数は−1となるので注意しよう。
アルカリ金属・二族元素の酸化数
アルカリ金属(水素以外の一族元素)や二族元素は電気陰性度が小さく、共有電子対が結合している相手の方に引きつけられているため、酸化数はそれぞれ+1、+2となる。
ハロゲンの酸化数
ハロゲンは電気陰性度が大きく、共有電子対を自身の方に引きつけるため、酸化数は−1となる。
酸化数の求め方・ルール
ここからは、実際の入試や定期テストでよく見られる「化合物中のある元素の酸化数を求める問題」の解き方を説明していこう。
【ベースのルール】
RULE1 | 単体の酸化数は0 |
RULE2 | 化合物全体の酸化数は0 |
RULE3 | イオン全体の酸化数は、その電荷に等しい |
1~3のうちどれか1つを必ず使う
【プラスのルール】
RULE1 | アルカリ金属 +1 2族元素 +2 |
RULE2 | 水素H原子 +1 |
RULE3 | 酸素O原子 -2 |
RULE4 | ハロゲン(ハロゲン化物中) -1 硫黄S原子(硫化物中) -2 |
状況に応じて1の方から優先的に使う
酸化数は上のルールに基づいて決定していく。
問題
まず、ベースのルールのRULE2より、CO2全体の酸化数は0である。
\underbrace{ CO_{2} }
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE3より、O原子の酸化数を-2とする。(今回はOが2つあるので(-2)×2になる)
\underbrace{ C
\underbrace{ O_{2} }
_{ (-2)×2 } }
_{ 0 }
\]
以上より、化合物全体の酸化数が0、O原子の酸化数の合計が-4なので、C原子の酸化数は「+4」となる。
\underbrace{ \underbrace{ C }
_{ +4 }
\underbrace{ O_{2} }
_{ (-2)×2 } }
_{ 0 }
\]
例題
問題
(1)H2O(O)
(2)CO2(C)
(3)NaHCO3(C)
(4)H2SO4(S)
(5)SO42-(S)
(1)H2O(O)
【ベースのルール】
RULE1 | 単体の酸化数は0 |
RULE2 | 化合物全体の酸化数は0 |
RULE3 | イオン全体の酸化数は、その電荷に等しい |
1~3のうちどれか1つを必ず使う
【プラスのルール】
RULE1 | アルカリ金属 +1 2族元素 +2 |
RULE2 | 水素H原子 +1 |
RULE3 | 酸素O原子 -2 |
RULE4 | ハロゲン(ハロゲン化物中) -1 硫黄S原子(硫化物中) -2 |
状況に応じて1の方から優先的に使う
まず、ベースのルールのRULE2より、H2O全体の酸化数は0である。
\underbrace{ H_{2}O }
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE2より、H原子の酸化数を+1とする。(今回はHが2つあるので(+1)×2になる)
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
O }
_{ 0 }
\]
以上より、化合物全体の酸化数が0、H原子の酸化数の合計が+2なので、O原子の酸化数は「-2」となる。
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
\underbrace{ O }
_{ -2 } }
_{ 0 }
\]
PLUS+
例として、H2O2中の酸素O原子の酸化数を考えていく。
まず、ベースのルールのRULE2より、H2O2全体の酸化数は0である。
\underbrace{ H_{2}O_{2} }
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE2より、H原子の酸化数を+1とする。(今回はHが2つあるので(+1)×2になる)
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
O_{2} }
_{ 0 }
\]
以上より、化合物全体の酸化数が0、H原子の酸化数の合計が+2なので、O原子1個の酸化数は「-1」となる。
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
\underbrace{ O_{2} }
_{ (-1)×2 } }
_{ 0 }
\]
(2)CO2(C)
【ベースのルール】
RULE1 | 単体の酸化数は0 |
RULE2 | 化合物全体の酸化数は0 |
RULE3 | イオン全体の酸化数は、その電荷に等しい |
1~3のうちどれか1つを必ず使う
【プラスのルール】
RULE1 | アルカリ金属 +1 2族元素 +2 |
RULE2 | 水素H原子 +1 |
RULE3 | 酸素O原子 -2 |
RULE4 | ハロゲン(ハロゲン化物中) -1 硫黄S原子(硫化物中) -2 |
状況に応じて1の方から優先的に使う
まず、ベースのルールのRULE2より、CO2全体の酸化数は0である。
\underbrace{ CO_{2} }
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE3より、O原子の酸化数を-2とする。(今回はOが2つあるので(-2)×2になる)
\underbrace{ C
\underbrace{ O_{2} }
_{ (-2)×2 } }
_{ 0 }
\]
以上より、化合物全体の酸化数が0、O原子の酸化数の合計が-4なので、C原子の酸化数は「+4」となる。
\underbrace{ \underbrace{ C }
_{ +4 }
\underbrace{ O_{2} }
_{ (-2)×2 } }
_{ 0 }
\]
(3)NaHCO3(C)
【ベースのルール】
RULE1 | 単体の酸化数は0 |
RULE2 | 化合物全体の酸化数は0 |
RULE3 | イオン全体の酸化数は、その電荷に等しい |
1~3のうちどれか1つを必ず使う
【プラスのルール】
RULE1 | アルカリ金属 +1 2族元素 +2 |
RULE2 | 水素H原子 +1 |
RULE3 | 酸素O原子 -2 |
RULE4 | ハロゲン(ハロゲン化物中) -1 硫黄S原子(硫化物中) -2 |
状況に応じて1の方から優先的に使う
まず、ベースのルールのRULE2より、NaHCO3全体の酸化数は0である。
\underbrace{ NaHCO_{3} }
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE1より、Na原子の酸化数を+1とする。
\underbrace{ \underbrace{ Na }
_{ +1 }
HCO_{3}}
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE2より、H原子の酸化数を+1とする。
\underbrace{ \underbrace{ Na }
_{ +1 }
\underbrace{ H }
_{ +1 }
CO_{3}}
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE3より、O原子の酸化数を-2とする。(今回はOが3つあるので(-2)×3になる)
\underbrace{ \underbrace{ Na }
_{ +1 }
\underbrace{ H }
_{ +1 }
C
\underbrace{ O_{3} }
_{ (-2)×3 } }
_{ 0 }
\]
以上より、化合物全体の酸化数が0、Na原子の酸化数が+1、H原子の酸化数が+1、O原子の酸化数の合計が-6なので、C原子の酸化数は「+4」となる。
\underbrace{ \underbrace{ Na }
_{ +1 }
\underbrace{ H }
_{ +1 }
\underbrace{ C }
_{ +4 }
\underbrace{ O_{3} }
_{ (-2)×3 } }
_{ 0 }
\]
(4)H2SO4(S)
【ベースのルール】
RULE1 | 単体の酸化数は0 |
RULE2 | 化合物全体の酸化数は0 |
RULE3 | イオン全体の酸化数は、その電荷に等しい |
1~3のうちどれか1つを必ず使う
【プラスのルール】
RULE1 | アルカリ金属 +1 2族元素 +2 |
RULE2 | 水素H原子 +1 |
RULE3 | 酸素O原子 -2 |
RULE4 | ハロゲン(ハロゲン化物中) -1 硫黄S原子(硫化物中) -2 |
状況に応じて1の方から優先的に使う
まず、ベースのルールのRULE2より、H2SO4全体の酸化数は0である。
\underbrace{ H_{2}SO_{4} }
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE2より、H原子の酸化数を+1とする。(今回はHが2つあるので(+1)×2になる)
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
SO_{4}}
_{ 0 }
\]
次に、プラスのルールのRULE3より、O原子の酸化数を-2とする。(今回はOが4つあるので(-2)×4になる)
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
S
\underbrace{ O_{4} }
_{ (-2)×4 } }
_{ 0 }
\]
以上より、化合物全体の酸化数が0、H原子の酸化数の合計が+2、O原子の酸化数の合計が-8なので、S原子の酸化数は「+6」となる。
\underbrace{ \underbrace{ H_{2} }
_{ (+1)×2 }
\underbrace{ S }
_{ +6 }
\underbrace{ O_{4} }
_{ (-2)×4 } }
_{ 0 }
\]
(5)SO42-(S)
【ベースのルール】
RULE1 | 単体の酸化数は0 |
RULE2 | 化合物全体の酸化数は0 |
RULE3 | イオン全体の酸化数は、その電荷に等しい |
1~3のうちどれか1つを必ず使う
【プラスのルール】
RULE1 | アルカリ金属 +1 2族元素 +2 |
RULE2 | 水素H原子 +1 |
RULE3 | 酸素O原子 -2 |
RULE4 | ハロゲン(ハロゲン化物中) -1 硫黄S原子(硫化物中) -2 |
状況に応じて1の方から優先的に使う
まず、ベースのルールのRULE3より、SO42-全体の酸化数は-2である。
\underbrace{ SO_{4}^{2-} }
_{ -2 }
\]
次に、プラスのルールのRULE3より、O原子の酸化数を-2とする。(今回はOが4つあるので(-2)×4になる)
\underbrace{ S
\underbrace{ O_{4}^{2-} }
_{ (-2)×4 } }
_{ -2 }
\]
以上より、イオン全体の酸化数が-2、O原子の酸化数の合計が-8なので、S原子の酸化数は「+6」となる。
\underbrace{ \underbrace{ S }
_{ +6 }
\underbrace{ O_{4}^{2-} }
_{ (-2)×4 } }
_{ -2 }
\]
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細