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鉄の単体・化合物の性質や特徴・製法・イオンの色など
目次
はじめに
【プロ講師解説】このページでは『鉄の単体・化合物の性質や特徴・製法・イオンの色など』について解説しています。
鉄の単体
- 鉄の単体には次の特徴がある。
●鉄Feの単体の特徴
- 地殻中に多く存在する
- イオン化傾向が比較的大きい
- 不動態を形成する
- 合金に含まれる
- 工業的製法
❶ 地殻中に多く存在する
- 鉄Feは地殻中に多く存在する(金属元素の中でアルミニウムAlに次いで2番)。
クラーク数
- 地球から10マイル(約16km)までの範囲における元素の存在率(質量パーセント濃度)をクラーク数という。
- クラーク数を一覧で示すと次のようになる。
元素 | クラーク数 |
---|---|
O | 49.5 |
Si | 25.8 |
Al | 7.56 |
Fe | 4.70 |
Ca | 3.39 |
Na | 2.63 |
K | 2.40 |
Mg | 1.93 |
H | 0.87 |
Cl | 0.19 |
クラーク数上位5つの元素(O・Si・Fe・Ca・Na)は『おっしゃってるかな』のゴロで覚えましょう。
❷ イオン化傾向が比較的大きい
- 鉄Feはイオン化傾向が比較的大きい。
❸ 不動態を形成する
- 金属が酸化物の膜で覆われて溶けることができなくなった状態を不動態という。
- 鉄は濃硝酸NHO3と反応して不動態を形成する。
- 鉄の他にもニッケルNi・アルミニウムAl・クロムCr・コバルトCoなどの金属も不動態を形成する。
❹ 合金に含まれる
- 鉄を含む合金として、ステンレス鋼が有名である。
- ステンレス鋼は鉄の他にクロム Cr・ニッケルNiを含む合金であり、さびにくいためキッチンの流し台などに用いられる。
参考:めっき・合金一覧
❺ 工業的製法
- 鉄は工業的に、鉄鉱石(主成分:Fe2O3)を原料としてつくられる。
- 鉄の工業的製法について詳しくは次のページを参照のこと。
鉄のイオン
- 鉄のイオンには、鉄(Ⅱ)イオンFe2+と鉄(Ⅲ)イオンFe3+の2種類が存在する。
- これらのイオンには、次の特徴がある。
鉄(Ⅱ)イオンFe2+ | 鉄(Ⅲ)イオンFe3+ | |
---|---|---|
❶ イオンの色 | 淡緑色 | 黄褐色 |
❷ 酸化剤を加える | 黄褐色へ | 変化なし |
❸ OHーを加える | Fe(OH)2(緑白↓) | 水酸化鉄(Ⅲ)(赤褐↓) |
❹ チオシアン酸カリウムKSCNを加える | 変化なし | 血赤色溶液 |
❺ ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウムK3[Fe(CN)6]を加える | 濃青色↓ | (赤褐色液) |
❻ ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムK4[Fe(CN)6]を加える | (青白色沈殿) | 濃青色↓ |
❶ イオンの色
- 鉄(Ⅱ)イオンFe2+は淡緑色、鉄(Ⅲ)イオンFe3+は黄褐色である。
❷ 酸化剤を加える
- 酸化還元反応において、Fe2+は還元剤として、Fe3+は酸化剤としてはたらく。
\[ \mathrm{Fe^{2+}→Fe^{3+}+e^{-}} \]
❸ OHーを加える
- Fe2+を含む水溶液に塩基(水酸化ナトリウムNaOH水溶液やアンモニアNH3水)を加えると、緑白色の水酸化鉄(Ⅱ)Fe(OH)2が生じる。
\[ \mathrm{Fe^{2+}+2OH^{-}}→\underbrace{ \mathrm{Fe(OH)_{2}} }
_{ \text{ 緑白色 }} \]
- 一方、Fe3+を含む水溶液に塩基を加えると、赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)Fe(OH)3が生じる。
\[ \mathrm{Fe^{3+}+3OH^{-}}→\underbrace{ \mathrm{Fe(OH)_{3}} }
_{ \text{ 赤褐色 }} \]
- なお、Fe(OH)2、Fe(OH)3ともに、過剰のNaOH水溶液、NH3水に溶解しない。
Fe(OH)2の色について
- Fe(OH)2は本来白色である。
- しかし、Fe(OH)2は水溶液に含まれる酸素によって容易に酸化され、Fe(OH)3に変化する。
\[ \mathrm{Fe(OH)_{2}+O_{2}+2H_{2}O→4Fe(OH)_{3}} \]
- したがって、Fe(OH)3との混合物となるため、緑白色にみえる。
❹ チオシアン酸カリウムKSCNを加える
- Fe3+を含む水溶液にチオシアン酸カリウムKSCN水溶液を加えると、血赤色の錯イオン[Fe(SCN)n]3-n(n=1~6)を生じる。
- この反応はFe3+の検出反応として用いられる。
❺ ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウムK3[Fe(CN)6]を加える
- Fe2+を含む水溶液にヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウムK3[Fe(CN)6]水溶液を加えると、濃青色の沈殿であるKFe[Fe(CN)6]が生じる。
- この反応はFe2+の検出反応として用いられる。
❻ ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムK4[Fe(CN)6]を加える
- Fe3+を含む水溶液にヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムK4[Fe(CN)6]水溶液を加えると、濃青色の沈殿であるKFe[Fe(CN)6](④と同じ)が生じる。
- この反応はFe3+の検出反応として用いられる。
鉄の酸化物
- 鉄の代表的な酸化物として酸化鉄(Ⅱ)FeO・四酸化三鉄Fe3O4・酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3がある。
- 各酸化物中の鉄原子の酸化数は次の通りである。
●FeO・・・+2
●Fe2O3・・・+3
●Fe3O4・・・+2、+3
- Fe3O4にはFe2+とFe3+が1:2の割合で含まれる(物質量比)。このような酸化物を複合酸化物という。
赤さび
- 酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3は鉄を湿った空気中で酸化させて生じる、鉄の”赤さび“の主成分である。
- 赤さびは多量の水分を含み、またキメが粗く鉄表面に密着しない。加えて、空気中の水や酸素を吸着するため、鉄内部までさびが進行しやすい。
- これを防ぐために、鉄はメッキを施されることがある。
参考:【鉄メッキ】ブリキとトタン(違い・イオン化傾向に基づく錆びやすさの理由など)
- なお、純粋なFe2O3は赤褐色の粉末であり、赤色顔料・研磨剤(べんがら)として用いられる。
黒さび
- 四酸化三鉄Fe3O4は鉄に高温の水蒸気を吹きつけたときや、バーナーで焼いたときに生じる、鉄の”黒さび“の主成分である。
\[ \mathrm{3Fe+4H_{2}O→Fe_{3}O_{4}+4H_{2} }\]
- 黒さびは磁性をもつ。
- また、赤さびと異なり鉄の表面に密着するため、内部までさびが浸透しにくい。
- なお、Fe3O4はアンモニアの工業的製法であるハーバー法(ハーバー・ボッシュ法)の触媒として用いられる。ハーバー法について詳しくは次のページを参照のこと。