【プロ講師解説】このページでは『限界イオン半径比(定義・求め方・配位数との関係など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
イオン結晶の安定性
下図(a)のように、陽イオンの半径が一定以上の大きさのときは、陰イオン同士は接触しておらず、結晶は安定して存在している。下図(b)のように、陰イオン同士が接触した状態では、結晶はギリギリ安定している。下図(c)のように、陽イオンと陰イオンが接触していない状態では、陰イオン同士が非常に強く反発してしまうため、結晶は不安定になる(存在することができない)。
限界イオン半径比とは
イオン結晶が上図(b)のような“安定ギリギリ”の状態にあるときの陽イオン半径r+と陰イオン半径r–との比を限界イオン半径比という。
\frac{ r^{+} }{ r^{-} }
\]
限界イオン半径比と配位数
各イオン結晶の配位数と限界イオン半径比を一覧で示すと次のようになる。
イオン結晶 | 配位数 | 限界イオン半径比 |
---|---|---|
塩化ナトリウム(NaCl)型構造 | 6 | 0.41〜0.73 |
塩化セシウム(CsCl)型構造 | 8 | ≧0.73 |
硫化亜鉛(ZnS)型構造 | 4 | ≦0.41 |
イオン結晶の限界イオン半径比の範囲外になると、そのイオン結晶は不安定となり、配位数の異なる違う結晶構造に変化する。このように、温度や圧力の変化により、結晶構造が変化する現象を相転移という。
限界イオン半径比の求め方
イオン結晶の代表である「塩化ナトリウム型構造(NaCl型構造)」と「塩化セシウム型構造(CsCl型構造)」の限界イオン半径比の求め方を解説していこう。
塩化ナトリウム型構造の限界イオン半径の求め方
塩化ナトリウム型構造(NaCl型構造)の単位格子を横から見ると下図のようになる。
上図(b)の「安定ギリギリ」の状態で陽イオン・陰イオンの半径をそれぞれr+・r–とおく。△ABCに着目すると、AC=√2×ABなので…
\begin{align}
2(r^{+}+r^{-})&=\sqrt{ 2 }×2r^{-}\\
↔︎ \frac{ r^{+}+r^{-} }{ r^{-} } &=\sqrt{ 2 } \\
↔︎ \frac{ r^{+}}{ r^{-} } &=\sqrt{ 2 }-1 \geqq 0.41 \\
\end{align}
\]
塩化ナトリウム型構造(NaCl型構造)の限界イオン半径比は≧0.41となる。
塩化セシウム型構造の限界イオン半径の求め方
塩化セシウム型構造(CsCl型構造)の単位格子を対角線で切り取ると下図のようになる。
上図(b)の「安定ギリギリ」の状態で陽イオン・陰イオンの半径をそれぞれr+・r–とおく。△ABCに着目すると、AC=√3×ABなので…
\begin{align}
2(r^{+}+r^{-})&=\sqrt{ 3 }×2r^{-}\\
↔︎ \frac{ r^{+}+r^{-} }{ r^{-} } &=\sqrt{ 3 } \\
↔︎ \frac{ r^{+}}{ r^{-} } &=\sqrt{ 3 }-1 \geqq 0.73 \\
\end{align}
\]
塩化セシウム型構造(CsCl型構造)の限界イオン半径比は≧0.73となる。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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