【プロ講師解説】このページでは『原子の大きさとクーロン力や周期表(族・周期)との関係』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

イオンの大きさ〜縦(族)で比較〜

まずは、同族(縦の列が同じ)のイオンの大きさを比べていく。

今回は例として、一族元素のリチウムイオンLi+とナトリウムイオンNa+を用いる。

リチウムイオンLi+とナトリウムイオンNa+の電子殻を比較すると、リチウムイオンLi+はK殻までなのに対し、ナトリウムイオンNa+はL殻まで存在する。
したがって、殻が一周多い分ナトリウムイオンNa+の方がリチウムイオンLi+よりも大きくなっている。

PLUS

こういった疑問を持つ人がいると思う。

「確かに下に行くほど電子殻が増えてイオンが大きくなっていってるんだけど、下に行くほど陽子の数も増えてくからより電子が内側に引きつけられて小さくもなるんじゃないの?」

これはイオンの大きさを変える要因としての優先順位が「電子殻が増えること」の方が「陽子が増えること」よりも高いと考えてくれればいい。つまり、陽子が増えるのは電子殻が増えるのに比べたらたいしたことじゃないということだね。

イオンの大きさ〜横(周期)で比較〜

次に、同周期(横の列が同じ)のイオンの大きさを比べてみよう。

まずは例としてマグネシウムイオンMg2+と塩化物イオンClを使って考えていく。

マグネシウムイオンMg2+と塩化物イオンClの電子配置は上図のようになる。マグネシウムイオンMg2+はネオン原子Neと、塩化物イオンClはアルゴン原子Arと電子配置が一緒になっている。見てわかるように、塩化物イオンの方が電子殻が一周多くなっているので大きさとしては塩化物イオンClの方が大きいということになる。

ちなみに、マグネシウム”原子”と塩素”原子”の大きさを比べると、同周期の中で原子番号が大きく陽子の数が多い塩素原子の方が小さくなるので注意しよう。(原子の大きさについて詳しくは原子の大きさ(比較・クーロン力や周期表、族、周期との関係など)を参照)

また、今は偶然電子殻の数が異なるイオンの比較だったが、同周期で電子殻の数が変わらない場合は「陽子の数」を軸に考える必要がある。

ナトリウムイオンNa+とマグネシウムイオンMg2+は電子配置は全く同じ、希ガスのネオンNeの電子配置である。両者の陽子の数を比較すると、原子番号の1つ大きいマグネシウムの方が多い。
したがって、マグネシウムの方が電子をより内側に引きつけているのでイオンの大きさは小さくなる。

イオンの大きさまとめ

上の解説を読んでわかったと思うが、イオンの大きさは原子の大きさのように「族なら左より右の方が〜」とか「周期なら下に行くにしたがって〜」のような単純な規則性はない。したがって、比較するイオンによって1つ1つ考える必要がある。
以下に考え方のステップをまとめておくのでぜひ覚えておこう。

STEP1 イオンの電子殻に注目する
STEP2 【電子殻の数が異なる場合】
→イオンの大きさは電子殻の数で決まる
電子殻が多いイオン>電子殻が少ないイオン

【電子殻の数が同じ場合】
→イオンの大きさは原子番号(陽子数)で決まる
原子番号が小さいイオン>原子番号が大きいイオン

Point!

演習問題

問1

フッ化物イオンFと塩化物イオンClでよりイオンの大きさが大きいのはどちらか。
【問1】解答/解説:タップで表示
解答:塩化物イオンCl

フッ化物イオンFと塩化物イオンClの電子殻を見ると、塩化物イオンClの方が一周多くなっている。
したがって、イオンの大きさが大きいのは塩化物イオンClである。

問2

フッ化物イオンFとナトリウムイオンNa+でよりイオンの大きさが大きいのはどちらか。
【問2】解答/解説:タップで表示
解答:フッ化物イオンF

フッ化物イオンFとナトリウムイオンNa+の電子配置はともに希ガスであるネオン原子Neの電子配置と同じである。
したがって、陽子数で大きさを比較する必要がある。フッ素の陽子数とナトリウムの陽子数ではナトリウムの方が多いので、より電子を内側に引きつけるナトリウムイオンNa+の方がイオン半径(イオンの大きさ)が小さくなる。

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著者プロフィール

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター

数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

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