【プロ講師解説】このページでは『極性(具体例・分子の形との関係・求め方・打ち消しなど)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
分子の形
分子の形を考える際のポイント
②非共有電子対も共有電子対と同様に扱う
分子の形を考えるときに大切になるポイントは上の2つ。実際に例を見ながら確認していこう。
メタン
メタンCH4は真ん中の炭素C原子が4対の電子対をもつ。これらができるだけ離れようとするので、分子の形は正四面体となる。
三フッ化ホウ素
三フッ化ホウ素BF3は真ん中のホウ素B原子が3対の電子対をもつ。これらができるだけ離れようとするので、分子の形は正三角形になる。
二酸化炭素
二酸化炭素CO2は真ん中の炭素C原子が2組の電子対をもつ。(二重結合や三重結合も1組と考える)
これらが出来るだけ離れようとするので、分子の形は直線形になる。
アンモニア
アンモニアNH3は真ん中の窒素N原子がHとの間に3組の電子対をもつ。また1組の非共有電子対をもつ。これらが出来るだけ離れようとするので、全体が正四面体になる。しかし、分子の形はあくまでNとHの位置関係で考えるので、分子の形は三角錐形となる。
水
水H2Oは真ん中の酸素O原子がHとの間に2組の電子対をもつ。また2組の非共有電子対をもつ。これらが出来るだけ離れようとするので、全体が正四面体になる。しかし、アンモニア同様分子の形はあくまでOとHの位置関係で考えるので、分子の形は折れ線形となる。
極性と電気陰性度
異なる種類の原子が共有結合すると、共有電子対は電気陰性度が大きい原子の方へ引きつけられる。
塩化水素HClの場合、共有電子対は電気陰性度のより大きなCl原子の方へ引きつけられる。その結果、Cl原子は負(δ–)に、H原子は正(δ+)に帯電する。このように、原子間の電気陰性度の差によって生じる電荷の偏りを極性といい、極性をもつ分子を極性分子という。
一方、塩素分子Cl2のように同じ種類の原子同士が結合すると、電気陰性度に差がないため共有電子対は2つのCl原子のちょうど真ん中に存在する。そのため極性は生じておらず、このように極性をもたない分子を無極性分子という。
極性の打ち消し
ここまでの説明を読んでこのように思った人がいるかもしれない。
「極性の理由が電気陰性度なら、ほとんど全ての分子に極性が生じているんじゃない?」
だいたいの分子は違う原子同士がつながっているから、こう思う人が多いのは当然。しかし「ある2つの原子間で極性が生じていても、分子全体でみたら極性がない」という場合が存在する。二酸化炭素(O=C=O)を例に説明しよう。
二酸化炭素
二酸化炭素の「C」と「O」の電気陰性度には差があるため、2原子間で極性が生じるのは間違いない。しかし、二酸化炭素の分子中にC=O結合が2つあることに注目しよう。同じ結合が左右対称に存在するため「電気的な偏りが左右で打ち消されてしまう」んだ。その結果、CとOの間に極性は生じるものの、分子全体では無極性ということになる。
他にもメタンCH4や三フッ化ホウ素BF3などの分子は分子全体で無極性になっている。
メタン
CとHの電気陰性度を比較するとCの方が大きいため原子間で極性が生じる。しかし、CH4の形は正四面体形であり、したがって分子全体では無極性となる。
三フッ化ホウ素
BとFの電気陰性度を比較するとFの方が大きいため原子間で極性が生じる。しかし、BF3の形は正三角形であり、したがって分子全体では無極性となる。
一方、水H2O、アンモニアNH3の場合は極性が打ち消されない。
水
H原子とO原子の電気陰性度を比較すると、Oの方が大きい。したがって、原子間に極性を生じている。またH2Oは分子の形が折れ線形なので、分子全体で極性を打ち消すことができない。したがって、H2Oは極性分子である。
アンモニア
アンモニアNH3も極性分子。N原子とH原子の電気陰性度を比較すると、Nの方が大きいため原子間に極性が生じており、NH3の形は三角錐形なので極性を打ち消すことはできない。
極性と分子の形まとめ
形 | 極性 | |
---|---|---|
メタン | 正四面体 | なし |
三フッ化ホウ素 | 正三角形 | なし |
二酸化炭素 | 直線形 | なし |
アンモニア | 三角錐形 | あり |
水 | 折れ線形 | あり |
極性に関する演習問題
同じ原子同士の共有結合では、共有電子対は両原子の真ん中に存在している。一方、異なる原子同士の共有結合では、共有電子対は【1】の大きい原子の方に偏って存在している。このような結合内での電荷の偏りを【2】といい、分子内に【2】がある分子を【3】、【2】がない分子を【4】という。
二酸化炭素の「C」と「O」の電気陰性度には差があるため、2原子間で【1】が生じる。しかし、二酸化炭素の分子中にC=O結合は【2】つあり、同じ結合が左右対称に存在するため電気的な偏りが左右で打ち消される。その結果、CとOの間に【1】が生じるものの、分子全体では【3】ということになる。また、Cにくっついている2つのOは左右対称であるため、1つのCと2つのOは全て一直線上に並ぶ。したがって、二酸化炭素分子の形は【4】形となる。
水の酸素原子には2組の【1】が存在する。【1】を形成している電子は「(共有結合に使われている電子に比べて)かなり広範囲を動き回る」という性質をもつ。それ故、非共有電子対によってO-H結合が押されて曲がった形(=【2】形)になる。また、水にはHとOの結合が2つあるものの、【2】形であり、その2つが直線上に並んでいるわけではないので電荷の偏りが打ち消されずに【3】分子となる。
メタンは1つの炭素原子に【1】つの水素原子が結合してできている。
点線はHが奥にいっていて、太い線はHが手前に飛び出ていることを示している。この形は【2】形といい、Cから4方向均等にHが出ている状態である。CとHは電気陰性度が異なるので、当然【3】が生じているが、4つの方向に均等に結合があるため【3】は打ち消され、分子全体としては【4】となる。
アンモニアは、1つのN原子に【1】つのH原子が結合している。メタン同様、3つの原子が3方向均等に出ていれば【2】は打ち消されるが、アンモニアはそのようにはなっていない。つまり、アンモニアには【3】が1つ存在するため、N-H結合が全体的に下方向に押され、【2】が打ち消されることはない。結果として、アンモニア分子の形は【4】形となる。
極性 | 形 | |
---|---|---|
塩化水素 | 【1(ありorなし)】 | 【2】 |
二酸化炭素 | 【3(ありorなし)】 | 【4】 |
水 | 【5(ありorなし)】 | 【6】 |
メタン | 【7(ありorなし)】 | 【8】 |
アンモニア | 【9(ありorなし)】 | 【10】 |
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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