【プロ講師解説】このページでは『遷移元素「銀・金・白金・クロム・マンガン・コバルト・チタン」の単体・化合物の性質や製法など』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
※ここでは銅と鉄以外の遷移元素について説明していく。銅や鉄・遷移元素全体に関する事項については、以下のページを参照しよう。
銀Ag
単体
銀Agは、金属単体の中で熱・電気伝導性が最大である。
また当然、展性や延性など金属として基本的な性質ももっている。
酸化物
銀Agの酸化物に過剰のNH3aqを反応させると、錯イオンが生成する。
Ag_{2}O(褐色)\overset{過剰のNH_{3}aq}{→} [Ag(NH_{3})_{2}]^{+}
\]
※錯イオンについて詳しくは【錯イオン】色・配位数・形・価数・命名法を総まとめを参照
また、酸化物が生成するときの反応は次の通り。
Ag^{+} \underset{少量のNH_{3}aq}{\overset{NaOHaq}{\longrightarrow}} Ag_{2}O(褐色)
\]
銀イオンAg+に少量の塩基を加えると、褐色の酸化銀Ag2Oの沈殿が生成する。
具体例として、硝酸銀AgNO3と水酸化ナトリウムNaOHの反応をチェックしておこう。
2AgNO_{3} + 2NaOH → Ag_{2}O + 2NaNO_{3} + H_{2}O
\]
塩
銀を含む塩の中で覚えておきたいのは硝酸銀AgNO3と臭化銀AgBr(を含めたハロゲン化銀)である。
AgNO3水溶液は光で分解してしまうため褐色ビンに入れて保存する。
AgBrやAgClなどのハロゲン化銀は感光性をもっており写真のフィルムなどに用いられる。(ハロゲン化銀が絡んだ写真の原理については写真の現像(ハロゲン化銀の利用)を参照)
金Au
化学的性質
金Auの単体は、イオン化傾向が非常に小さく、化学的に安定である。
したがって、王水(濃HNO3:濃HCl=1:3)でしか溶かすことができない。
物理的性質
金の単体は、展性と延性が極めて大きい。
したがって、加工しやすく多くの装飾品に使われている。
※展性・延性について詳しくは金属結合(例・強さ・自由電子の役割など)を参照
白金Pt
白金Ptは金と同様、イオン化傾向が小さく安定している。
したがって、白金の単体を溶かすときにも王水が必要となる。
また、白金は工業用の触媒として使われるケースが多い。
特にオストワルト法の第一段階で利用されていることは頻出なのでしっかり押さえておこう。
※オストワルト法について詳しくは硝酸の工業的製法「オストワルト法」(触媒・覚え方・仕組み・反応式など)を参照
クロムCr
単体
クロムの単体は、不動態を作りやすく濃硝酸で溶かすことができない。(不動態について詳しくは不動態(覚え方・ゴロ・原理など)を参照)
また、クロムを含む合金としてステンレス鋼というものが知られている。
この合金は、鉄FeとクロムCrとニッケルNiからできており非常にさびにくく、キッチンなどに利用されている。
※合金について詳しくはめっき・合金一覧を参照
イオン・化合物
二クロム酸カリウム K2Cr2O7
クロムの化合物で覚えておくべきは、クロム酸カリウムK2CrO4と二クロム酸カリウムK2Cr2O7の2つ。
クロム酸カリウムK2CrO4
・水溶液の色(CrO42-の色)も黄色
クロム酸カリウムK2CrO4に関して、上のポイントを押さえておこう。
K2CrO4は黄色の結晶で、水溶液の色(=K2CrO4が電離して発生したCrO42-の色)も黄色である。
二クロム酸カリウムK2Cr2O7
・水溶液の色(Cr2O72-の色)も赤橙色
K2Cr2O7は赤橙色の結晶で、水溶液の色(=K2Cr2O7が電離して発生したCr2O72-の色)も赤橙色である。
また、K2Cr2O7は強力な酸化剤として働く、ということも知っておく必要がある。
Cr_{2}O_{7}^{2-}(赤橙) + 14H^{+} + 6e^{-} → 2Cr^{3+}(緑) + 7H_{2}O
\]
Cr2O72-は赤橙色であるのに対し、このとき生成するCr3+は緑色である。
ちなみにこのイオン反応式は”半反応式”と呼ばれるもので半反応式・酸化還元反応式(作り方・覚え方・問題演習など)のページにある手順に従って作ることができる。まだ知らなかったら確認しておこう。
CrO42-とCr2O72-の平衡反応


水溶液の液性が酸性に傾くと、CrO42-がCr2O72-に、塩基性に傾くとCr2O72-がCrO42-になる。
これは、ルシャトリエの原理によって説明することができる。
CrO_{4}^{2-}(黄)+ H^{+} ⇄ Cr_{2}O_{7}^{2-}(赤橙) + OH^{-}
\]
水溶液を酸性にするということは上の式のH+が増えるということ。
H+が増えると(ルシャトリエの原理により)H+を減らす方向に平衡が移動するので…
CrO_{4}^{2-}(黄) + H^{+} → Cr_{2}O_{7}^{2-}(赤橙) + OH^{-}
\]
結果的にCr2O72-が増えることになる。
また、Cr2O72-の色は赤橙色なので水溶液の色も当然赤橙色に変化する。
反対に、水溶液の液性を塩基性にしていくとOH–が増えるので平衡は左側に移動する。
CrO_{4}^{2-}(黄) + H^{+} ← Cr_{2}O_{7}^{2-}(赤橙) + OH^{-}
\]
結果として、 CrO42-が増えるので水溶液の色は黄色となる。
マンガンMn
酸化マンガン(Ⅳ) MnO2
マンガンに関しては過マンガン酸カリウムKMnO4と酸化マンガン(Ⅳ)MnO2の性質を知っておけば問題ない。
過マンガン酸カリウムKMnO4
過マンガン酸カリウムKMnO4の水溶液は赤紫色で、強力な酸化剤として働く。
ただし、酸性下では淡桃色(薄ピンク色)のMn2+になるのに対して、中性・塩基性下では黒色のMnO2が生成する。
酸性下:MnO_{4}^{-} + 8H^{+} + 5e^{-} → Mn^{2+} + 4H_{2}O\\
塩基性下:MnO_{4}^{-} + 4H^{+} + 3e^{-} → MnO_{2} + 2H_{2}O
\]
酸化マンガン(Ⅳ)MnO2
酸化マンガン(Ⅳ)MnO2は酸化剤として働く場合と触媒として働く場合がある。
酸化剤
酸性下では、酸化マンガンは酸化剤として働く。
例として、MnO2とHClによるCl2の発生反応を見てみよう。
MnO_{2} + 4HCl → MnCl_{2} + Cl_{2} + 2H_{2}O
\]
触媒
酸化マンガンは、”触媒”として過酸化水素H2O2や塩素酸カリウムKClO3の分解を促進し、O2を発生させる。
2H_{2}O_{2} → O_{2} + 2H_{2}O\\
2KClO_{3} → 3O_{2} + 2KCl
\]
これらの反応含め、気体の製法については覚えておく必要がある。
詳しくは気体の製法(反応式・原理・注意事項など)を参照
コバルトCo
塩化コバルト(Ⅱ)CoCl2無水物は水分を吸収すると青色から淡赤色に変化する。
CoCl_{2}(青色)\overset{水}{→}CoCl_{2}・6H_{2}O(淡赤色)
\]
したがって、硫酸銅と同様に水分の検出に用いられる。
チタンTi
光を吸収して触媒作用を示す物質を光触媒という。
白色顔料として用いられるチタンの酸化物酸化チタン(Ⅳ)TiO2は有名な光触媒である。
TiO2は紫外線を吸収すると表面に付着した水分子を酸化し、反応性の高いヒドロキシラジカルと呼ばれる粒子が生じる。
ヒドロキシラジカルは汚れの原因となる有機化合物から電子を奪い酸化分解するのでTiO2の表面は綺麗な状態に保たれる。
遷移元素に関する演習問題
3〜11族の元素を【1】といい、全て【2(金属or非金属)】元素である。
銀の単体は数ある金属元素の中で【1】が最大である。
銀イオンAg+に少量の塩基を加えると【1】の褐色沈殿が生成する。また、【1】に過剰のNH3aqを反応させると錯イオンである【2】が生成する。
硝酸銀AgNO3水溶液は光で分解するため【1】に入れて保存する。
金・白金の単体はイオン化傾向が非常に【1(大きor小さ)】く化学的に安定である。したがって、【2】(濃HNO3:濃HCl=1:3)でしか溶かすことができない。
白金は【1】法の第一段階で用いられる。
クロムの単体は【1】を作りやすく濃硝酸で溶かすことができない。
【1】は鉄FeとクロムCrとニッケルNiの合金であり、非常にさびにくくキッチンなどに利用されている。
K2CrO4は【1】色の結晶で、水溶液の色(=K2CrO4が電離して発生したCrO42-の色)は【2】色である。
対して、K2Cr2O7は【3】色の結晶で、水溶液の色(=K2Cr2O7が電離して発生したCr2O72-の色)は【4】色である。
K2Cr2O7は強力な【1(酸化or還元)】剤として働く。
Cr2O72- + 14H+ + 6e– → 2Cr3+ + 7H2O
Cr2O72-は【2】色であるのに対し、このとき生成するCr3+の色は【3】である。
過マンガン酸カリウムKMnO4の水溶液は【1】色で、強力な【2(酸化or還元)】剤として働く。また、酸性下では淡桃色(薄ピンク色)の【3】になるのに対して、中性・塩基性下では黒色の【4】が生成する。
酸化マンガンは【1】として過酸化水素H2O2や塩素酸カリウムKClO3の分解を促進し、O2を発生させる。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細