【プロ講師解説】このページでは『芳香族カルボン酸(安息香酸・サリチル酸)の構造・製法・性質・反応』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
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芳香族カルボン酸とは
芳香族カルボン酸とはベンゼン環にカルボキシ基(-COOH)が置換した化合物である。
芳香族カルボン酸の種類
高校化学で頻出の芳香族カルボン酸は安息香酸とサリチル酸の2つ。
安息香酸とは
安息香酸とはベンゼン環の1つの水素Hをカルボキシ基(-COOH)1つで置換した化合物である。
安息香酸の製法
安息香酸は「トルエンの酸化」によって生成される。
安息香酸の反応・性質
安息香酸は酸性物質であり、それ故、中和反応や弱酸遊離反応を起こす。
ここでは「安息香酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和反応」と「安息香酸と炭酸水素ナトリウムの弱酸遊離反応」の2つを確認する。
安息香酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和反応
酸性物質である安息香酸と塩基性物質である水酸化ナトリウムNaOH水溶液を反応させると、塩である安息香酸ナトリウムが生成する。
※中和反応について詳しくは中和(定義・塩・中和反応式の作り方など)を参照
安息香酸と炭酸水素ナトリウムの弱酸遊離反応
安息香酸と炭酸水素ナトリウムNaHCO3が反応すると弱酸遊離反応が起こる。
安息香酸は本来弱酸であるが、炭酸と比較すると相対的に強い酸であり、したがってこの反応においては強酸として働く。
また、この反応はカルボキシ基(-COOH)の検出反応として用いられている。
※弱酸遊離反応について詳しくは【弱酸・弱塩基遊離反応】原理や公式、反応式の作り方などを参照
サリチル酸とは
サリチル酸とは、ベンゼン環のオルト位に存在する水素H2つがヒドロキシ基(-OH)とカルボキシ基(-COOH)1つずつよって置換された化合物である。
サリチル酸の製法
サリチル酸はフェノールを元にして次のように生成される。
①フェノールと水酸化ナトリウム水溶液を反応させ、ナトリウムフェノキシドを得る。(フェノール類(名称・製法・性質・反応など)にあるようにフェノールは弱酸性の物質であるため、塩基と中和反応を起こす。)
②ナトリウムフェノキシドを高温高圧下で二酸化炭素CO2と反応させ、サリチル酸ナトリウムを得る。
この過程の詳細は次の通り。
③サリチル酸ナトリウムは弱酸を含む塩であり、塩酸などの強酸を加えることで弱酸遊離反応を起こし、サリチル酸を生じる。
サリチル酸の反応・性質
上で構造を示したが、サリチル酸はヒドロキシ基(-OH)とカルボキシ基(-COOH)を1つずつもっているため、”カルボン酸”として反応する場合と、”フェノール”として反応する場合に分けて考える必要がある。
カルボン酸としての反応
サリチル酸のカルボキシ基(-COOH)がメタノールと反応することで「エステル化」が起こる。
このとき生成されるサリチル酸メチル(=サロメチール)は特異臭をもつ油状の液体で、消炎鎮痛作用をもつので外用塗布薬などとして用いられる。
※カルボン酸の反応について詳しくはカルボン酸・エステル(一覧・構造・命名法・製法・反応・性質など)を参照
フェノールとしての反応
サリチル酸のヒドロキシ基(-OH)が無水酢酸と反応することで「アセチル化」が起こる。
このとき生成されるアセチルサリチル酸(=アスピリン)は解熱鎮痛作用をもつ。
※フェノールの反応について詳しくはフェノール類(名称・製法・性質・反応など)を参照
酸としての反応
サリチル酸はカルボキシ基やヒドロキシ基をもつため酸として働く。
サリチル酸と水酸化ナトリウムNaOH水溶液を反応させるとサリチル酸二ナトリウムが生成する。
この反応はカルボキシ基(-COOH)の検出反応として用いられている。
検出反応
フェノール類(名称・製法・性質・反応など)にあるように、フェノール性ヒドロキシ基をもつ化合物は塩化鉄(Ⅲ)FeCl3水溶液を加えると紫色を呈し、この呈色反応はフェノール性ヒドロキシ基の検出反応として知られている。
サリチル酸もフェノール性ヒドロキシ基をもっており、この反応で検出される。
芳香族カルボン酸に関する演習問題
ベンゼン環にカルボキシ基(-COOH)が置換した化合物を【1】という。
ベンゼン環の1つの水素Hをカルボキシ基(-COOH)1つで置換した化合物を【1】という。
安息香酸は【1】の酸化によって生成される。
安息香酸は【1】性であり、【2】性物質と中和反応を起こす。
安息香酸と水酸化ナトリウムNaOH水溶液を反応させると【1】が生成する。
安息香酸と炭酸水素ナトリウムNaHCO3を反応させると【1】が生成する。
ベンゼン環のオルト位に存在する水素H2つがヒドロキシ基(-OH)とカルボキシ基(-COOH)1つずつよって置換された化合物を【1】という。
サリチル酸は【1】を元に合成される。
サリチル酸のカルボキシ基(-COOH)がメタノールと反応することで【1】化が起こる。このとき生成する【2】は特異臭をもつ油状の液体で、【3】作用をもつので外用塗布薬などとして用いられる。
サリチル酸のヒドロキシ基(-OH)が無水酢酸と反応することで【1】化が起こる。このとき生成する【2】は【3】作用をもつ。
サリチル酸と水酸化ナトリウムNaOH水溶液を反応させると【1】が生成する。
サリチル酸と炭酸水素ナトリウムNaHCO3を反応させると【1】が生成する。
サリチル酸を含むフェノール類は塩化鉄(Ⅲ)FeCl3水溶液を加えると【1】色を呈する。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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