【プロ講師解説】このページでは『窒素の単体と化合物の性質・製法』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
窒素の単体
②無色無臭の中性気体
③工業的製法:液体空気の分留
④実験室的製法:亜硝酸アンモニウムの熱分解
窒素の単体について知っておかなければいけないことは次の4つ。
①空気中に多く含まれる
気体 | 割合 |
---|---|
窒素 | 78% |
酸素 | 20% |
アルゴン | 1% |
その他 | 1% |
空気を構成する気体の約80%は窒素N2である。
次に多いのが酸素O2、その次がアルゴンAr、残りの1%程度は様々な気体が混ざったもので構成されている。
※空気の組成について詳しくは空気(乾燥空気)の組成を参照
②無色無臭の中性気体
窒素は無色無臭の中性気体である。
※気体の色や臭いなどについて詳しくは気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)を参照
③工業的製法:液体空気の分留
窒素の単体を工業的に作る際は液体空気を分留する。
④実験室的製法:亜硝酸アンモニウムの熱分解
窒素の単体を実験室内で作る際は、亜硝酸アンモニウムNH4NO2を熱分解する。
NH_{4}NO_{2} → N_{2} + 2H_{2}O
\]
※高校化学でよく出る気体の製法について詳しくは気体の製法(反応式・原理・注意事項など)を参照
窒素の水酸化物(アンモニア)
②工業的製法:ハーバー・ボッシュ法
③実験室的製法:塩化アンモニウムに水酸化カルシウムを加えて加熱する
④水に非常によく溶け、1価の弱塩基として働く
⑤HClと接触すると白煙を生じる
⑥Ag+・Cu2+・Zn2+と錯イオンを形成する
アンモニアNH3について知っておいてほしいのはこの6つ。
①無色無臭で刺激臭をもつ塩基性気体
アンモニアは、色がついておらず刺激臭をもつ塩基性気体である。
※気体の色や臭いなどについて詳しくは気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)を参照
②工業的製法:ハーバー・ボッシュ法
アンモニアを工業的に作る際はハーバー法(ハーバーボッシュ法)という方法を用いる。
N_{2}+3H_{2} \overset{触媒(Fe_{3}O_{4})}{→} 2NH_{3}
\]
※ハーバー法について詳しくはハーバー法(ハーバー・ボッシュ法)の原理・反応式・高温高圧下の理由などを参照
③実験室的製法:塩化アンモニウムに水酸化カルシウムを加えて加熱する
アンモニアを実験室内で作る際には、塩化アンモニウムNH4Clに水酸化カルシウムCa(OH)2を加えて加熱する。
2NH_{4}Cl + Ca(OH)_{2} → CaCl_{2} + 2NH_{3} + 2H_{2}O
\]
NH4Clは弱塩基を含む塩、Ca(OH)2は強塩基なので、この反応は弱塩基遊離反応の一種である。
※弱塩基遊離反応について詳しくは【弱酸・弱塩基遊離反応】原理や公式、反応式の作り方など、気体の発生法に関しては気体の製法(反応式・原理・注意事項など)を参照
④水に非常によく溶け、1価の弱塩基として働く
アンモニアは、水に非常に良く溶けて弱塩基性を示す。
NH_{3}+H_{2}O⇄NH_{4}^{+}+\underbrace{ OH^{-} }_{ OH^{-}が発生→塩基! }
\]
⑤HClと接触すると白煙を生じる
アンモニアは、塩化水素HClと接触すると白煙(NH4Clの微粒子)を発生する。
NH_{3} + HCl → NH_{4}Cl
\]
この反応は、NH3やHClの検出反応として用いられる。
※気体の検出反応について詳しくは気体の検出反応まとめを参照
⑥Ag+・Cu2+・Zn2+と錯イオンを形成する
配位子 | 金属イオン | 錯イオン |
---|---|---|
NH3 | Ag+ | ジアンミン銀(Ⅰ)イオン[Ag(NH3)2]+ |
Cu2+ | テトラアンミン銅(Ⅱ)イオン[Cu(NH3)4]2+ | |
Zn2+ | テトラアンミン亜鉛(Ⅱ)イオン[Zn(NH3)4]2+ |
アンモニアは、金属元素の陽イオン(Ag+・Cu2+・Zn2+)と反応し、錯イオンを形成する。
※錯イオンについて詳しくは【錯イオン】色・配位数・形・価数・命名法を総まとめを参照
窒素の酸化物(一酸化窒素/二酸化窒素)
二酸化窒素 NO2
窒素の酸化物は一酸化窒素NOと二酸化窒素NO2の2種類。2つの工業的・実験室的製法についてまとめた後、両者の性質を比較する。
工業的製法
一酸化窒素NO
4NH_{3} + 5O_{2} → 4NO + 6H_{2}O
\]
※オストワルト法の第1段階:白金Ptを触媒とし、900℃くらいの高温で行う
二酸化窒素NO2
2NO + O_{2} → 2NO_{2}
\]
※オストワルト法の第2段階
実験室的製法
一酸化窒素NO
3Cu + 8HNO_{3} → 3Cu(NO_{3})_{2} + 2NO +4H_{2}O
\]
※銅Cuに希硝酸HNO3を加える
二酸化窒素NO2
2NO + O_{2} → 2NO_{2}
\]
【一酸化窒素/二酸化窒素の実験室的製法の反応式の作り方】
実験室的製法の所に書いた反応式がどのようにして作られたのかきちんと理解したいという人は以下を参考にしよう。両方とも2つの半反応式を組み合わせることによって作られている。
NO
NO2
※半反応式について詳しくは半反応式・酸化還元反応式(作り方・覚え方・問題演習など)を参照
性質
NO | NO2 | |
---|---|---|
色 | 無色 | 赤褐色 |
におい | なし | 刺激臭 |
溶解性 | 不溶 (中性) |
可溶 (酸性) |
二量体形成 | なし | あり |
無色のNOは空気に触れるとすぐに赤褐色のNO2に変化する。(気体の検出反応まとめを参照)
\underbrace{ 2NO }_{ 無色 }+O_{2}→\underbrace{ 2NO_{2} }_{ 赤褐色 }
\]
生じたNO2は150℃以下では無色のN2O4と平衡状態にある。(二量体形成)
\underbrace{ 2NO_{2} }_{ 赤褐色 } ⇄ \underbrace{ N_{2}O_{4} }_{ 無色 }
\]
オキソ酸(硝酸)
②工業的製法:オストワルト法
③実験室的製法:硝酸ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱する
④1価の強酸として働く
⑤強い酸化力をもつ
⑥不動態形成に関わる
⑦光が当たると分解する→褐色ビンで保存
窒素原子を含むオキソ酸である硝酸HNO3について押さえておきたいのは上の7ポイント。
①濃硝酸と希硝酸
硝酸水溶液のうち、濃度が高い(約60%以上)のものを濃硝酸、濃度が低いものを希硝酸という。
②工業的製法:オストワルト法



硝酸を工業的に作るためにはオストワルト法という方法を用いる。
※オストワルト法について詳しくは硝酸の工業的製法「オストワルト法」(触媒・覚え方・仕組み・反応式など)を参照
③実験室的製法:硝酸ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱する
HNO3を実験室内で作るには、硝酸ナトリウムNaNO3に濃硫酸H2SO4を加えて加熱する。
2NaNO_{3}+H_{2}SO_{4}→2HNO_{3}+Na_{2}SO_{4}
\]
この反応は揮発性酸遊離反応の一種である。
※揮発性酸遊離反応について詳しくは揮発性酸遊離反応(原理・例・濃硫酸を使う理由など)を参照
④1価の強酸として働く
硝酸は電離度が高い1価の強酸である。
HNO_{3} → H^{+} + NO_{3}^{-}
\]
⑤強い酸化力をもつ
硝酸は酸化力が非常に高く、酸化剤として働く。
Cu + 4HNO_{3} → Cu(NO_{3})_{2} + 2NO_{2} + 2H_{2}O
\]
この反応では、銅Cuを酸化させて硝酸銅Cu(NO3)2にしている。
※半反応式・酸化還元反応式の作り方について詳しくは半反応式・酸化還元反応式(作り方・覚え方・問題演習など)を参照
⑥不動態形成に関わる
硝酸は酸化力をもつため、不動態形成に関わる。
※不動態について詳しくは不動態(覚え方・ゴロ・原理など)を参照
⑦光が当たると分解する→褐色ビンで保存
硝酸は光や熱を受けると簡単に分解してしまうため、褐色ビンに入れて保存する。
硝酸以外にも、化合物の中には保存法に気をつけなければ行けないものがある。化合物の保存・取り扱い方法に一覧にして載せてあるので確認しておこう。
窒素に関する演習問題
空気(乾燥空気)の中に最も多く含まれる気体は【1】である。2番目は【2】、3番目は【3】である。
窒素は【1】の【2】性気体である。
窒素の単体を工業的に作る際は【1】を分留する。
窒素の単体を実験室内で作る際は【1】を熱分解する。
アンモニアは、【1】色で【2】臭をもつ【3】性気体である。
アンモニアを工業的に作る際は【1】という方法を用いる。【1】では、触媒として【2】を使う。
アンモニアを実験室内で作る際には、【1】に水酸化カルシウムCa(OH)2を加えて加熱する。
アンモニアは、水に非常に良く溶けて【1】性を示す。
アンモニアは、塩化水素HClと接触すると【1】(NH4Clの微粒子)を発生する。この反応は、NH3やHClの検出反応として用いられる。
アンモニアは、金属元素の陽イオン(Ag+・Cu2+・Zn2+)と反応し、【1】を形成する。
窒素の酸化物には【1】と【2】が存在する。
NO | NO2 | |
---|---|---|
色 | 【1】色 | 【2】色 |
におい | なし | 【3】臭 |
溶解性 | 不溶 (中性) |
可溶 (酸性) |
二量体形成 | 【4(ありorなし)】 | 【5(ありorなし)】 |
窒素原子を含むオキソ酸である【1】の水溶液のうち、濃度が高い(約60%以上)のものを【2】、濃度が低いものを【3】という。
硝酸HNO3を工業的に作るときは【1】という方法を用いる。
硝酸HNO3を実験室内で作るときは、硝酸ナトリウムNaNO3に【1】を加えて加熱する。
硝酸は電離度が高い【1】価の【2】酸である。また、【3】剤として働くこともある。
硝酸は光や熱を受けると簡単に分解してしまうため【1】に入れて保存する。
Fe,Ni,Al,Crなどの金属を濃硝酸の中に入れると(金属が酸化され)金属の表面に酸化物の緻密な膜ができ【1】となる。
関連:無機のドリルが、できました。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細