【プロ講師解説】このページでは『両性元素(Alなど)の単体・酸化物・水酸化物の特徴や製法、酸・塩基との反応による錯イオン形成など』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
両性元素とは
(単体・酸化物・水酸化物が)酸・塩基の両方と反応することができる元素を両性元素という。
高校化学では、次の4つの両性元素を覚えるようにしよう。(ゴロ:ああすんなり)
Al , Zn , Sn , Pb
\]
両性元素が入試で出題される場合、ほとんどがアルミニウムの単体・酸化物・水酸化物の“反応”に関する問題である。
したがって、このページでも(アルミニウムや鉛、亜鉛に関する基礎的な知識を確認した後に)アルミニウムの反応を重点的に解説していく。
アルミニウムに関する知識
②アルマイトを形成する
③テルミット反応を起こす
④製法:融解塩電解
①硫酸カリウムアルミニウム十二水和物
硫酸カリウムアルミニウム十二水和物はカリミョウバンと呼ばれ、単にミョウバンともいう。
また、カリミョウバン(ミョウバン)は、硫酸カリウムと硫酸アルミニウムの2種類の塩が組み合わさってできたもので、このような2種類の塩からできている塩を複塩という。
②アルマイトを形成する
不動態(覚え方・ゴロ・原理など)にあるように、不動態は金属が酸化物の膜で覆われて溶けることができなくなった状態である。
工業製品などにアルミニウムを使う際、人工的にこの不動態を作り出すことでより安定な状態にし、さびを防止している。
このように、アルミニウムの単体の表面を人工的に酸化させた(不動態にした)ものをアルマイトという。
③テルミット反応を起こす
テルミット(酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3とアルミニウムAlを混合したもの)を加熱すると、激しい光と熱を伴い次の反応が起こる。
2Al + Fe_{2}O_{3} → 2Fe + Al_{2}O_{3}
\]
この反応は混合物の名前がテルミットであることからテルミット反応と呼ばれる。
④製法:融解塩電解
アルミニウムは、ボーキサイトという酸化アルミニウムAl2O3を主成分とする原料をもとに融解塩電解(溶解塩電解)という操作をして作ることができる。
※アルミニウムの製法について詳しくはアルミニウムの工業的製法「ボーキサイトの精錬・融解塩電解」(仕組み・氷晶石を入れる理由など)を参照
鉛に関する知識
②放射線を遮る
③鉛イオンには2種類存在する
①硫酸イオンや炭酸イオンと白色沈殿を作る
PbのイオンであるPb2+は、硫酸イオンSO42-や炭酸イオンCO32-と反応し白色沈殿を作る。
※沈殿生成反応については沈殿生成反応の仕組みと沈殿生成反応式の作り方を、沈殿の色については無機化学の色まとめ(イオン/化合物(沈殿)/ハロゲンなど)を参照
②放射線を遮る
鉛の単体は放射線を遮る。
したがって、鉛をエプロンのような形で身に付けることによってレントゲンを撮る際の遮蔽材として用いられる。
③鉛イオンには2種類存在する
鉛イオンにはPb2+とPb4+の2種類が存在する。
2つのイオンの安定性を比べると、Pb2+の方が高い。(鉛蓄電池で重要な知識)
※鉛蓄電池について詳しくは鉛蓄電池(仕組み・反応式・充電・計算問題の解き方など)を参照
亜鉛に関する知識
Znの物質は白色系統が多い。
例えば、硫化亜鉛ZnSは天然に閃亜鉛鉱やウルツ鉱として存在しており、蛍光塗料や白色顔料(ec:ベビーパウダー)として用いられる。
両性元素の単体の反応
両性元素の反応について学ぶ前提として、両性元素は酸と反応するときは陽イオンとして、塩基と反応するときは錯イオンとして働くことが多いということを押さえておこう。
※陽イオン・陰イオンについて詳しくは陽イオン・陰イオン(違い・一覧・イオン式・価数・多原子イオンなど)を参照
※錯イオンについて詳しくは【錯イオン】色・配位数・形・価数・命名法を総まとめを参照
酸との反応
両性元素の単体は、酸と反応してH2を発生する。
2Al + 6HCl → 2AlCl_{3} + 3H_{2}
\]
塩基との反応
両性元素の単体は、塩基と反応してH2を発生する。
2Al + 2NaOH + 6H_{2}O → 2Na[Al(OH)_{4}] + 3H_{2}
\]
この反応式は以下の手順で作成する。
STEP1 | 両性元素が水溶液中のH2Oと反応し、水酸化物が生成する |
STEP2 | STEP1で生成した水酸化物が塩基由来のOH–と反応し、錯イオンが生成する |
STEP3 | STEP1とSTEP2の式を組み合わせ、イオン反応式を作成する |
STEP4 | 水溶液内に存在する塩基由来の陽イオンを組み合わせる |
STEP1
まずは、両性元素(今回の場合はAl)が水溶液中のH2Oと反応し水酸化物(Al(OH)3)が生成する。
2Al+6H_{2}O→2Al(OH)_{3}+3H_{2}
\]
STEP2
次に、STEP1で生成した水酸化物(Al(OH)3)が塩基(NaOH)由来のOH–と反応し錯イオン([Al(OH)4]–)が生成する。
Al(OH)_{3}+OH^{-}→[Al(OH)_{4}]^{-}
\]
STEP3
次に、STEP1とSTEP2の式を組み合わせてイオン反応式を作成する。
STEP4
最後に、水溶液内に存在する塩基由来の陽イオン(Na+)を組み合わせる。
両性元素の酸化物の反応
酸との反応
両性元素の酸化物は、酸と反応してH2Oを発生する。
Al_{2}O_{3} + 6HCl → 2AlCl_{3} + 3H_{2}O
\]
塩基との反応
両性金属の酸化物は、塩基と反応する。
Al_{2}O_{3} + 2NaOH + 3H_{2}O → 2Na[Al(OH)_{4}]
\]
酸化物の塩基との反応も、単体の場合とほぼ同じ。
以下の4STEPで考えていこう。
STEP1 | 両性元素の酸化物が水溶液中のH2Oと反応し、水酸化物が生成する |
STEP2 | STEP1で生成した水酸化物が塩基由来のOH–と反応し、錯イオンが生成する |
STEP3 | STEP1とSTEP2の式を組み合わせ、イオン反応式を作成する |
STEP4 | 水溶液内に存在する塩基由来の陽イオンを組み合わせる |
STEP1
まずは、両性元素の酸化物(今回の場合はAl2O3)が水溶液中のH2Oと反応し水酸化物(Al(OH)3)が生成する。
Al_{2}O_{3} + 3H_{2}O → 2Al(OH)_{3}
\]
STEP2
次に、STEP1で生成した水酸化物(Al(OH)3)が塩基(NaOH)由来のOH–と反応し錯イオン([Al(OH)4]–)が生成する。
Al(OH)_{3}+OH^{-}→[Al(OH)_{4}]^{-}
\]
STEP3
次に、STEP1とSTEP2の式を組み合わせてイオン反応式を作成する。
STEP4
最後に、水溶液内に存在する塩基由来の陽イオン(Na+)を組み合わせる。
両性元素の水酸化物の反応
酸との反応
両性金属の水酸化物は、酸と反応してH2Oを発生する。
Al(OH)_{3} + 3HCl → AlCl_{3} + 3H_{2}O
\]
塩基との反応
両性元素の水酸化物は、塩基と反応する。
Al(OH)_{3} + NaOH → Na[Al(OH)_{4}]
\]
この反応式は以下の2STEPで作成する。
STEP1 | 両性元素の水酸化物が塩基由来のOH–と反応し、錯イオンが生成する |
STEP2 | 水溶液内に存在する塩基由来の陽イオンを組み合わせる |
STEP1
まずは、両性元素の水酸化物が塩基由来のOH–と反応し錯イオンが生成する。
Al(OH)_{3}+OH^{-}→[Al(OH)_{4}]^{-}
\]
単体・酸化物の場合のSTEP2と同じ。
先ほどまでは水酸化物を作る作業がSTEP1だったが、今回は最初の物質が水酸化物なのでこの手順がSTEP1になる。
STEP2
次に、水溶液内に存在する塩基由来の陽イオン(今回の場合はNa+)を組み合わせる。
一問一答
酸・塩基の両方と反応することができる元素を【1】という。
両性元素の単体は、酸や塩基と反応して【1】を発生する。
両性元素の酸化物・水酸化物は、酸と反応して【1】を発生する。
硫酸カリウムアルミニウム十二水和物は【1】と呼ばれる。【1】は、【2】カリウムと【2】アルミニウムの2種類の塩が組み合わさってできたもので、このような2種類の塩からできている塩を【3】という。
【1】は、天然に閃亜鉛鉱やウルツ鉱として存在しており、蛍光塗料や白色顔料などに用いられる。
工業製品などにアルミニウムを使う際、人工的に不動態を作り出すことでより安定な状態にし、さびを防止している。
このように、アルミニウムの単体の表面を人工的に酸化させた(不動態にした)ものを【1】という。
また、アルミニウムの単体は【1】(酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3とアルミニウムAlを混合したもの)を加熱すると、激しい光と熱とともに以下の反応が引き起こされる。
2Al + Fe2O3 → 2Fe + Al2O3
この反応は【2】と呼ばれている。
アルミニウムは、【1】(酸化アルミニウムAl2O3が主成分)をもとに【2】という操作をして作ることができる。
PbのイオンであるPb2+は、SO42-やCO32-と【1】色沈殿を作る。
Pbの単体は【1】を遮るという特徴をもつ。したがって、鉛をエプロンのような形で身に付けることによってレントゲンを撮る際の遮蔽材として用いられる。
鉛イオンには、【1】と【2】の2種類が存在し、2つのイオンの安定性を比べると【1】の方が高い。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細