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両性元素とは(ゴロ・覚え方・反応式など)
はじめに
【プロ講師解説】このページでは『両性元素とは(ゴロ・覚え方・反応式など)』について解説しています。
両性元素とは
- 酸とも塩基とも反応する性質を両性という。
- 単体・酸化物・水酸化物が両性を示す元素を両性元素という。
- 高校化学では、次の4つの両性元素を覚える必要がある(ゴロ:ああ、すんなり)。
\[ \mathrm{Al , Zn , Sn , Pb} \]
アルミニウム
- アルミニウムの代表的な特徴は次の通りである。
●アルミニウムの単体の特徴
- 融点が低く、密度が小さい
- アルマイト
- ミョウバン
- テルミット反応
- 工業的製法:ホール・エルー法
❶ 融点が低く、密度が小さい
- アルミニウムの融点は約660℃であり、金属単体の中では比較的低い。
- アルミニウムの密度は約2.7g/cm3であり、金属単体の中では非常に小さい。この軽さを活かして、アルミニウムはアルミホイルやアルミ缶、建築材料、航空機材料などに利用されている。
- なお、アルミニウムが航空機材料として用いられる際は銅やマグネシウムを混ぜた合金であるジュラルミンとして用いられる。
参考:めっき・合金一覧
❷ アルマイト
- 金属が酸化物の膜で覆われて溶けることができなくなった状態を不動態という。
- 工業製品などにアルミニウムを使う際、人工的にこの不動態をつくり出すことで安定性を向上させ、さびを防止している。
- このように、アルミニウムの単体の表面を人工的に酸化させてできる工業製品をアルマイトという。
❸ ミョウバン
- 硫酸カリウムアルミニウム十二水和物 AlK(SO4)2・12H2Oをミョウバン(カリミョウバン)という。
- ミョウバン(カリミョウバン)の結晶は無色透明の正八面体形である。
- ミョウバン(カリミョウバン)は、硫酸カリウムK2SO4と硫酸アルミニウム Al2(SO4)3の2種類の塩が組み合わさってできる塩である。このように2種類の塩からなる塩を複塩という。
ミョウバン(カリミョウバン)の水溶液は酸性です。これは、ミョウバンがやや弱い塩基(弱塩基+強塩基)と強酸からなる塩だからです。
参考:塩の液性(見分け方・演習問題など)
❹ テルミット反応
- 酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3とアルミニウムAlを混合したものをテルミットという。
- テルミットを加熱すると、激しい光と熱を伴い、次の反応が起こる。
\[ \mathrm{2Al + Fe_{2}O_{3} → 2Fe + Al_{2}O_{3}} \]
- この反応をテルミット反応という。
❺ 工業的製法:ホール・エルー法
- アルミニウムの工業的製法をホール・エルー法という。
- ホール・エルー法について詳しくは次のページを参照のこと。
参考:アルミニウムの工業的製法「ボーキサイトの精錬・融解塩電解」(仕組み・氷晶石を入れる理由など)
アルミニウムがさびない理由
- アルミニウムはイオン化傾向が非常に大きく、酸化されやすい金属である。
- しかし、空気中に放置しても鉄のように全体がさびることはない。これはアルミニウムが不動態を形成するためである。
- アルミニウムは酸化されやすいため、空気中では表面がすぐに酸化される。しかし、このとき表面にできる酸化アルミニウムAl2O3による酸化被膜は非常に緻密であり、アルミニウム全体を完全に覆う。これにより、内部のアルミニウムと空気中の酸素の接触が絶たれ、さびの内部進行が妨げられる。
- なお、Al2O3による酸化被膜は無色透明である。したがって、この膜が形成されているかどうかを肉眼で判断することはできず、 Alは空気中でさびないと誤解されやすい。
亜鉛
- 亜鉛の代表的な特徴は次の通りである。
●亜鉛の単体の特徴
- 融点は約420℃、密度は約7.13g/cm3
- 乾電池の負極になる
- メッキ・合金として利用される
- 化合物である酸化亜鉛ZnO、硫化亜鉛ZnSは白色顔料(着色剤)として利用される
❶ 融点は約420℃、密度は約7.13g/cm3
- 亜鉛の単体の融点は約420℃、密度は約7.13g/cm3である。
❷ 乾電池の負極になる
- 亜鉛の単体は乾電池の負極として用いられる。
参考:電池の仕組み(イオン化傾向との関わり・正極と負極・電子と電流の向き)
❸ メッキ・合金として利用される
- 亜鉛は鉄メッキ(トタン)に用いられる。
参考:【鉄メッキ】ブリキとトタン(違い・イオン化傾向に基づく錆びやすさの理由など)
- また、黄銅などの合金にも含まれる。
参考:めっき・合金一覧
❹ 化合物である酸化亜鉛ZnO、硫化亜鉛ZnSは白色顔料(着色剤)として利用される
- 亜鉛の化合物は白色系統が多い。
- 亜鉛の化合物である酸化亜鉛ZnO、硫化亜鉛ZnSは白色顔料(着色剤)として利用される。
スズ
- スズの代表的な特徴は次の通りである。
●スズの単体の特徴
- メッキ・合金として用いられる
- イオンの安定性はSn4+>Sn2+
- 希塩酸に水素を発生しながら溶け、塩化スズ(Ⅱ)二水和物を生じる
- 酸化スズ(Ⅱ)SnOと酸化スズ(Ⅳ)SnO2
❶ メッキ・合金として用いられる
- スズは鉄メッキ(ブリキ)に用いられる。
参考:【鉄メッキ】ブリキとトタン(違い・イオン化傾向に基づく錆びやすさの理由など)
- また、青銅やはんだなどの合金にも含まれる。
参考:めっき・合金一覧
❷ イオンの安定性はSn4+>Sn2+
- スズ(Ⅱ)イオンSn2+とスズ(Ⅳ)イオンSn4+の安定性を比較するとSn2+<Sn4+である。
❸ 希塩酸に水素を発生しながら溶け、塩化スズ(Ⅱ)二水和物を生じる
- 希塩酸HClに水素H2を発生しながら溶け、塩化スズ(Ⅱ)二水和物SnCl2・2H2Oの無色の結晶を生じる。
\[ \mathrm{Sn+2HCl→SnCl_{2}+H_{2}} \]
- なお、Sn2+はSn4+に酸化されやすいため、SnCl2は強い還元性を示す。
❹ 酸化スズ(Ⅱ)SnOと酸化スズ(Ⅳ)SnO2
- スズの酸化物には、黒色の酸化スズ(Ⅱ)SnOと白色の酸化スズ(Ⅳ)SnO2が存在する。
- SnO2はスズ石として天然から産出される。これを高温下(約1300℃)で炭素を用いて還元することで、単体のスズが得られる。
鉛
- 鉛の代表的な特徴は次の通りである。
●鉛の単体の特徴
- 放射線を遮る
- 硫酸イオンや炭酸イオンと白色沈殿をつくる
- イオンの安定性はPb2+>Pb4+
❶ 放射線を遮る
- 鉛の単体は放射線を遮る。
- したがって、鉛をエプロンのように身につけることによって、レントゲンを撮る際の遮蔽材として用いられる。
❷ 硫酸イオンや炭酸イオンと白色沈殿をつくる
- 鉛(Ⅱ)イオンPb2+は、硫酸イオンSO42-や炭酸イオンCO32-と反応し白色沈殿を形成する。
参考:沈殿生成反応の仕組みと沈殿生成反応式の作り方
参考:無機化学の色まとめ(イオン/化合物(沈殿)/ハロゲンなど)
❸ イオンの安定性はPb2+>Pb4+
- 鉛(Ⅱ)イオンPb2+と鉛(Ⅳ)イオンPb4+の安定性を比較するとPb2+>Pb4+である。
- これは、鉛蓄電池の分野で重要な知識なので必ず覚えておこう。
両性元素の単体の反応
- 両性元素の単体の反応について、「酸との反応」「塩基との反応」に分けて解説する。
酸との反応
アルミニウムと塩酸の反応
- アルミニウム Alは水素H2よりもイオン化傾向が大きい。
- したがって、 Alに塩酸HCl(H+)を加えると、次の反応が起こる。
\[ \mathrm{2Al + 6HCl → 2AlCl_{3} + 3H_{2}} \]
亜鉛と塩酸の反応
- 亜鉛Znは水素H2よりもイオン化傾向が大きい。
- したがって、Znに塩酸HCl(H+)を加えると、次の反応が起こる。
\[ \mathrm{Zn+2HCl→ZnCl_{2}+H_{2}} \]
塩基との反応
アルミニウムと水酸化ナトリウム水溶液の反応
- 両性元素は水酸化物イオンOH-と錯イオンを形成する。
- アルミニウムAlに水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えると、次の酸化還元反応が起こる。
\[ \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\mathrm{Al+4OH^{-}→[Al(OH)_{4}]^{-}+3e^{-}・・・①}\\
\mathrm{2H_{2}O+2e^{-}→H_{2}+2OH^{-}・・・②}
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
\]
- ①×2+②×3により
\[ \mathrm{2Al+2OH^{-}+6H_{2}O→2[Al(OH)_{4}]^{-}+3H_{2}} \]
- この反応にはNaOHが使われているので、両辺にOH-の対となるイオン、Na+を2個ずつ加える。
\[ \mathrm{2Al+2NaOH+6H_{2}O→2Na[Al(OH)_{4}]+3H_{2}} \]
亜鉛と水酸化ナトリウム水溶液の反応
- 亜鉛Znに水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えると、次の酸化還元反応が起こる。
\[ \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\mathrm{Zn+4OH^{-}→[Zn(OH)_{4}]^{2-}+2e^{-}・・・①}\\
\mathrm{2H_{2}O+2e^{-}→H_{2}+2OH^{-}・・・②}
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
\]
- ①+②より
\[ \mathrm{Zn+2OH^{-}+2H_{2}O→[Zn(OH)_{4}]^{2-}+H_{2}} \]
- この反応にはNaOHが使われているので、両辺にOH-の対となるイオン、Na+を2個ずつ加える。
\[ \mathrm{Zn+2NaOH+2H_{2}O→Na_{2}[Zn(OH)_{4}]+H_{2}} \]
両性酸化物の反応
- 両性酸化物の反応について、「酸との反応」「塩基との反応」に分けて解説する。
酸との反応
酸化アルミニウムと塩酸の反応
- 酸化アルミニウムAl2O3は金属元素の酸化物であり、塩酸HClを加えると次の反応を示す。
\[ \mathrm{Al_{2}O_{3}+6HCl→2AlCl_{3}+3H_{2}O} \]
- 金属元素の酸化物と酸の反応について詳しくは次のページを参照のこと。
酸化亜鉛と塩酸の反応
- 酸化亜鉛ZnOは金属元素の酸化物であり、塩酸HClを加えると次の反応を示す。
\[ \mathrm{ZnO+2HCl→ZnCl_{2}+H_{2}O} \]
- 金属元素の酸化物と酸の反応について詳しくは次のページを参照のこと。
塩基との反応
酸化アルミニウムと水酸化ナトリウム水溶液の反応
- 金属元素の酸化物は塩基性酸化物であり、通常は塩基と反応しない。ただし、両性元素の酸化物である酸化アルミニウムAl2O3は塩基とも反応する。これは、Al3+が水酸化物イオンOH-と錯イオンを形成するためである。
- Al2O3と水酸化ナトリウムNaOHの反応は次の3STEPで考える。
Al2O3由来のアルミニウムイオンAl3+は水酸化物イオンOH-と錯イオンを形成する。
\[ \mathrm{2Al^{3+}+8OH^{-}→2[Al(OH)_{4}]^{-}・・・①} \]
Al2O3由来の酸素イオンO2ーは水分子H2Oと水酸化物イオンOH-を形成する。
\[ \mathrm{3O^{2-}+3H_{2}O→6OH^{-}・・・②} \]
①式と②式を足し合わせる。
\[ \mathrm{Al_{2}O_{3}+2OH^{-}+3H_{2}O→ 2[Al(OH)_{4}]^{-}} \]
最後に、不足しているイオン(Na+)を両辺に補足する。
\[ \mathrm{Al_{2}O_{3}+2NaOH+3H_{2}O→ 2Na[Al(OH)_{4}] }\]
酸化亜鉛と水酸化ナトリウム水溶液の反応
- ZnOと水酸化ナトリウムNaOHの反応は次の3STEPで考える。
ZnO由来の亜鉛イオンZn2+は水酸化物イオンOH-と錯イオンを形成する。
\[ \mathrm{Zn^{2+}+4OH^{-}→[Zn(OH)_{4}]^{2-}・・・①} \]
ZnO由来の酸素イオンO2ーは水分子H2Oと水酸化物イオンOH-を形成する。
\[ \mathrm{O^{2-}+H_{2}O→2OH^{-}・・・②} \]
①式と②式を足し合わせる。
\[ \mathrm{ZnO+2OH^{-}+H_{2}O→ [Zn(OH)_{4}]^{2-}} \]
最後に、不足しているイオン(Na+)を両辺に補足する。
\[ \mathrm{ZnO+2NaOH+H_{2}O→ Na_{2}[Zn(OH)_{4}] }\]
両性水酸化物の反応
- 両性水酸化物の反応について、「酸との反応」「塩基との反応」に分けて解説する。
酸との反応
水酸化アルミニウムと塩酸の反応
- 水酸化アルミニウムAl(OH)3に塩酸HClを加えると次の中和反応を示す。
\[ \mathrm{Al(OH)_{3}+3HCl→AlCl_{3}+3H_{2}O} \]
水酸化亜鉛と塩酸の反応
- 水酸化亜鉛ZnOに塩酸HClを加えると次の中和反応を示す。
\[ \mathrm{Zn(OH)_{2}+2HCl→ZnCl_{2}+2H_{2}O} \]
塩基との反応
水酸化アルミニウムと水酸化ナトリウム水溶液の反応
- 水酸化物は通常、酸とは反応するが塩基とは反応しない。ただし、両性元素の水酸化物である水酸化アルミニウムAl(OH)3は塩基とも反応する。これは、Al3+が水酸化物イオンOH-と錯イオンを形成するためである。
\[ \mathrm{Al(OH)_{3}+NaOH→Na[Al(OH)_{4}]} \]
水酸化亜鉛と水酸化ナトリウム水溶液の反応
- 水酸化亜鉛Zn(OH)2も両性水酸化物であり、塩基と反応する。
\[ \mathrm{Zn(OH)_{2}+2NaOH→Na_{2}[Zn(OH)_{4}] }\]