【プロ講師解説】このページでは『鉛蓄電池(仕組み・原理から各極の反応式、計算問題の解き方など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
鉛蓄電池の仕組み
鉛蓄電池とは鉛Pb板と酸化鉛PbO2を希H2SO4に浸けて作られる電池のことである。
この電池の仕組みについて、正極と負極に分けて説明していこう。
負極
電池の仕組みを解説!〜イオン化傾向との関わり・正極と負極・電子と電流の向き〜でやったように、先に溶け出して自身がイオンとなり、電子(eー)を放出する金属板を負極という。
今回登場する2つの金属板PbとPbO2では、どちらが先に溶け出すのか、つまり負極となるのかを考えてみよう。
PbとPbO2は、溶解するとそれぞれPb2+とPb4+になる。
PbO2→Pb4+
Pb2+とPb4+は同じ「鉛」がイオンとなったものではあるが、その「安定性」に少し差がある。
Pb2+とPb4+の安定性を比べると、Pb2+の方がより安定になっている。
従って、(イオンがより安定な方が溶けてイオンになりやすいので)鉛蓄電池で先に溶け出す極板、つまり負極は「Pb板」ということになる。
ここからは、次の3STEPに従って負極における反応の流れを説明していこう。
STEP1 | Pb板が溶ける(Pb → Pb2+ + 2e–) |
STEP2 | 電子(e–)が銅線を伝わってPbO2板の方へと移動する |
STEP3 | STEP1で発生したPb2+は溶液中のSO42-とくっつく → PbSO4ができる |
STEP1
イオン化傾向の大きいPb板が溶け出す。
STEP2
STEP1でPb板が溶け出すことによって発生したeーが、2つの金属板を繋いでいる銅線を伝わって正極であるPbO2板の方へと移動する。
STEP3
STEP1で発生したPb2+は、希H2SO4水溶液中の硫酸イオンSO42ーとくっつき「PbSO4」が生成する。
正極
電池の仕組みを解説!〜イオン化傾向との関わり・正極と負極・電子と電流の向き〜でやったように、負極から流れてきたeーを受け取る金属板のことを正極という。
鉛蓄電池における正極の反応について、次の2STEPに従って説明していこう。
STEP1 | 負極から流れてきたe–をPbO2板が受け取る → Pb2+ができる |
STEP2 | STEP1で発生したPb2+は溶液中のSO42-とくっつく → PbSO4ができる |
STEP1
Pb板から流れてきたeーがPbO2板まで到達すると、PbO2板を構成しているPb4+がこれを受け取る。
eーを受け取ったPb4+はPb2+となる。
STEP2
STEP1でできたPb2+が、希H2SO4水溶液中の硫酸イオンSO42ーとくっつき「PbSO4」が生成する。
各極の反応
負極・正極での反応をまとめておこう。
負極での反応
上で説明したように、負極ではPb板が溶けてPb2+が発生する。
\mathrm{ Pb → Pb^{2+} + 2e^{-} }
\]
Pb2+は溶液中のSO42ーと反応するので、両辺にSO42ーを足すと…
\mathrm{ Pb + SO_{4}^{2-} → PbSO_{4} + 2e^{-} }
\]
これが、鉛蓄電池の負極の反応式である。
正極での反応
正極では、PbO2板が、負極から流れてきたeーを受け取る。
\mathrm{ PbO_{2} + 4H^{+} + 2e^{-} → Pb^{2+} + 2H_{2}O }
\]
負極同様、Pb2+は溶液中のSO42ーと反応するので、両辺にSO42ーを足すと…
\mathrm{ PbO_{2} + 4H^{+} + SO_{4}^{2-} + 2e^{-} → PbSO_{4} + 2H_{2}O }
\]
これが、鉛蓄電池の正極の反応式である。
全体の反応
最後に、負極・正極の反応式を使って「鉛蓄電池全体の反応式」を作ってみよう。
鉛蓄電池は二次電池
電子を負極から正極に流して電流を発生させることを「放電」、それとは逆向きに電子を流すことを「充電」という。
また、充電を行って繰り返し使用できる電池のことを「2次電池」、一回しか使うことができない電池ことを「1次電池」という。
今回説明している鉛蓄電池は「2次電池」なので充電可能である。
鉛蓄電池の計算問題
鉛蓄電池に関する計算問題は入試でもよく出題される。基本的にワンパターンなので解き方を覚えてしまおう。
問題を解く前に、”前準備”として鉛蓄電池の「負極・正極における質量の変化」について説明しておく。
鉛蓄電池の負極・正極での反応式を見ると、負極では「SO4分」、正極では「SO2分」の質量が増加していることが分かる。
従って、(どちらの式もeーの係数が2なので)電子2molあたり、負極では96g、正極では64g、質量が増加するんだ。
このことを踏まえて、以下の例題を解いてみよう。
問題
電解液は30%の希H2SO4200ml(密度:1.25g/ml)とする。
この電池を20秒間放電したところ、平均して2.0Aの電流が流れた。以下の問いに答えなさい。
(1)両極での反応を、e–を含むイオン反応式で書け。
(2)最初と比べて、放電後のPbO2の質量は何g増加したか。(ファラデー定数はF=9.65×104[C/mol]とする。)
(3)この鉛蓄電池を充電する場合、外部電源の負極はPbとPbO2のどちらにつなげば良いか。
(1)
負極
\mathrm{ Pb + SO_{4}^{2-} → PbSO_{4} + 2e^{-} }
\]
正極
\mathrm{ PbO_{2} + 4H^{+} + SO_{4}^{2-} + 2e^{-} → PbSO_{4} + 2H_{2}O }
\]
(2)
まずは、電子e–のmolを求めよう。
\mathrm{ \begin{align}
e^{-}(mol)&=\frac{ [2.0(A)×20(秒)](C) }{ 9.65×10^{4}(C/mol) }\\
&=4.15×10^{-4}
\end{align} }
\]
前準備として説明したように、反応の前後で正極の質量を比較すると…
となっている。これは、電子が2molのときの話なので、今回の数値で求めていく。
比を用いてxを求めると…
2:64=4.15×10^{-4}:x\\
\leftrightarrow x=1.33×10^{-2}(g)
\]
(3)
充電するときは、外部電源の負極は電池の負極に、正極は正極につなぐ。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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