【プロ講師解説】このページでは『両性元素とは(ゴロ・覚え方・反応式など)で両性元素の代表格として登場したアルミニウムの工業的製法「ボーキサイトの精錬・融解塩電解」(仕組みから氷晶石を入れる理由まで)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
工業的製法の流れ・仕組み
アルミニウムの工業的製法は主に「ボーキサイト(Al2O3)の精錬」と「融解塩電解(溶融塩電解)」の2段階に分けることができる。
ここでは、これらの段階をより細かくした以下の4STEPで、工業的製法の流れ・仕組みを一から確認していこう。
STEP1 | ボーキサイトを水酸化ナトリウムNaOH水溶液に溶かす → [Al(OH)4]–が生成 |
STEP2 | STEP1で作った溶液のろ液を大量の水で希釈 → Al(OH)3の沈殿が生成 |
STEP3 | Al(OH)3を強熱する → Al2O3(アルミナ)が生成 |
STEP4 | 融解した氷晶石にアルミナを溶かし、融解塩電解する → 純粋なアルミニウムAlが生成 |
STEP1
まずは、アルミニウムの原料となる”不純物”を含んだ酸化アルミニウムであるボーキサイトをNaOH水溶液に溶かして[Al(OH)4]–にする。
Al_{2}O_{3}+2NaOH+3H_{2}O →2Na[Al(OH)_{4}] \]
STEP2
STEP1の溶液を大量の水で薄めてpHを下げる。
pHを下げるとルシャトリエの原理により、以下の平衡が右に移動してAl(OH)3の白色沈殿ができる。
[Al(OH)_{4}]^{-}⇄Al(OH)_{3}↓+OH^{-}
\]
STEP3
次に、Al(OH)3を強熱し、純度の高いAl2O3(アルミナ)を得る。
2Al(OH)_{3}→Al_{2}O_{3}+3H_{2}O
\]
STEP4
最後に、融解した氷晶石(Na3AlF6)にSTEP3で得たアルミナを溶かし、融解塩電解(溶融塩電解)して純粋なアルミニウムを得る。
氷晶石というのは”融点降下剤”の一種。
Al2O3の融点は極めて高い(約2000℃)が、氷晶石を使うことで半分の1000℃近くまで下げることができる。
※融解塩電解(溶融塩電解)の仕組みについて詳しくは下で解説
融解塩電解の仕組み
STEP1 | 融解した氷晶石にアルミナAl2O3を加え、電極を炭素Cとし電気分解を行う |
STEP2 | STEP1で発生したO2-が陽極で電子を離しCOやCO2になる |
STEP3 | STEP1で発生したAl3+が陰極で電子を受け取り、純粋なアルミニウムとなる |
融解塩電解は上の3STEPで考えることができる。
STEP1
まずは、融解した氷晶石にアルミナAl2O3を加え、電極を炭素とし電気分解を行う。
ちなみに、融解塩電解の反応式は次の通り。
Al_{2}O_{3} → 2Al^{3+} + 3O^{2-}
\]
ここで発生したAl3+とO2-はそれぞれSTEP2・3で使われる。
STEP2
次に、STEP1で発生したO2-が陽極でCOやCO2になる。
このときの反応式は次の通り。
C + O^{2-} → CO + 2e^{-}\\
C + 2O^{2-} → CO_{2} + 4e^{-}
\]
STEP3
最後に、STEP1で発生したAl3+が陰極で電子を受け取り純粋なAlとなる。
このときの反応式は以下の通り。
Al^{3+} + 3e^{-} → Al
\]
融解塩電解の反応式
融解塩電解の陰極・陽極の反応式と電解全体の反応式をそれぞれまとめておこう。
陰極の反応式
Al^{3+} + 3e^{-} → Al
\]
陽極の反応式
C + O^{2-} → CO + 2e^{-}\\
C + 2O^{2-} → CO_{2} + 4e^{-}
\]
全体の反応式
2Al_{2}O_{3} + 3C → 4Al + 3CO_{2}
\]
なぜAl3+水溶液の電気分解ではダメなのか
このような疑問をもつ人が多いが、これはイオン化傾向の知識を元に説明することができる。
Al3+とH+のイオン化傾向を比べると、Al3+の方が高い。
したがって、H2Oから電離したH+が存在する”水溶液”の場合、負極からきたe–を受け取って(イオンから)単体になるのはH+の方になり、結果的に目的であるAlの単体を得ることが難しくなってしまう。
これが、アルミニウムの製法としてAl3+を含む水溶液の電気分解ではなく、融解塩電解が使われる理由である。
融解塩電解に関する演習問題
純粋なアルミニウムは、ボーキサイトを精錬して【1】とし、それを融解した【2】に溶かし、【3】をすることで得ることができる。
氷晶石は【1】点降下剤の一種であり、アルミナの【1】点(約2000℃)を半分の1000℃近くまで下げる目的で用いられる。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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