炭素Cの単体・化合物の性質・製法

目次

はじめに

【プロ講師解説】このページでは『炭素Cの単体・化合物の性質・製法』について解説しています。


炭素の同素体

  • 炭素の同素体で有名なのは、ダイヤモンド・黒鉛・フラーレンの3つである。
  • これらの構造、特徴などを次にまとめる。
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単体名化学式構造性質
黒鉛C黒色C原子により形成された6角形の層が分子間力で結合・やわらかい
・もろい
・電気伝導性あり
・金属光沢あり
ダイヤモンドC無色透明C原子が正四面体の頂点方向に共有結合・極めて硬い
・電気伝導性なし
フラーレンC60(C70・C80C原子がサッカーボール型に結合ナノテクノロジーに利用
  • ダイヤモンドでは、各炭素C原子のもつ4個の価電子が全て共有結合に使われており、正四面体形の立体網目状構造になっている。
  • ダイヤモンドにおけるC原子間の結合は非常に強固であり、したがって、非常に硬く、融点が高い(約3550℃)。
  • ダイヤモンドは結晶内に自由電子をもたないため、電気を通さない。
  • 黒鉛では、C原子のもつ3個の価電子が共有結合に使われており、正六角形が連なった平面構造を形成している。この平面構造が分子間力によって積み重なり、層状構造をつくっている。
  • 黒鉛の層状構造は外力を加えると簡単にズレるため、ダイヤモンドと比較して柔らかい。
  • 黒鉛のC原子では、結合に使われていない1個の価電子が余っている。したがって、この価電子が平面を自由に動き回ることができるため、黒鉛は電気をよく通す。
  • C60、C70など、球状の炭素分子をフラーレンという。フラーレンはナノテクノロジーなどに用いられる。
  • これらの他に、炭素の同素体として、黒鉛の平面構造が丸く筒状になったカーボンナノチューブ、黒鉛の層のうち一層だけを取り出したシート状のグラフェンなどがある。

参考:同素体・同位体(違い・例・硫黄・炭素・酸素・リンなど)


一酸化炭素CO

  • 一酸化炭素COの特徴は次の通りである。

●一酸化炭素COの特徴

  1. 無色無臭で有毒
  2. 水に溶けにくく中性
  3. 可燃性がある
  4. 還元性がある
  5. 実験室的製法:ギ酸に濃硫酸を加えて加熱する
  6. 工業的製法:炭素に水蒸気を反応させる

❶ 無色無臭で有毒

  • 一酸化炭素COは、無色無臭で有毒な気体である。
  • 通常、有毒な気体は異臭がしたり、色がついていたりすることが多いので、これはCOの大きな特徴である。

参考:気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)

❷ 水に溶けにくく中性

  • 一酸化炭素COは水に溶けにくい中性気体である。

参考:気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)

❸ 可燃性がある

  • 一酸化炭素COは可燃性をもち、空気中で火をつけると燃焼し、二酸化炭素CO2になる。

❹ 還元性がある

\[ \mathrm{Fe_{2}O_{3} + 3CO → 2Fe + 3CO_{2} }\]

  • この反応はCOによる酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3の還元である。
  • COが酸素を受け取ってCO2に、Fe2O3は酸素がとれて(=還元されて)単体のFeになっている。

参考:酸化・還元の定義〜水素・酸素・電子の3パターン〜

❺ 実験室的製法:ギ酸に濃硫酸を加えて加熱する

  • 一酸化炭素COの実験室的製法では、ギ酸HCOOHに濃硫酸H2SO4を加えて加熱する。

\[ \mathrm{HCOOH → CO + H_{2}O} \]

  • シュウ酸(COOH)2 に濃硫酸H2SO4を加えて加熱しても生成するが、この場合同時に発生するCO2を取り除く必要がある。

\[ \mathrm{(COOH)_{2} →CO+CO_{2}+H_{2}O} \]

参考:気体の製法(反応式・原理・注意事項など)

❻ 工業的製法:炭素に水蒸気を反応させる

  • 一酸化炭素COの工業的製法では、炭素Cに水蒸気H2Oを反応させる。

\[ \mathrm{C + H_{2}O → CO + H_{2}} \]


水性ガス

  • 一酸化炭素COの工業的製法において得られるCOと水素H2の混合気体を水性ガスという。
  • 水性ガスは燃料などに用いられる。

一酸化炭素中毒

  • 血液中に存在する赤血球には、ヘモグロビンというタンパク質が含まれる。
  • ヘモグロビン(正確にはヘモグロビンを構成する”ヘム”)の中央には鉄(Ⅱ)イオンFe2+が存在する。
  • 肺において、ヘモグロビン中のFe2+に酸素O2が結合し、これが体全体を循環することで体組織にO2が供給される。
  • 一酸化炭素COはヘモグロビン中のFe2+とO2よりも強く結合する。
  • したがって、COが増えるとO2と結合するヘモグロビンが減少し、体組織にO2が共有されなくなり、酸欠状態になる。これを一酸化炭素中毒という。

一酸化炭素の構造式

  • CとOが二重結合を形成しているとして、一酸化炭素COの構造式を書くと次のようになる。
  • 一見正しいように見えるが、この構造において、C原子はオクテット則を満たしておらず、不安定である。
  • そこで、O原子からC原子に電子eを1個渡す。その結果、次のような三重結合をもつ構造になる。
  • この構造では、C原子、O原子ともにオクテット則を満たしているため、安定である。

二酸化炭素CO2

  • 二酸化炭素CO2の特徴は次の通りである。

●二酸化炭素CO2の特徴

  1. 無色無臭の気体
  2. 固体は冷却材として用いられる
  3. 水に溶け、弱酸性を示す
  4. 石灰水を白濁させる
  5. 実験室的製法:炭酸カルシウムに塩酸を加える
  6. 工業的製法:炭酸カルシウムを加熱する

❶ 無色無臭の気体

  • 二酸化炭素CO2は無色無臭の気体である。
  • 一酸化炭素COと異なり、毒性はない。

参考:気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)

❷ 固体は冷却材として用いられる

  • 二酸化炭素CO2の固体はドライアイスとよばれる。
  • ドライアイスは分子結晶であり、約79℃で昇華する。
  • 昇華する際、周囲から多量の熱を奪うため、ドライアイスは冷却材として用いられる。

参考:【分離法】昇華法(ヨウ素を使った実験の原理・操作など)

❸ 水に溶け、弱酸性を示す

  • 二酸化炭素CO2は、水に少し溶けて、弱酸性を示す。

\[ \mathrm{CO_{2} + H_{2}O ⇄ H_{2}CO_{3}⇄H^{+}+HCO_{3}^{-}} \]

参考:気体の性質(色・臭い・毒性・水溶液の液性など)

❹ 石灰水を白濁させる

\[ \mathrm{Ca(OH)_{2}+CO_{2}→CaCO_{3}↓+H_{2}O} \]

  • ここでさらにCO2を吹き込むと、次のような反応が起こる。

\[ \mathrm{CaCO_{3} + CO_{2} + H_{2}O → Ca(HCO_{3})_{2} }\]

  • 炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2は水に溶けやすい(溶解度がCaCO3の約100倍)ため、沈殿が溶解する(=白濁が消える)。
  • また、白濁が消えた後、水溶液を加熱すると上記の逆反応が進み、CaCO3の沈殿が生成し、再度白濁する。

\[ \mathrm{CaCO_{3} + CO_{2} + H_{2}O \textcolor{#dc143c}{ ← } Ca(HCO_{3})_{2}} \]

  • この反応はCO2の検出反応として用いられる。

参考:気体の検出反応まとめ

❺ 実験室的製法:炭酸カルシウムに塩酸を加える

  • 二酸化炭素CO2の実験室的製法では、石灰石や大理石(炭酸カルシウムCaCO3)に塩酸HClを加える。

\[ \mathrm{CaCO_{3} + 2HCl → CO_{2} + CaCl_{2} + H_{2}O} \]

  • この反応は、弱酸遊離反応の一種である。

参考:【弱酸・弱塩基遊離反応】原理や公式、反応式の作り方など

❻ 工業的製法:炭酸カルシウムを加熱する

  • 二酸化炭素CO2の工業的製法では、炭酸カルシウムCaCO3を加熱する。

\[ \mathrm{CaCO_{3} → CaO + CO_{2}} \]

  • この反応は、熱分解反応の一種である。

参考:【熱分解反応】入試頻出3パターンの反応式の作り方などを解説

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著者情報

元講師、薬剤師、イラストレーター
数百名の中高生向け指導経験あり(過去生徒合格実績:東工大・東北大・筑波大・千葉大・岡山大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)。
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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