【プロ講師解説】このページでは『同素体(硫黄・炭素・酸素・リンの同素体)・同位体』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

同素体・同位体とは

まずは同素体と同位体の定義を確認しよう。

同素体 同じ元素からなる単体で、化学的性質(反応性など)が異なるもの
同位体 原子番号が同じで、質量数の異なる原子同士のこと。
化学的性質(反応性など)にあまり変化は見られない

この表だけを見て2つの違いを理解できる人なかなかいないはず。これ以降で同素体・同位体それぞれについて詳しく解説していくのでそれを見てわかってもらえれば問題ない。

同素体

同じ元素からなり、化学的性質が異なる物質同士
Point!

同じ元素からなる単体で化学的性質(反応性など)が異なる物質同士を互いに同素体という。

例を挙げると「酸素(O2)とオゾン(O3)」。この2つは同じ「O」という元素からできているが、色や臭いなどの化学的性質は異なる。

同素体の単元では「S・C・O・P」の4つの元素しか登場しない。まず一覧表にまとめた後、個別に解説していく。

元素記号 元素名 単体名 化学式 特性
S 硫黄 斜方硫黄 S8 黄色 非常に安定
単斜硫黄 S8 黄色 放っておくと斜方硫黄になる
ゴム状硫黄 S(組成式) 高純度で黄色、低純度で褐色 放っておくと斜方硫黄になる
C 炭素 ダイヤモンド C(組成式) 無色透明 非常に固い
電気伝導性なし
黒鉛(グラファイト) C(組成式) 黒色 もろい(砕けやすい)
電気伝導性あり
フラーレン C60,C70 (溶液中) ナノテクノロジーに関与
O 酸素 酸素 O2 無色 無臭
助燃性有り
オゾン O3 淡青色 特異臭
紫外線吸収効果
P リン 黄リン P4 黄色 有毒、不安定
赤リン P(組成式) 赤色 無毒、安定

硫黄

斜方硫黄・単斜硫黄・ゴム状硫黄
Point!

硫黄の同素体は斜方硫黄単斜硫黄ゴム状硫黄の3種類である。

常温では斜方硫黄が最も安定しており、単斜硫黄もゴム状硫黄も常温で放置しておくと斜方硫黄に変化するが、高温(95度以上)では単斜硫黄が安定である。

斜方硫黄・単斜硫黄・ゴム状硫黄はそれぞれ次のような特徴をもつ。

斜方硫黄 単斜硫黄 ゴム状硫黄
化学式 S8 S8 S
構造 環状 環状 高分子
特徴
  • 黄色
  • 八面体状結晶
  • 安定
  • 黄色
  • 針状結晶
  • 不安定
  • 放置すると斜方硫黄になる
  • 弾性あり
  • これ以上詳しいことは無機化学「硫黄Sの単体と化合物の性質・製法」無機化学「単斜硫黄・斜方硫黄・ゴム状硫黄・液状硫黄の化学式と分子の形まとめ」で扱う。

    炭素

    ダイヤモンド・黒鉛・フラーレン
    Point!

    炭素の同素体はダイヤモンド黒鉛(グラファイト)フラーレンの3つである。

    ダイヤモンドと黒鉛は多くの人がすでに知っているはず。ダイヤモンドは宝石として指輪などに使われていて、黒鉛は鉛筆の芯の原料になる。フラーレンはナノテクノロジーで用いられる。それぞれの特徴は以下の通り。

    黒鉛 ダイヤモンド フラーレン
    化学式 C(化学式) C(組成式) C60,C70(,C80
    黒色 無色透明
    構造 C原子により形成された6角形の層が分子間力で結合 C原子が四面体の頂点方向に共有結合 C原子がサッカーボール型に結合
    性質 やわらかい
    もろい
    電気をよく通す
    金属光沢あり
    極めて硬い
    電気を通さない
    ナノテクノロジーに利用

    さらに詳しいことは無機化学「炭素Cの単体・化合物の性質・製法」で扱う。

    酸素

    酸素・オゾン
    Point!
    酸素(O2 オゾン(O3
    化学式 O2 O3
    直線型 折れ線型
    無色 淡青色
    におい 無臭 特異臭
    特性 助燃性有り 紫外線吸収効果

    酸素の同素体は酸素オゾンの2つである。酸素を知らないはずはないし、オゾンもどこかで聞いたことがあるだろう。

    理論化学を学んでいる段階で覚えておくべきなのは、酸素が無色無臭なのに対して、オゾンは淡青色で特異臭がするということくらいである。(酸素やオゾンに関する細かい知識は無機化学「酸素Oの単体・化合物の性質・製法」の方で紹介しているのでそちらを参照)

    リン

    黄リン・赤リン
    Point!

    リンの同素体は黄リン赤リンの2つである。

    黄リン 赤リン
    化学式 P4
    (分子式)
    P
    (組成式)
    構造 正四面体 無定形
    毒性 あり なし
    その他特徴 自然発火する
    (水中に保存)
    真空中で加熱すると赤リンに
    マッチの箱の横に付いているヤツ

    黄リンはとても危険な物質。空気中で放置しておくと、突然火が点いてしまうことがある。(こういうのを自然発火という)
    したがって、研究室などで保存するときはビンに水をいれてその中に突っ込んでおく。(水中に置いておけば、空気に直接触れないから自然発火は起こらない)また、黄リンは毒性ももっている。

    赤リンは、マッチの箱の横に付いていて、マッチに火を点けるときに使う物質である。(擦る部分)
    日常で使われているものなので当然無毒で自然発火もしない。

    リンについてさらに詳しいことはリンPの単体・化合物の性質・製法を参照。

    同位体

    同位体とは

    原子番号が同じで質量数が異なる原子同士
    Point!

    同位体とは原子番号が同じで、質量数の異なる原子同士のことである。

    水素を例に説明する。

    水素は、天然に3つの同位体が存在する。

    これら3つは、同じ”水素”の仲間ではあるが、質量数が異なっている。原子番号(=陽子の数)が一緒であるにも関わらず質量数が違うということはつまり、中性子の数が異なっている」ということである。(この辺りについては原子の構造!陽子・中性子・電子・原子核・質量数・原子番号の数と関係を参照)

    また、同位体によって存在比が存在比が異なっていることにも注意。
    普通の水素が一番多く99.9%、次が重水素で0.1%。三重水素はほとんど存在しない。

    さらに、同位体は「化学的性質(反応性など)にあまり変化が見られない。」ということも知っておくべきである。同素体は「変化が見られる」ので、対比させて聞かれる。同位体の存在比など詳しいことを覚える必要はないが、同位体を使った計算は定期テストや入試で頻出なのでぜひ出来るようにしておこう。(【決定版】相対質量・原子量・分子量・式量の定義、求め方、計算問題化合物に含まれる同位体の物質量比を求める問題の解き方などに記載)

    同位体の存在比

    上で説明したように、同位体は全てが等量存在している訳ではなく、存在比が異なる場合がある。

    代表的な同位体の存在比に関しては「同位体の存在比一覧表」を参照。

    放射性同位体

    同位体の中には原子核が“不安定”で放射線を出しながら崩壊(壊変)していくものがあり、このような同位体を放射性同位体という。

    放射性同位体は遺物の年代測定・医療などに利用される。

    放射性同位体について詳しくは放射性同位体(例・一覧・各種壊変、入試問題の解き方など)を参照。

    PLUS+

    【α(アルファ)壊変】
    α線(=ヘリウムの原子核)を放出する。
    ヘリウムの原子核は「陽子2個+中性子2個」で構成されているので、α壊変が一回起こると原子番号は2減少、質量数は4減少する。

    【β(ベータ)壊変】
    β線(=電子)を放出する。
    放出される電子は中性子が陽子に変化することで放出されるので、β壊変が一回起こると質量数は変わらないが原子番号は1増加する。

    【γ(ガンマ)壊変】
    γ線(=α、β壊変の後に出る余分なエネルギー)を放出する。質量数や原子番号に変化はない。

    同素体・同位体に関する演習問題

    問1

    【】に当てはまる用語を答えよ。

    同じ元素からできた単体で、化学的性質が異なる物質同士を【1】という。
    【問1】解答/解説:タップで表示
    解答:【1】同素体

    同じ元素からなる単体で化学的性質(反応性など)が異なる物質同士を互いに同素体という。

    問2

    【】に当てはまる用語を答えよ。

    硫黄の単体には3種類の同素体が存在する。
    それらの中で最も安定したものを【1】という。【1】を高温(約120℃)で熱し、それを冷やすと針状結晶の【2】が得られる。
    また、【1】を非常に高温(約250℃)で熱し、それを冷水の中に入れて急冷(急激に冷やすこと)すると【3】が得られる。
    【1】・【2】・【3】はいずれも【4】色である。
    【問2】解答/解説:タップで表示
    解答:【1】斜方硫黄【2】単斜硫黄【3】ゴム状硫黄【4】黄

    硫黄には斜方硫黄、単斜硫黄、ゴム状硫黄の3種類の同素体が存在する。斜方硫黄が最も安定しているため、単斜硫黄やゴム状硫黄を常温で放置するといずれも斜方硫黄になる。また、単斜硫黄は斜方硫黄を120℃で加熱後冷却することで、ゴム状硫黄は斜方硫黄を250℃で加熱後冷水に注いで急冷することで得ることができる。色はいずれも黄色(ゴム状硫黄はテキストによって褐色との記載があるが近年純度を高めると黄色となることが発見された)である。

    問3

    【】に当てはまる用語を答えよ。

    炭素の単体には、3種類の同素体が存在する。【1】は炭素原子によって作られた層が分子間力で結合した構造で、薄く剥がれやすく黒色で金属光沢があり、鉛筆の芯などに利用されている。
    【2】は炭素原子が四面体の頂点方向に共有結合した構造で、無色透明で非常に硬い。
    【3】は60(70)コの炭素原子がサッカーボール型に結合した構造になっており、ナノテクノロジーに利用される。
    【問3】解答/解説:タップで表示
    解答:【1】黒鉛【2】ダイヤモンド【3】フラーレン

    これら3つの他に、カーボンナノチューブや無定形炭素なども炭素の同素体として有名で、近年大学入試で出題が増えている。

    問4

    【】に当てはまる用語を答えよ。

    酸素の単体には、2種類の同素体が存在する。【1】は2つの酸素原子が結合してできた物質で、無色無臭で助燃性があり、空気の約20パーセントを占める。
    【2】は3つの酸素原子が結合してできた物質で、淡青色で刺激臭をもち、成層圏で【3】を吸収して地球上の生物を守る役割を果たしている。【2】は酸素の【4】や酸素への【5】照射により生成する。
    冷蔵庫やエアコンなどに使われる【6】は【2】を分解するため代替物質の開発が急がれている。
    【問4】解答/解説:タップで表示
    解答:【1】酸素【2】オゾン【3】紫外線【4】無声放電【5】紫外線【6】フロン

    問5

    【】に当てはまる用語を答えよ。

    リンの単体には、2種類の同素体が存在する。【1】は非常に危険な物質で、空気中で放置しておくと突然火がつくことがある(=自然発火)ため【2】中に保存する。また毒性ももっている。これに対して【3】はマッチのする部分等に使用され、無毒で自然発火もしない。
    【問5】解答/解説:タップで表示
    解答:【1】黄リン【2】水【3】赤リン

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    著者プロフィール

    ・化学のグルメ運営代表
    ・高校化学講師
    ・薬剤師
    ・デザイナー/イラストレーター

    数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
    2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
    公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

    著者紹介詳細