【プロ講師解説】このページでは『同位体の定義から性質、同位体の存在比を使った計算問題の解法、同位体と名前の似ている同素体との区別など』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
同位体とは
多くの元素には原子番号が同じで質量数の異なる原子が存在する。原子番号(=陽子の数)が一緒なのに質量数が違うということはつまり、「中性子の数が異なっている」ということである。このような原子同士を同位体という。同位体の存在比は原子によって全く異なる。
例えば水素では、普通の水素が一番多く99.9%、次が重水素で0.1%。三重水素はほとんど存在しない。さらに、同位体は「化学的性質(反応性など)にあまり変化が見られない」ということも知っておくべき。同素体は「変化が見られる」ため対比させて聞かれるので覚えておくようにしよう。
同位体の存在比
上で説明したように、同位体は全てが等量存在している訳ではなく、存在比(存在している割合)が異なる場合がある。
代表的な同位体の存在比は次の通り。
水素 | 1H | 99.985% |
2H | 0.015% | |
炭素 | 12C | 98.90% |
13C | 1.10% | |
窒素 | 14N | 99.634% |
15N | 0.366% | |
酸素 | 16O | 99.762% |
17O | 0.038% | |
18O | 0.200% | |
ナトリウム | 23Na | 100% |
塩素 | 35Cl | 75.77% |
37Cl | 24.23% | |
銅 | 63Cu | 69.17% |
65Cu | 30.83% |
放射性同位体
同位体の中には原子核が“不安定”で放射線を出しながら崩壊(壊変)していくものがあり、このような同位体を放射性同位体という。
放射性同位体は遺物の年代測定・医療などに利用される。
PLUS+
α線(=ヘリウムの原子核)を放出する。
ヘリウムの原子核は「陽子2個+中性子2個」で構成されているので、α壊変が一回起こると原子番号は2減少、質量数は4減少する。
【β(ベータ)壊変】
β線(=電子)を放出する。
放出される電子は中性子が陽子に変化することで放出されるので、β壊変が一回起こると質量数は変わらないが原子番号は1増加する。
【γ(ガンマ)壊変】
γ線(=α、β壊変の後に出る余分なエネルギー)を放出する。質量数や原子番号に変化はない。
※放射性同位体について詳しくは放射性同位体(例・一覧・各種壊変、入試問題の解き方など)を参照
同位体の存在比を使って物質量比を求める問題
問題
この問題は、次の3STEPで解いていく。
STEP1 | 反応したO2のmolを求める |
STEP2 | STEP1で求めた値からCuのmolを求め、それを使ってCuの見かけ上のモル質量(原子量)を求める |
STEP3 | 同位体の片方の存在比をxと置き、式を立ててxを求める |
STEP1
まずは、反応したO2のmolを求めていく。この反応の反応式は以下の通りである。
2Cu + O_2 → 2CuO
\]
銅に酸素がくっついて酸化銅(Ⅱ)が生成しているので、生成した酸化銅(Ⅱ)の質量から銅の質量を引けば、銅にくっついた酸素の質量が求められるはずである。
19.9(g) – 15.9(g) = 4.0(g)
\]
酸素のモル質量(分子量)は32(g/mol)なので、酸素のmolは次のように求めることができる。
4.0(g) ÷ 32(g/mol) = 0.125(mol)
\]
STEP2
次に、STEP1で求めた酸素のmolからCuのmolを求め、それを使ってCuの見かけ上のモル質量(原子量)を求めていく。
もう一度反応式を確認する。
2Cu + O_2 → 2CuO
\]
CuとO2の係数比は2:1である。
したがって、この反応に必要なCuのmolは酸素の2倍のはずなので…
0.125(mol) × 2 = 0.25(mol)
\]
この値を使って、銅の見かけ上のモル質量(原子量)を求めていく。
反応で使われた銅は問題文に書いてある通り15.9gなので…
15.9(g) ÷ 0.25(mol) = 63.6(g/mol)
\]
STEP3
最後に、同位体の片方の存在比をxとおき、式を立ててxを求めていく。
63.0 × x + 65.0 × (1-x) = 63.6
\]
63Cuの存在比(物質量比)を「x」とすると、65Cuの存在比は「1-x」と表すことができる。
同位体それぞれの相対質量に存在比をかけたものを足すと、見かけ上の原子量になる。
この式を解いて…
x = 0.7(70%)となる。
したがって、この問題の酸化銅(Ⅱ)に含まれる63Cuと65Cuの物質量比は…
^{63}Cu : ^{65}Cu = 7 : 3
\]
同位体の存在比を使って原子量を求める問題
問題
同位体の相対質量に、それぞれの存在比をかけて足す。
\underbrace{12.0 × \frac{ 98.9 }{ 100 } }
_{ ^{ 12 }\text{ C }} +
\underbrace{13.0 × \frac{ 1.1 }{ 100 } }
_{ ^{ 13 }\text{ C }} = 12.011
\]
約12になったね。これが炭素の原子量。
ちなみに、このような原子量計算をするときの有名な工夫がある。
12.0 × \frac{ 98.9 }{ 100 } + 13.0 × \frac{ 1.1 }{ 100 } \\
= 12.0 × \frac{ 98.9 }{ 100 } + (12.0+1.00) × \frac{ 1.1 }{ 100 } \\
= 12.0 × \frac{ 98.9 }{ 100 } + 12.0 × \frac{ 1.1 }{ 100 } + 1.00 × \frac{ 1.1 }{ 100 }\\
= 12.0 × (\frac{ 98.9 }{ 100 } + \frac{ 1.1 }{ 100 }) + 1.00 × \frac{ 1.1 }{ 100 }\\
= 12.0 × 1 + 1.00 × \frac{ 1.1 }{ 100 }\\
= 12.0 + 0.011\\
= 12.011
\]
この問題は、定期テストなどで頻出なので、しっかり解けるようにしておこう。
また、もう1つのパターンとして「原子量が分かっている状態で存在比を求める」ものがある。そちらも一応練習しておこう。
同位体の原子量を使って存在比率を求める問題
問題
こちらも同じように、「同位体の相対質量に、それぞれの存在比をかけて足すと原子量が出る」ということを利用して解く。
\mathtt{ \underbrace{35.0 × \frac{ x }{ 100 } }
_{ ^{ 35 }\text{ Cl }} +
\underbrace{37.0 × \frac{ 100-x }{ 100 } }
_{ ^{ 37 }\text{ Cl }} = 35.5}
\]
片方の存在比(%)をxとおけば、全部で100(%)だからもう片方は100-x(%)と考えられる。
この式をxについて解くと、x=0.75となるので、
^{35}Cl = 75(\%) \\
^{37}Cl = 25(\%)
\]
演習問題
問1
原子番号が同じで、【1】の数が異なるもの同士を互いに【2】であるという。【2】の【3】的性質はほぼ同じである。
問2
原子番号が1の【1】原子には3つの同位体が存在する。質量数が1の水素、【2】が1コ多いために質量数が2である【3】、【2】が2コ多いために質量数が3である【4】がある。
問3
2種類の炭素原子(12C・13C)と2種類の塩素原子(35Cl・37Cl)を組み合わせて四塩化炭素CCl4を作るとき、【1】パターンの分子量の異なる四塩化炭素が生成しうる。
問4
陽子の数が同じで中性子の数が異なる原子同士を互いに【1】という。【1】の中には、不安定で【2】を出しながら壊れる(別の元素に変化する)ものがあり、それらを総称して【3】という。また、【2】を出す性質(能力)のことを【4】という。【3】が壊れて半分の量になる時間のことを【5】といい、これを利用して遺跡の年代測定などが行われる。
まとめ
最後に、この『同位体(一覧・例・性質・存在比を使った計算など)』のページで解説した内容をまとめておく。
- 原子番号が同じで質量数が異なる原子同士を同位体という
- 同位体の中で、放射線を出しながら崩壊(壊変)していくものを放射性同位体という
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細