【プロ講師解説】このページでは『反応速度計算』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

反応速度と2つの式

Point!

化学反応の速度を考える際に使う2つの式について紹介する。

定義式

以下のような化学反応が起こるとする。

\[
A→B+C
\]

これを、グラフにすると…

このとき、青の区間の平均の反応速度は…

\[
\overline{ V }=\left|\frac{ [A]_{2}-[A]_{1} }{ t_{2}-t_{1} }\right|
\]

このように表すことができる。

[A]1は時間t1のときの反応物Aの濃度、[A]2は時間t2のときの反応物Aの濃度のこと。(Aの濃度は減少しているため、分子が負の値になってしまう。速度にマイナスがつくのはおかしいので、絶対値を付けている)

また、この式は「反応速度とはこういうものである」として定義されたものなので、定義式と呼ぶ。

速度式

反応速度は、反応速度定数(K)を用いて以下のように表すこともできる。

\[
平均の速度\overline{ V }=K・[\overline{ A }]\\
瞬間の速度V=K・[A] \]

この反応速度定数(K)を用いた式は速度式と呼ばれ、「平均の速度」と「瞬間(一時点)の速度」のどちらを求めるときにも使うことができる。

ちなみにAの平均濃度は以下の式によって求めることができる。

\[
[\overline{ A }]=\frac{ [A]_{1}+[A]_{2} }{ 2 }
\]
PLUS+.1

反応速度定数(K)は以下のように定義づけられている。\[
K=A・e^{-\frac{ E_{a} }{ RT }}
\]

A:定数(頻度因子)、T:絶対温度、Ea:活性化エネルギー、R:気体定数(8.31×10-3kJ/(mol/K))

この式は、アレニウスの式と呼ばれている。
高校では、この式を使ってKを求めることはほぼないが、式の名前くらいは覚えておこう。

入試頻出の計算

STEP1 定義式を用いて、平均の速さを求める
\[
\begin{align}
\color{red}{\overline{ V }}&=\left|\frac{ [A]_{2}-[A]_{1} }{ t_{2}-t_{1} }\right|
\end{align}
\]
STEP2 速度式を用いて、反応速度定数(K)を求める
\[
\overline{ V }=\color{red}{K}・[\overline{ A }] \]
STEP3 速度式を用いて、瞬間の速さを求める
\[
\begin{align}
\color{red}{V}&=K・[A] \end{align}
\]
Point!

定義式と速度式を使った、入試で頻出の計算パターンがある。上の3STEPに基づいて解説していこう。

問題

A→2B+Cの反応が起こるとする。
一定温度でAの濃度を測定すると下図のようになった。

t(s) [A](mol/L)
0 6.00
100 4.00

(1)0から100秒の平均の速度(mol/(L・s))を求めよ。
(2)反応速度定数(K)の値を求めよ。ただし、単位も明記すること。
(3)実験開始から200秒後のAの濃度は3.50(mol/L)であった。この時点における瞬間の速さ(mol/(L・s))を求めよ。

STEP1

定義式を用いて平均の速度を求める

まずは、定義式を用いて平均の速度を求める。

\[
\begin{align}
\overline{ V }&=\left|\frac{ [A]_{2}-[A]_{1} }{ t_{2}-t_{1} }\right|\\
&=\left|\frac{ 4.00-6.00 }{ 100-0 }\right|\\
&=2.00×10^{-2}(mol/(L・s))
\end{align}
\]

STEP2

速度式(平均の速さ)を用いて反応速度定数(K)を求める

次に、速度式(平均の速さ)を用いて反応速度定数(K)を求める。

\[
\overline{ V }=K・[\overline{ A }]\\
\leftrightarrow 2.00×10^{-2}=K・\frac{ 6.00+4.00 }{ 2 }\\
\leftrightarrow K=4.00×10^{-3}(/s)
\]

STEP3

速度式(瞬間の速さ)を用いて瞬間の速さを求める

次に、速度式(瞬間の速さ)を用いて瞬間の速さを求める。

\[
\begin{align}
V&=K・[A]\\
&=4.00×10^{-3}×3.50\\
&=1.4×10^{-2}(mol/(L・s))
\end{align}
\]

反応速度計算に関する演習問題

問1

【】に当てはまる用語を答えよ。

化学反応の速さは単位時間あたりの濃度の変化量で表され、これを【1】という。

【問1】解答/解説:タップで表示
解答:【1】反応速度
\[
\overline{ V }=\left|\frac{ [A]_{2}-[A]_{1} }{ t_{2}-t_{1} }\right|
\]
問2

【】に当てはまる用語を答えよ。

反応物の濃度と反応速度の関係を表す式を【1】といい、この式に含まれる定数Kを【2】という。

【問2】解答/解説:タップで表示
解答:【1】反応速度式【2】反応速度定数

問3

水素とヨウ素を密閉容器に入れ加熱すると、以下の反応が起こる。
\[
H_{2}+I_{2}⇄2HI
\] (1)正反応・逆反応の速さ(V1・V2)を、それぞれ式で表せ。ただし、正反応の反応速度定数はK1、逆反応の反応速度定数はK2とする。
(2)この反応において、H2の濃度を2倍、I2の濃度を3倍にすると、正反応の速さは何倍になるか。
(3)この反応において、圧力を元の4倍にしたとすると、正反応の速さは何倍になるか。
【問3】解答/解説:タップで表示
解答:(1)『正反応』V1=K1×[H2][I2] 『逆反応』V2=K2×[HI]2
(2)6倍
(3)16倍

(1)
まずは、正反応と逆反応の違いについて理解しておく必要がある。

\[
H_{2}+I_{2}\underset{逆反応}{\overset{正反応}{\rightleftarrows}}2HI
\]

正反応は左向きの反応、逆反応は右向きの反応である。

※正反応・逆反応について詳しくは可逆反応と不可逆反応を参照

正反応の速度式は、上で説明してきた通りこの式を使う。

\[
V=K・[A] \]

今回は、反応物(上の式のA)がH2とI2の2つなので、次のように表すことができる。

\[
V_{1}=K_{1}×[H_{2}][I_{2}] \]

次は、逆反応の速度式を考えていく。

まず逆反応における「反応物」が何かを考える。
今回の反応式における逆反応では、HIからH2とI2が生成している。したがって、反応物は「HI」だということになる。(反応のスタート時点の物質=反応物)

正反応と同じく次の式を用いて考えると…

\[
V=K・[A] \]
\[
V_{2}=K_{2}×[HI]^{2}
\]

このようになる。逆反応では、反応物の濃度([A])のところにはHIの濃度([HI])を当てはめている。

※[HI]が2乗になっているのは、反応式中のHIの係数が「2」だからである。
今回の反応のように、1段階だけで完結する”素反応”であり、かつ反応全体が1つの素反応でできている反応(単純反応)に限り、反応式中の係数を速度式の次数として用いることができる。
単純反応でなく、中間体を経て進む多段階反応(複合反応)の場合、次数は実験結果によって求める必要がある。

(2)
(1)より正反応の反応式は次の通り。

\[
V_{1}=K_{1}×[H_{2}][I_{2}] \]

H2の濃度が2倍に、I2の濃度が3倍になったということは、[H2]×[I2]は2×3で6倍になったと考えられる。したがって、正反応の速度は6倍になる。

(3)
圧力が4倍になると…体積は4分の1になる。体積が4分の1になると(その分狭くなったスペースにたくさんの分子が閉じ込められるわけなので)濃度は4倍になる。

したがって、[H2]と[I2]の濃度がそれぞれ4倍になるので…

\[
V=K×\underbrace{ [H_{2}] }
_{ \text{ 4倍! }}\underbrace{ [I_{2}] }
_{ \text{ 4倍! }}
\]

反応速度は4×4で16倍となる。

問4

A→2B+Cの反応が起こるとする。
一定温度でAの濃度を測定すると下図のようになった。

t(s) [A](mol/L)
0 9.00
800 3.00

(1)0から800秒の平均の速度(mol/(L・s))を求めよ。
(2)反応速度定数(K)の値を求めよ。ただし、単位も明記すること。
(3)実験開始から1200秒後のAの濃度は2.00(mol/L)であった。この時点における瞬間の速さ(mol/(L・s))を求めよ。

【問4】解答/解説:タップで表示
解答:(1)7.50×10-3(mol/(L・s))
(2)1.25×10-3(/s)
(3)2.50×10-3(mol/(L・s))

これは、上で入試で頻出の問題形式として紹介した計算問題。先ほど同様、3STEPで解説する。

(1)『STEP1』

定義式を用いて平均の速度を求める
\[
\begin{align}
\overline{ V }&=\left|\frac{ [A]_{2}-[A]_{1} }{ t_{2}-t_{1} }\right|\\
&=\left|\frac{ 3.00-9.00 }{ 800-0 }\right|\\
&=7.50×10^{-3}(mol/(L・s))
\end{align}
\]

(2)『STEP2』

速度式(平均の速さ)を用いて反応速度定数(K)を求める
\[
\overline{ V }=K・[\overline{ A }]\\
7.50×10^{-3}=K・\frac{ 9.00+3.00 }{ 2 }\\
K=1.25×10^{-3}(/s)
\]

(3)『STEP3』

速度式(瞬間の速さ)を用いて瞬間の速さを求める
\[
\begin{align}
V&=K・[A]\\
&=1.25×10^{-3}×2.00\\
&=2.50×10^{-3}(mol/(L・s))
\end{align}
\]

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著者プロフィール

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター

数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

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