リンの単体と化合物の性質・製法

目次

はじめに

【プロ講師解説】このページでは『リンの単体と化合物の性質・製法』について解説しています。


リンの単体

  • リンは自然界に単体としては存在せず、地殻中においてリン酸カルシウムなどのリン酸塩として存在する。
  • リン鉱石(主成分:リン酸カルシウムCa3(PO4)2)に、ケイ砂やコークスを混ぜて強熱し、発生した蒸気を水中で凝縮させると、黄リンP4が得られる。

\[ \mathrm{2Ca_{2}(PO_{4})_{2}+6SiO_{2}+10C→6CaSiO_{3}+10CO+P_{4}} \]

  • 真空状態で窒素とともに黄リンを加熱すると、赤リンPが得られる。
スクロールできます
単体名化学式毒性においCS2への溶解性性質
黄リンP4正四面体黄色ありニンニク臭溶ける・自然発火する(水中に保存)
・真空中で加熱すると赤リンに
・湿った空気中で黄色く発光する(リン光
赤リンP無定形赤色なし無臭溶けない・マッチの箱の横に付いているヤツ

黄リン

  • 黄リンを空気中で放置すると、突然火がつく場合がある(自然発火)ため、水中に保存する。(水中では空気に直接触れないため自然発火は起こらない)
  • 黄リンは毒性をもつ。またニンニク臭がする。
  • 黄リンは比較的小さな無極性分子であり、二硫化炭素CS2などの無極性溶媒によく溶ける。

参考:極性溶媒と無極性溶媒

  • 黄リンを一定条件下(200℃、1.2×109Pa)で長時間加熱すると、黒リンが生じる。

赤リン

  • 赤リンは、マッチの箱の横に付いていて、マッチに火を点けるときに使う。日常で使われているものなので、当然無毒で自然発火もしない。

黒リン

  • 黒リンは黒灰色の金属光沢をもつ規則的な配列をした結晶である。

イラスト

  • 黒リンは半導体としての性質をもつ。
  • 黒リンは二硫化炭素CS2に溶けない。

十酸化四リン

  • リンを空気中で燃焼させると、白色粉末の酸化物が生成する。これを十酸化四リンP4O10という。

\[ \mathrm{4P+5O_{2}→P_{4}O_{10} }\]

  • 実在する分子の分子量測定より十酸化四リンP4O10と表現されるが、組成式を用いて五酸化二リンP2O5とよばれることもある。

構造

  • P4O10の構造は次の通りである。

画像

  • リンP原子が正四面体の頂点方向に位置し、それらを酸素O原子がつないでいる。また、P原子の非共有電子対にはO原子が1つずつ配位結合している。

画像

乾燥剤としてのはたらき

  • P4O10は吸湿性・潮解性が極めて高く、酸性の乾燥剤として用いられる。

参考:【乾燥剤】酸性・中性・塩基性の乾燥剤一覧や分類・仕組みなど


リン酸H3PO4

  • 十酸化四リンP4O10に水を加えて加熱するとリン酸H3PO4が生じる。

\[ \mathrm{P_{4}O_{10} + 6H_{2}O \overset{加熱}{→} 4H_{3}PO_{4}} \]

  • H3PO4は無色の結晶である。
  • H3PO4は潮解性があり、水によく溶ける。
  • H3PO4を水に溶かしてできる水溶液は、弱酸性を示す。

参考:強酸・弱酸・強塩基・弱塩基(違い・覚え方・一覧など)

  • H3PO4は次のような3段階電離を示す。

\[ \mathrm{H_{3}PO_{4}⇄H^{+}+H_{2}PO_{4}^{-}}\\
\mathrm{H_{2}PO_{4}^{-}⇄H^{+}+HPO_{4}^{2-}}\\
\mathrm{HPO_{4}^{2-}⇄H^{+}+PO_{4}^{3-}} \]

NaH2PO4水溶液が弱酸性、 Na2HPO4水溶液が弱塩基性を示す理由

NaH2PO4水溶液の液性

  • リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は電離することでH2PO4を生じる。

\[ \mathrm{NaH_{2}PO_{4}→ Na^{+}+H_{2}PO_{4}^{-}} \]

  • H2PO4はさらに電離してHを放出する。したがって、NaH2PO4水溶液は弱酸性を示す。

\[ \mathrm{H_{2}PO_{4}^{-}→H^{+} + HPO_{4}^{2-}} \]

Na2HPO4水溶液の液性

  • リン酸水素二ナトリウム Na2HPO4は電離することでHPO42-を生じる。

\[ \mathrm{Na_{2}HPO_{4}→2Na^{+} + HPO_{4}^{2-}} \]

  • HPO42-はさらに電離してHを放出するようにみえる。

\[ \mathrm{HPO_{4}^{2-}→H^{+} +  PO_{4}^{2-} }\]

  • しかし実際のところ、この反応よりも次のような逆反応が起こりやすい。

\[ \mathrm{H_{2}PO_{4}^{-}←H^{+} +  HPO_{4}^{2-}} \]

  • したがって、Na2HPO4水溶液は弱塩基性を示す。

リンを含む塩

  • リンを含む塩には次のようなものがある。
リン酸イオン PO43ーリン酸水素イオン HPO42ーリン酸二水素イオン H2PO4
リン酸カルシウム Ca3(PO4)2リン酸水素カルシウム CaHPO4リン酸二水素カルシウム Ca(H2PO4)2

過リン酸石灰

  • リン酸カルシウムCa3(PO4)2は骨や歯の主成分である。
  • 水に溶けにくいリン酸カルシウムCa3(PO4)2を硫酸H2SO4とともに加熱すると、水溶性のリン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2と硫酸カルシウムの混合物(過リン酸石灰)が生じる。

\[ \mathrm{Ca_{3}(PO_{4})_{2} + 2H_{2}SO_{4} → Ca(H_{2}PO_{4})_{2} + 2CaSO_{4}} \]

  • 過リン酸石灰は肥料として用いられる。

重過リン酸石灰

  • リン酸カルシウムCa3(PO4)2をリン酸H3PO4とともに加熱すると、リン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2(重過リン酸石灰)が生じる。

\[ \mathrm{Ca_{3}(PO_{4})_{2} + 4H_{3}PO_{4} → 3Ca(H_{2}PO_{4})_{2} }\]

  • 一般に、重過リン酸石灰は過リン酸石灰と比べて肥料効果が高い。

演習問題

問1

リン鉱石(主成分:リン酸カルシウムCa3(PO4)2)に、ケイ砂やコークスを混ぜて強熱し、発生した蒸気を水中で凝縮させると、【1】が得られる。

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解答:【1】黄リンP4

リンは自然界に単体としては存在せず、地殻中においてリン酸カルシウムなどのリン酸塩として存在する。

リン鉱石(主成分:リン酸カルシウムCa3(PO4)2)に、ケイ砂やコークスを混ぜて強熱し、発生した蒸気を水中で凝縮させると、黄リンP4が得られる。

\[ \mathrm{2Ca_{2}(PO_{4})_{2}+6SiO_{2}+10C→6CaSiO_{3}+10CO+P_{4}} \]

問2

真空状態で窒素とともに黄リンを加熱すると、【1】が得られる。

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解答:【1】赤リンP

真空状態で窒素とともに黄リンを加熱すると、赤リンPが得られる。

問3

黄リンと赤リンのうち、自然発火するのは【1】である。

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解答:【1】黄リン

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単体名化学式毒性においCS2への溶解性性質
黄リンP4正四面体黄色ありニンニク臭溶ける・自然発火する(水中に保存)
・真空中で加熱すると赤リンに
・湿った空気中で黄色く発光する(リン光
赤リンP無定形赤色なし無臭溶けない・マッチの箱の横に付いているヤツ
問4

黄リンと赤リンのうち、二硫化炭素CS2に溶けるのは【1】である。

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解答:【1】黄リン

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単体名化学式毒性においCS2への溶解性性質
黄リンP4正四面体黄色ありニンニク臭溶ける・自然発火する(水中に保存)
・真空中で加熱すると赤リンに
・湿った空気中で黄色く発光する(リン光
赤リンP無定形赤色なし無臭溶けない・マッチの箱の横に付いているヤツ
問5

黄リンを【1】中で加熱すると赤リンになる。

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解答:【1】真空

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単体名化学式毒性においCS2への溶解性性質
黄リンP4正四面体黄色ありニンニク臭溶ける・自然発火する(水中に保存)
・真空中で加熱すると赤リンに
・湿った空気中で黄色く発光する(リン光
赤リンP無定形赤色なし無臭溶けない・マッチの箱の横に付いているヤツ
問6

リンを空気中で燃焼させると、白色粉末の酸化物が生成する。これを【1】という。

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解答:【1】十酸化四リンP4O10

リンを空気中で燃焼させると、白色粉末の酸化物が生成する。これを十酸化四リンP4O10という。

\[ \mathrm{4P+5O_{2}→P_{4}O_{10}} \]

実在する分子の分子量測定より十酸化四リンP4O10と表現されるが、組成式を用いて五酸化二リンP2O5とよばれることもある。

問7

十酸化四リンP4O10に水を加えて加熱すると【1】が生じる。

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解答:【1】リン酸H3PO4

十酸化四リンP4O10に水を加えて加熱するとリン酸H3PO4が生じる。

\[ \mathrm{P_{4}O_{10} + 6H_{2}O \overset{加熱}{→} 4H_{3}PO_{4} }\]

問8

水に溶けにくいリン酸カルシウムCa3(PO4)2を硫酸H2SO4とともに加熱すると、水溶性のリン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2と硫酸カルシウムの混合物(【1】)が生じる。

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解答:【1】過リン酸石灰

水に溶けにくいリン酸カルシウムCa3(PO4)2を硫酸H2SO4とともに加熱すると、水溶性のリン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2と硫酸カルシウムの混合物(過リン酸石灰)が生じる。

\[ \mathrm{Ca_{3}(PO_{4})_{2} + 2H_{2}SO_{4} → Ca(H_{2}PO_{4})_{2} + 2CaSO_{4} }\]

過リン酸石灰は肥料として用いられる。

問9

リン酸カルシウムCa3(PO4)2をリン酸H3PO4とともに加熱すると、リン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2【1】)が生じる。

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解答:【1】重過リン酸石灰

リン酸カルシウムCa3(PO4)2をリン酸H3PO4とともに加熱すると、リン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2(重過リン酸石灰)が生じる。

\[ \mathrm{Ca_{3}(PO_{4})_{2} + 4H_{3}PO_{4} → 3Ca(H_{2}PO_{4})_{2}} \]

一般に、重過リン酸石灰は過リン酸石灰と比べて肥料効果が高い。

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著者情報

元講師、薬剤師、イラストレーター
数百名の中高生向け指導経験あり(過去生徒合格実績:東工大・東北大・筑波大・千葉大・岡山大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)。
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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