【プロ講師解説】このページでは『化学結合の単元で出てくる各種結合によって生じる「結晶」の構成粒子や引力、融点、その他性質など』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。

復習:化学結合に関して

共有結合

原子間で共有電子対を形成してそれを共有することでできる結合


イオン結合

陽イオンと陰イオンの間に働く静電引力(クーロン力)によってイオン同士が結びつくことでできる結合


金属結合

金属陽イオン間を金属原子の価電子の一部である自由電子が動き回ることで形成される結合
Point!

物質は原子・分子・イオンなどの”粒子”が結びつくことによってできている。これらの粒子の結びつきを総称して化学結合という。

代表的な化学結合としては共有結合イオン結合金属結合などがあり、構成元素の種類によっていずれかの結合が形成される。

金属元素はいずれも電気陰性度が小さく、電子を引き付ける力が弱い。したがって、金属結合において共有電子対はどの原子のものにもならず自由に行動し(この電子を自由電子という)、全ての金属陽イオンによって共有される。そのため、金属元素同士の結合は金属結合となる。

非金属元素は電気陰性度が大きく、電子を強く引きつけているため、共有電子対は原子間で動きづらくなっている。このため、非金属元素同士の結合は共有結合となる。

金属元素と非金属元素の結合においては、電気陰性度は非金属元素の方が金属元素よりも大きいので、共有電子対は非金属元素の方に引っ張られる状態になる。そして、電荷が大きく偏った結果、金属元素は電子を取られて陽イオンに、非金属元素は電子を奪って陰イオンになる。このため、金属元素と非金属元素間の結合はイオン結合になる。

金属結晶

・熱/電気伝導性がある
・展性/延性がある
・金属光沢がある
Point!

金属結合により多数の金属陽イオンが規則正しく配列した結晶を金属結晶という。ちなみに、構成粒子が規則正しく配列している固体が結晶であり、構成粒子の配列に規則性のない固体は非晶質(アモルファス)という。

金属結晶は自由電子に由来する上記の性質をもっている。

金属中を自由電子が移動することで電気や熱のエネルギーが伝えられるので、金属は電気や熱をよく通す。また、熱をよく通す金属は電気も同様によく通す。

(Agの電気・熱伝導性を100とした時の値)

金属は、たたいたり延ばしたりしても簡単には切れない。

これは自由電子が陽イオンの位置に合わせて移動して結合を保とうとするためである。

自由電子は光を反射する。

この性質により、結果として金属は光沢をもっているように見える。

イオン結晶

・水に溶けてイオンになる
・固体は電気を通さないが液体(融解液・水溶液)は電気を通す
・硬いがもろい
Point!

多数の陽イオンと陰イオンがイオン結合によって規則正しく配列した結晶をイオン結晶という。

イオン結晶には上のような特徴がある。

イオン結晶の物質は水に溶けてイオンになる。このように、物質がイオンに分かれることを電離といい、水に溶けて電離する物質を電解質という。一方、スクロースのように水に溶けても電離しない物質を非電解質という。ちなみに、イオン結晶の物質はほとんどが電解質である。※塩化銀AgCl、硫酸バリウムBaSO4、炭酸カルシウムCaCO3など、沈殿を形成し易いものはイオン結晶であっても電離しない。

固体の状態ではイオン同士がイオン結合で結びつき、動くことができないため、電気を通さない。しかし、水に溶かして水溶液にしたり、融点まで加熱して融解液にしたりすると、イオンが自由に動くことができるようになるため、電気を通す。

陽イオンと陰イオンは強く引き合うため、イオン結合は比較的強い結合である。したがって、イオン結晶は融点が高く、硬いという性質をもっている。しかし、外部から力が加わると陽イオンと陰イオンの配列がずれて同符号のイオンが接近、反発し合うので簡単に割れる。(もろい)

分子

共有結合によってできる小さい集まりを分子という。分子のうち、塩素Cl2のように2つの原子からなる分子を二原子分子、二酸化炭素CO2のように3つ以上の原子からなる分子を多原子分子という。希ガスは安定した電子配置をもち他の原子と結合しないため1つの原子のままで分子として扱い、これを単原子分子という。又、分子を構成する原子の数と種類を表した式は分子式と呼ばれる。

分子結晶

・融点が低い
・電気伝導性なし
・昇華性(固体↔︎気体変化を起こす性質)がある
・柔らかい(外力により壊れる)
Point!

ドライアイスCO2・ヨウ素I2・氷H2Oなど、多数の分子が分子間力によって引き合って、規則正しく配列してできた結晶を分子結晶という。

分子結晶には上のような特徴がある。

電気伝導性がないのは分子は電気的に中性だからである。余った電子がないので電気を伝えることはほぼない。

また、融点が低い・昇華性がある・柔らかいの3つの性質は分子結晶が分子間力によって成り立つ結合であることが原因である。分子間力はその他化学結合(共有結合イオン結合金属結合 etc)と比べて非常に弱い力なので簡単に切れてしまう。したがって、状態変化を起こしやすく、形状も変わりやすい。

共有結合結晶

・電気伝導性がない ※黒鉛は例外
・融点が高い
・非常に硬い
・水に溶けにくい
Point!

炭素Cやケイ素Siは原子価が4(=最大)のため、多数の原子が共有結合だけで結びついて大きな結晶を作ることができる。このように、多数の原子が共有結合によって繋がってできた結晶を共有結合結晶という。この結晶は1つの“巨大分子”とみなすことができる。

共有結合は非常に強い結合なので、共有結合のみでできている結晶は上のような性質をもつ。

例外として書かれている黒鉛Cは、炭素原子がもつ4コの価電子のうち3コのみを使って隣り合う炭素原子の価電子と共有結合し、正六角形の構造が繰り返された平面層状構造を作っている。
また、この平面層状構造同士が分子間力(後に記載)によって緩く結合している。
したがって、黒鉛は比較的柔らかく、また層の部分から薄く剥がれやすい。
また、(伝導に必要な価電子が1つ残っているので)電気伝導性があり、(光を遮る価電子が1つ残っているので可視光は一部しか透過せず)色は黒色である。

結晶の分類まとめ

共有結合結晶 イオン結晶 金属結晶 分子結晶
構成粒子 原子 陽イオン・陰イオン 金属原子(陽イオン+自由電子) 分子
結合 共有結合 イオン結合 金属結合 分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)
電気伝導性 なし なし あり なし
融点 かなり高い 高い 高い 低い
硬さ かなり硬い 硬い 展性・延性あり※3 柔らかい

化学結合の強さは共有結合>イオン結合>金属結合>分子間力による結合(水素結合・ファンデルワールス力)である。
原子がもつ電子を使って直接つながっている共有結合は最も強い結合で、陽イオンと陰イオンの間の引力(クーロン力)によって形成されるイオン結合は、二番目に強い結合。
金属結合は、飛び回ってる自由電子による結合であまり強くはない。分子間力は基本的にかなり弱いが、その中でもファンデルワールス力はダントツで弱い。

融点とは固体が液体に変わるときの温度である。固体を液体に変えるには結合を切ってバラバラにしなければならない。結合は温度が高くなったときに切れる。ということはつまり、結合が強くて切りづらいほどその結晶の融点は高くなると考えることができる。
したがって、結晶の融点の高さの順は結合の強さの順と同じ並び(共有結合結晶>イオン結晶>金属結晶>分子結晶)になる。

化学結晶に関する演習問題

問1

【】に当てはまる用語を答えよ。

共有結合によってできた結晶を【1】、イオン結合によってできた結晶を【2】、金属結合によってできた結晶を【3】、分子間力によってできた結晶を【4】という。

問2

【】に当てはまる用語を答えよ。

共有結合・イオン結合・金属結合・分子間力による結合は全て同じ強さではない。原子がもつ電子を使って直接つながっている【1】は最も強い結合で、陽イオンと陰イオンの間の引力(クーロン力)によって形成される【2】は、二番目に強い結合。【3】は、飛び回ってる自由電子による結合であまり強くはない。【4】は基本的にかなり弱いが、その中でも【5】はダントツで弱い。

【問2】解答/解説:タップで表示
解答:【1】共有結合【2】イオン結合【3】金属結合【4】分子間力【5】ファンデルワールス力
共有結合結晶 イオン結晶 金属結晶 分子結晶
構成粒子 原子 陽イオン・陰イオン 金属原子(陽イオン+自由電子) 分子
結合 共有結合 イオン結合 金属結合 分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)
電気伝導性 なし なし あり なし
融点 かなり高い 高い 高い 低い
硬さ かなり硬い 硬い 展性・延性あり※3 柔らかい

化学結合の強さは共有結合>イオン結合>金属結合>分子間力による結合(水素結合・ファンデルワールス力)である。
原子がもつ電子を使って直接つながっている共有結合は最も強い結合で、陽イオンと陰イオンの間の引力(クーロン力)によって形成されるイオン結合は、二番目に強い結合。
金属結合は、飛び回ってる自由電子による結合であまり強くはない。分子間力は基本的にかなり弱いが、その中でもファンデルワールス力はダントツで弱い。

問3

【】に当てはまる用語を答えよ。

【1】とは固体が液体に変わるときの温度である。固体を液体に変えるには、結合を切ってバラバラにしなければならない。結合は温度が高くなったときに切れる。ということはつまり、結合が強くて切りづらいほど融点は【2(高or低)】くなると考えることができる。したがって、融点の高さの順は結合の強さの順と同じ並びになる。

【問3】解答/解説:タップで表示
解答:【1】融点【2】高

融点とは固体が液体に変わるときの温度である。固体を液体に変えるには結合を切ってバラバラにしなければならない。結合は温度が高くなったときに切れる。ということはつまり、結合が強くて切りづらいほどその結晶の融点は高くなると考えることができる。
したがって、結晶の融点の高さの順は結合の強さの順と同じ並び(共有結合結晶>イオン結晶>金属結晶>分子結晶)になる。

問4

【】に当てはまる用語を答えよ。

共有結合結晶 イオン結晶 金属結晶 分子結晶
構成粒子 【1】 【2】・【3】 【4】(【5】+【6】) 【7】
結合 【8】 【9】 【10】 【11】(【12】・【13】)
電気伝導性 【14(ありorなし)】 【15(ありorなし)】 【16(ありorなし)】 【17(ありorなし)】
融点 かなり高い 高い 高い 【18(高いor低い)】
硬さ かなり硬い 【19(硬いor柔らかい)】 展性・延性あり 【20(硬いor柔らかい)】
【問4】解答/解説:タップで表示
解答:以下参照
共有結合結晶 イオン結晶 金属結晶 分子結晶
構成粒子 原子 陽イオン・陰イオン 金属原子(陽イオン+自由電子) 分子
結合 共有結合 イオン結合 金属結合 分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)
電気伝導性 なし なし あり なし
融点 かなり高い 高い 高い 低い
硬さ かなり硬い 硬い 展性・延性あり※3 柔らかい

※1例外として黒鉛(グラファイト)があげられる。
※2例外として「液体」があげられる。液体にすると電気を通せるようになる。
※3展性や延性については小学校・中学校で習ってきているだろう。
展性は、圧力などによって、破壊されることなく薄く箔状に広がる性質(例:金箔)
延性は、引っ張られると細く長くのびる性質(例:銅線)

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著者プロフィール

・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター

数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆

著者紹介詳細