【プロ講師解説】このページでは『ダニエル電池(仕組みや各極での反応、ボルタ電池との違い、素焼き板の役割、起電力を上げるためのポイントなど)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
ダニエル電池とは
ダニエル電池とは、亜鉛Zn板(負極)を浸した硫酸亜鉛ZnSO4水溶液と、銅Cu板を浸した硫酸銅(Ⅱ)CuSO4水溶液を、素焼き板(セロハンでも可)で仕切った電池である。
ダニエル電池は、イギリス人であるダニエルが1836年に考案した電池が原形になっており、ボルタ電池の欠点を改善することによって作られた、世界初の実用的な電池である。ダニエル電池の起電力は約1.1Vである。
※ボルタ電池について詳しくはボルタ電池(仕組み・各極の反応・分極の理由など)を参照
ダニエル電池の電池式
上述の通り、ダニエル電池とは、亜鉛Zn板(負極)を浸した硫酸亜鉛ZnSO4水溶液と、銅Cu板を浸した硫酸銅(Ⅱ)CuSO4水溶液を、素焼き板で仕切った電池である。
これを踏まえて、ダニエル電池の電池式は次のように表すことができる。
(-)Zn|ZnSO_{4}aq|CuSO_{4}aq|Cu(+)
\]
ダニエル電池の仕組み
STEP1 | イオン化傾向の大きい金属板が溶ける |
STEP2 | STEP1で発生した電子e–がもう片方の金属板の方へ流れる |
STEP3 | 流れてきたe–が(溶液中の)イオン化傾向の小さい陽イオンとくっつく |
まずは、電池の仕組み(イオン化傾向との関わり・正極と負極・電子と電流の向き)で紹介した3STEPを使って、ダニエル電池の仕組みについて解説していく。
STEP1
まずは、イオン化傾向の大きい金属板が溶ける。(詳しくはイオン化傾向(覚え方・定義・金属板の反応のしやすさ)を参照)
ダニエル電池に使われている金属板はCuとZnであり、これらのうちイオン化傾向がより高いのはZnである。したがって、Zn板が溶け出す。
また、ZnがZn2+という陽イオンになったので、電子e–が発生していることも確認しておこう。
STEP2
STEP1で発生した電子e–がCu板側に伝わる。
このとき、電子e–が通過することで(電流が発生して)豆電球が点灯していることに注目しよう。
STEP3
最後に、Cu板に流れてきた電子がCuSO4中に存在しているCu2+とくっつく。(=単体のCuが析出)
各極の反応
ダニエル電池の負極・正極での反応をそれぞれまとめておこう。
負極
ダニエル電池の負極では、Zn板が溶け出してZn2+とe–が発生する。
Zn→Zn^{2+}+2e^{-}
\]
正極
ダニエル電池の正極では、CuSO4中に存在しているCu2+がe–を受け取ることで単体のCuが析出する。
Cu^{2+}+2e^{-}→Cu
\]
ボルタ電池との違い
ボルタ電池 | e–を受け取るのはH+ |
ダニエル電池 | e–を受け取るのはCu2+ |
ボルタ電池とダニエル電池では、Zn板からCu板に向かって流れたeーを受け取る陽イオンが異なる。
ボルタ電池では、H+がe–を受け取ってH2になる。(ボルタ電池について詳しくはボルタ電池(仕組み・各極の反応・分極の理由など)を参照)
ボルタ電池が分極を起こすのは、このH2がCu板の表面に溜まることで、次のH+がe–を受け取りづらくなってしまうためである。
一方、ダニエル電池では、Zn板からe–が流れてくると、Cu2+がこれを受け取って単体のCuとなる。
生成する物質(Cu)が電極と一緒なので、くっついたところでなにも変化が起きていないのと同じ。
よって、分極が起こる心配はなく、継続的に電気を得ることができる。
素焼き版の役割
役割1 | 2つの溶液を混ぜない |
役割2 | 電荷のバランスを保つ |
ダニエル電池において、素焼き板は2つの重要な役割を担っている。
素焼き板の役割①
素焼き板の1つ目の役割は「2つの溶液(ZnSO4とCuSO4)が混ざるのを防ぐ」というもの。
素焼き板はZnSO4とCuSO4を隔てる役割を果たしている。
素焼き板の役割②
素焼き板の2つ目の役割は「イオンを透過させることで、電荷のバランスを調整する」というもの。
ダニエル電池を使い続けていると、負極では次第にZn2+が、正極ではSO42-が増加していく。(正極でSO42-が増えるのは、CUSO4から電離したCu2+がCuになることで、相方のSO42-が余ってしまうため)
このとき、陽イオンが増えた負極はプラス側に、陰イオンが増えた正極はマイナス側に電荷が偏っている。この「電荷の偏り」を調整するのが素焼き板である。
素焼き板はイオンを通す性質をもつので、Zn2+が素焼き板を通って正極側に、SO42-が負極側に移動する。これによって、電気的なバランスが整えられる。
より大きな起電力を得るために
NO.1 | ZnSO4の濃度を薄くしておく |
NO.2 | CuSO4の濃度を濃くしておく |
ダニエル電池において、より大きな起電力を得るためには2つの重要なポイントがある。
起電力UPのポイント①
1つ目のポイントは「ZnSO4の濃度を低くしておく」ということである。
はじめから溶液中にZn2+がたくさんあると、(溶けて生成するZn2+の居場所がないため)Zn板が溶解しづらくなってしまう。
したがって、より大きい起電力を得るためには「スタート時のZnSO4の濃度を低くしておきZn板をスムーズに溶解させる」ことが重要になる。
起電力UPのポイント②
2つ目のポイントは「CuSO4の濃度を高くしておく」ということである。
正極では、Cu2+がeーを受け取り単体のCuとなる。
したがって、スタート時に溶液中のCu2+が少ないと、はやい段階でCu2+を使い切ってしまう。
Cu2+濃度が高ければ高いほど、たくさんのe–を受け取ることができる。
ダニエル電池に関する演習問題
問1
ボルタ電池の起電力は約【1】であったが、【2】が起こるため起電力はすぐに低下した。そこで開発されたのがダニエル電池である。
ダニエル電池では、亜鉛板を浸したZnSO4水溶液と銅板を浸したCuSO4水溶液を【3】で区切り、これにより【2】を防ぐことに成功した。
問2
ダニエル電池は、負極である【1】板をZnSO4水溶液に、正極である【2】板をCuSO4水溶液に浸し、各溶液を【3】で区切って作られた電池である。
問3
ダニエル電池において金属板として使われる亜鉛と銅のイオン化傾向を比較すると、【1】の方が大きい。
したがって、まず【1】板が溶け出し【2】となる。このとき発生した【3】が【4】板に到達すると、溶液中に含まれるCu2+がこれを受け取り【5】となる。
問4
問5
ダニエル電池の正極では、負極から流れてきた電子を【1】が受け取り【2】となり正極である銅板にはりつく。
したがって、放電を続けると正極の質量は【3(増加or減少)】し、負極の質量は【4(増加or減少)】する。
問6
ダニエル電池における素焼き板の役割は主に2つある。
1つは【1】と【2】の2つの溶液を混ざらないように区切るためである。
もう一つは、イオンを透過させることで、【3】のバランスを調整するというものである。ダニエル電池を使い続けていると、負極では次第に【4】が、正極では【5】
が増加していく。このとき、陽イオンが増えた負極はプラス側に、陰イオンが増えた正極はマイナス側に電荷が偏るのでこれを素焼き板で調節する。
問7
ダニエル電池でより大きな起電力を得るためには、【1】の濃度を低くしておく、又【2】の濃度を高くしておくことが重要である。
関連:計算ドリル、作りました。
化学のグルメオリジナル計算問題集「理論化学ドリルシリーズ」を作成しました!モル計算や濃度計算、反応速度計算など入試頻出の計算問題を一通りマスターできるシリーズとなっています。詳細は【公式】理論化学ドリルシリーズにて!


・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細