【プロ講師解説】このページでは『ダニエル電池(仕組みや各極での反応、ボルタ電池との違い、素焼き板の役割、起電力を上げるためのポイントなど)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
Recipes
ダニエル電池とは
ダニエル電池は、ボルタ電池の欠点を改善することによって作られた、世界初の実用的な電池である。
電極にはZnとCu、電極を入れる溶液にはZnSO4とCuSO4が使われている。
ボルタ電池との違いを意識しながら学習していこう。
ダニエル電池の仕組み
STEP1 | イオン化傾向の大きい金属板が溶ける |
STEP2 | STEP1で発生した電子(e-)がもう片方の金属板の方へ流れる |
STEP3 | 流れてきたe-が(溶液中の)イオン化傾向の小さい陽イオンとくっつく |
まずは、電池の仕組みを解説!〜イオン化傾向との関わり・正極と負極・電子と電流の向き〜で説明した3STEPを使ってダニエル電池の仕組みについて説明していこう。
STEP1
まずは、イオン化傾向の大きい金属板が溶ける。
CuとZnではZnの方がイオン化傾向が高い。したがってこの場合Zn板が溶け出す。
また、ZnがZn2+という陽イオンになったので、eーが発生していることも確認しておこう。
STEP2
次に、STEP1で発生したeーがCu板側に伝わる。
このとき、電子が通過することで(電流が発生して)豆電球が点灯していることに注目しよう。
STEP3
最後に、Cu板に流れてきた電子がCuSO4中に存在しているCu2+とくっつく。(=単体のCuが析出)
各極の反応
負極・正極での反応をそれぞれまとめておこう。
負極
負極では、Zn板が溶け出してZn2+と2つのeーができる。
Zn→Zn^{2+}+2e^{-}
\]
正極
正極では、CuSO4中に存在しているCu2+がeーを受け取ることで単体のCuが析出する。
Cu^{2+}+2e^{-}→Cu
\]
ボルタ電池との違い
ボルタ電池 | e–を受け取るのはH+ |
ダニエル電池 | e–を受け取るのはCu2+ |
ボルタ電池とダニエル電池では、Zn板からCu板に向かって流れたeーを受け取る陽イオンが異なる。
ボルタ電池では、H+がeーを受け取ってH2になるんだったね。(ボルタ電池に関して詳しいことは「ボルタ電池」を参照)
ボルタ電池が分極を起こすのは、このH2がCu板の表面に溜まることで次のH+がe–を受け取りづらくなってしまうからだった。
一方、ダニエル電池では、Zn板からeーが流れてくると、Cu2+がこれを受け取って単体のCuとなる。
生成する物質(Cu)が電極と一緒なので、くっついたところでなにも変化が起きていないのと同じだよね。よって、分極が起こる心配はなく継続的に電気を得ることができるわけだ。
素焼き版の役割
役割1 | 2つの溶液を混ぜない |
役割2 | 電荷のバランスを保つ |
ダニエル電池において、素焼き板は2つの重要な役割を担っている。順番に説明していこう。
素焼き板の役割①
素焼き板の1つ目の役割は「2つの溶液(ZnSO4とCuSO4)が混ざるのを防ぐ」というもの。まあこれは、見れば分かるね。(笑)
素焼き板の役割②
素焼き板の2つ目の役割は「イオンを透過させることで、電荷のバランスを調整する」というもの。
ダニエル電池を使い続けていると、負極では次第にZn2+が、正極ではSO42ーが増加していく。(正極でSO42ーが増えるのは、CUSO4から電離したCu2+がCuになることで、相方のSO42ーが余ってしまうから)
このとき、陽イオンが増えた負極はプラス側に、陰イオンが増えた正極はマイナス側に電荷が偏っている。この「電荷のかたより」を調整するのが素焼き板だ。
素焼き板はイオンを通す性質をもつので、Zn2+が素焼き板を通って正極側に、SO42ーが負極側に移動する。これによって、電気的なバランスが整えられる。
より大きな起電力を得るために
NO.1 | ZnSO4の濃度を薄くしておく |
NO.2 | CuSO4の濃度を濃くしておく |
ダニエル電池において、より大きな起電力を得るためには2つの重要なポイントがある。
起電力UPのポイント①
1つ目のポイントは「ZnSO4の濃度を低くしておく」ということである。
はじめから溶液中にZn2+がたくさんあると、(溶けて生成するZn2+の居場所がないため)Zn板が溶解しづらくなってしまう。
したがって、より大きい起電力を得るためには「スタート時のZnSO4の濃度を低くしておきZn板をスムーズに溶解させる」ことが重要になる。
起電力UPのポイント②
2つ目のポイントは「CuSO4の濃度を高くしておく」ということである。
正極では、Cu2+がeーを受け取り単体のCuとなる。したがって、スタート時に溶液中のCu2+が少ないと、はやい段階でCu2+を使い切ってしまう。
Cu2+濃度が高ければ高いほど、たくさんのeーを受け取ることができるんだね。
問題演習
問題
(2)素焼き板の役割を2つ挙げなさい。
(3)反応を起こすと、SO42-は何極から何極へ移動するか。
(4)ダニエル電池でより大きな起電力を得るためには、初期のZnSO4、CuSO4濃度をそれぞれどうしておくべきか。
解答
負極:Zn→Zn2++2e–
(2)
・2つの電解液(ZnSO4とCuSO4)を混ぜない。
・2つの電解液の電荷のバランスを調節する。
(3)正極から負極
(4)
・ZnSO4の初期濃度を小さくしておく。
・CuSO4の初期濃度を大きくしておく。
解説
- (1)
- 正極:Cu2++2e–→Cu
負極:Zn→Zn2++2e–まずは、イオン化傾向の高いZn板が溶け出す。
これが負極の反応式だね。
次に、Cu板へと伝わってきたe–をCuSO4中のCu2+が受け取って銅が析出する。
- (2)
- 素焼き板の役割は2つあるんだったね。
1つは、正極側のCuSO4と負極側のZnSO4を隔てる役割。
もう1つは、イオンを透過させるという特性を生かし、電荷のかたよりを減少させてバランスを保つ役割。2つ目について少し詳しく。
ダニエル電池の両極での反応が進んでいくと、負極ではZn2+が増加し、正極ではCu2+が減少する。
このとき、負極は(プラスのイオンであるZn2+が増えたので)プラス電荷にかたよっており、正極は(プラスのイオンであるCu2+がいなくなったので)マイナス電荷にかたよっている。
そこで、負極のZn2+は素焼き板を介して正極へと移動し、電荷のバランスを調節するんだ。また、SO42-もイオンなので移動することが出来る。
負極でZn2+が増えることにより、プラスに電荷がかたよってしまっているので、SO42-が正極から負極へと移動をし、このかたよりを軽減している。
- (3)
- (2)で説明したように、SO42-は正極から負極に移動する。
- (4)
- ダニエル電池でより大きな起電力を得るためには、初期のZnSO4を小さく、CuSO4濃度を大きくしておく必要があったね。
前者の理由は、電池の反応が進行するにつれてZn2+の濃度が大きくなってきてしまうから。
Zn2+の濃度が大きくなりすぎるとZn板からZn2+が溶けづらくなってしまう。
これを避けるために、最初のZn2+濃度は出来るだけ小さくしておく。後者の理由は、e–を受け取るCu2+が多い方が、より長時間e–を受け取り続けることができるからだ。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細