【プロ講師解説】このページでは『浸透圧(定義やファントホッフの法則を使った典型的な浸透圧の計算問題の解き方など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
半透膜とは
半透膜とは、小さい物質だけを通し大きい物質は通さない膜である。
浸透圧の単元では基本的に半透膜=溶媒分子だけを通し溶質分子は通さない膜として扱われる。
浸透とは
V字型の容器を半透膜で区切り、片方に水、もう片方にデンプン水溶液を入れる。
これをしばらく放置すると…
水(濃度の低い方)がデンプン水溶液(濃度の高い方)の方に流れ込み濃度差を無くそうとする。このような現象を浸透という。
ちなみに、浸透が起こった結果、水の液面は下がりデンプン水溶液の液面は上がっている。
浸透圧とは
先ほどの図をもう一度見てみよう。
このように“浸透”が起こって左右で液面差ができているとき、
液面が高い方に一定の圧力を加えることで液面差をなくすことができる。このときに加える圧力を浸透圧という。
浸透圧の公式「ファントホッフの法則」



浸透圧を使った計算問題を解く前準備として、上の「ファントホッフの法則」を覚えておこう。
気体の状態方程式の圧力Pが浸透圧πに置き換わったイメージ。
ちなみに右側の式は左の式を変形してモル濃度(n/V)をCと置いたバージョン。浸透圧の計算においてよく使う形なので覚えておこう。
浸透圧の計算問題(基礎)
モル濃度を用いて浸透圧を求める問題
問題
ファントホッフの法則の式(π=CRT)に問題文で与えられている数値を代入すると…
\begin{align} π &= CRT \\
&=0.32×8.3×10^{3}×(27+273) \\
&≒8.0×10^{5}(Pa) \end{align}
\]
質量を用いて浸透圧を求める問題
問題
ファントホッフの法則の式(πV=w/M×RT)に問題文で与えられている数値を代入すると…
πV = \frac{ w }{ M }RT \\
\begin{align} \leftrightarrow π &=\frac{ wRT }{ MV } \\
&=\frac{ 34.2×8.3×10^{3}×(27+273) }{ 342×0.5 } \\
&≒5.0×10^{5}(Pa) \end{align}
\]
電解質の浸透圧を求める問題
問題
ファントホッフの法則の式(πV=nRT)に問題文で与えられている数値を代入すると…
πV = nRT \\
\begin{align} \leftrightarrow π &=\frac{ nRT }{ V } \\
&=\frac{ \frac{ 3.33 }{ 111 }×3×8.3×10^{3}×(27+273) }{ 0.2 } \\
&≒1.1×10^{6}(Pa) \end{align}
\]
nの値(3.33/111)に3を掛けているのは、塩化カルシウムが電解質であり、次のように電離して1molのCaCl2から3molのイオンが生成するためである。
CaCl_{2}→Ca^{2+}+2Cl^{-}
\]
血液のモル濃度を求める問題
問題
ファントホッフの法則の式(π=CRT)に問題文で与えられている数値を代入すると…
π = CRT \\
\begin{align} \leftrightarrow C &=\frac{ π }{ RT } \\
&=\frac{ 7.5×10^{5} }{ 8.3×10^{3}×(37+273) } \\
&≒0.29(mol/L) \end{align}
\]
生食の調製に必要な塩化ナトリウム(g)を求める問題
問題
病院で頻繁に使われる生理食塩水(生食)は、人の血液に近い浸透圧である場合が多い。生食絡みの計算は医療関係の学部でよく出るので、そういった学部を受ける人はしっかりできるようにしておこう。
π、R、Tが一定のとき、ファントホッフの法則の式(π=CRT)より、C=一定となる。
\begin{align}π=CRT\\↔︎C&=\underbrace{ \frac{ π }{ RT } }
_{ \text{ 一定 }}\\
↔︎C_{1}=C_{2}\end{align}
\]
したがって、血液のモル濃度(mol/L)と生理食塩水のモル濃度(mol/L)をイコールで結び式を作ると…
\underbrace{ 0.29(mol/L) }_{ 血液 } =\underbrace{ \frac{ \frac{ x(g) }{ 58.5(g/mol) }×2 }{ 0.5(L) } }_{ 生理食塩水 }\\
\therefore x≒4.2(g)
\]
水銀柱が絡んだ問題-浸透圧の計算問題(応用)
問題
水銀柱が絡んだ浸透圧問題はやや難しいが、一度やり方を覚えてしまえば意外と簡単なのでぜひこの機会に押さえておこう。
まず、Hg柱のおける液面の高さをa(cm)として式を立てる。
\underbrace{1.1(g/cm^{3})×6.5(cm) }_{ 水溶液中の圧力 } =\underbrace{ 13.6(g/cm^{3})×a(cm) }_{ Hg柱の圧力 }\\
\therefore a=\frac{ 7.15 }{ 13.6 }
\]
比の関係を用いて浸透圧πを求める。
1.0×10^{5}(Pa):76(cmHg)=π(Pa):\frac{ 7.15 }{ 13.6 }(cmHg)\\
\therefore π=\frac{ 7.15 }{ 13.6×76 }×10^{5}(Pa)
\]
一問一答
問1
溶液中の特定の成分のみを通す膜を【1】という。
問2
ある物質が半透膜を通過して拡散する現象を【1】という。
問3
溶媒の浸透を防ぐために溶液側にかける圧力を【1】という。
問4
希薄溶液の浸透圧は溶液のモル濃度と温度に比例する。この法則を【1】という。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細