【プロ講師解説】このページでは『燃料電池(リン酸型・アルカリ型の仕組み、原理、各極の反応式など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
燃料電池とは
燃料電池とは、負極に水素などの燃料、正極に空気中の酸素を使い、電気エネルギーを得る電池である。
高校化学で登場する主な燃料電池は「リン酸型燃料電池」と「アルカリ型燃料電池」の2種類である。
リン酸型燃料電池
リン酸型燃料電池とは、リン酸H3PO4水溶液を電解液とする燃料電池である。
リン酸型燃料電池は車両電源や発電用などとして、数多くの種類が開発された。
リン酸型燃料電池の電池式
上述の通り、リン酸型燃料電池とは、リン酸H3PO4水溶液を電解液とする燃料電池である。
これを踏まえて、リン酸型燃料電池の電池式は次のように表すことができる。
(-)H_{2}|H_{3}PO_{4}aq|O_{2}(+)
\]
リン酸型燃料電池の仕組み
STEP1 | 負極で、水素H2が電子e–を離して水素イオンH+となる |
STEP2 | 放出されたe–とH+はそれぞれ正極側に伝わっていく |
STEP3 | 正極で、酸素O2がこれらと反応し水H2Oが生成する |
リン酸型燃料電池の仕組みを、この3STEPに従って解説していく。
STEP1
余ったH2は外に排出される。
STEP2
このとき、電子が通過することで(電流が発生して)豆電球が点灯していることに注目しよう。
STEP3
余ったO2は外に排出される。
各極における反応
リン酸型燃料電池の負極・正極での反応をまとめておこう。
負極
リン酸型燃料電池の負極の反応式は次の通り。
\mathrm{ H_{2} → 2H^{+} + 2e^{-}}
\]
水溶液中のH2がe–を放出してH+となっている。
正極
リン酸型燃料電池の正極の反応式は次の通り。
\mathrm{ O_{2} + 4H^{+} + 4e^{-} → 2H_{2}O }
\]
O2がH+とe–を受け取りH2Oとなる。
全体
リン酸型燃料電池の負極と正極の反応式をまとめて、リン酸型燃料電池全体の反応式を作る。
\begin{array}{rr}
& H_{2} → 2H^{+} + 2e^{-} ×2\\
+\big{)}&O_{2} + 4H^{+} + 4e^{-} → 2H_{2}O\\
\hline
&2H_{2}+O_{2} → 2H_{2}O
\end{array}
\]
これが、リン酸型燃料電池の全体式である。
電子の数を合わせて消すために、負極の式を×2していることに注意しよう。
アルカリ型燃料電池
アルカリ型燃料電池とは、水酸化カリウムKOH水溶液を電解液とする燃料電池である。
アルカリ型燃料電池は、アメリカのアポロ宇宙船に搭載されたことで有名であり、各極の反応が少し複雑なので、負極と正極の反応を別々に確認し、その後まとめることにする。
アルカリ型燃料電池の電池式
上述の通り、アルカリ型燃料電池とは、水酸化カリウムKOH水溶液を電解液とする燃料電池である。
これを踏まえて、アルカリ型燃料電池の電池式は次のように表すことができる。
(-)H_{2}|KOHaq|O_{2}(+)
\]
負極の反応
STEP1 | 負極で、水素H2が電子e–を離して水素イオンH+となる |
STEP2 | 放出されたe–とH+はそれぞれ正極側に伝わっていく |
STEP3 | KOHから電離したOH–がH+と反応し、H2Oが生成する |
まずは、アルカリ型燃料電池の負極で起こる反応を確認していく。
STEP1
余ったH2は外に排出される。
STEP2
このとき、電子が通過することで(電流が発生して)豆電球が点灯していることに注目しよう。
STEP3
ちなみに、アルカリ型燃料電池の負極の反応式は、H2からH+が生成する式である
\mathrm{ H_{2} → 2H^{+} + 2e^{-}}
\]
に、(溶液中に存在している)OH–を足し合わせれば良い。
したがって…
\begin{array}{rr}
& H_{2} → 2H^{+} + 2e^{-} \\
+\big{)}&+ 2OH^{-} + 2OH^{-}\\
\hline
&H_{2}+2OH^{-} → 2H_{2}O + 2e^{-}
\end{array}
\]
これがアルカリ型燃料電池の負極の反応式である。
また、生成したH2Oの一部は排出され、残りは電解液中に残される。
正極の反応
次に、アルカリ型燃料電池の正極で起こる反応を確認していく。
負極から流れてきたe–と上の反応(H2+2OH–→2H2O+2e–)で発生して電解液中に取り残されていたH2Oが、正極から吹き込まれたO2と反応し、結果としてOH–が生成する。
以上のことを踏まえると、アルカリ型燃料電池の正極の反応式は、
\mathrm{ O_{2} + 2H_{2}O + 4e^{-} → 4OH^{-}}
\]
となる。
アルカリ型燃料電池まとめ
上でやってきたことをまとめると、以下のようになる。
「真ん中でサイクルが出来ている」ということがポイント。
正極で使うH2Oを負極が、負極で使うOH–を正極が作り出している。このおかげで、燃料電池は連続的にエネルギーを生み出すことが可能になっている。
最後に、アルカリ型燃料電池の全体式を作っておこう。
上で説明した正極と負極の反応式をまとめると、次のようになる。
\begin{array}{rr}
& H_{2} + 2OH^{-} → 2H_{2}O + 2e^{-} ×2 \\
+\big{)}&O_{2}+2H_{2}O+4e^{-}→4OH^{-}\\
\hline
&2H_{2}+O_{2} → 2H_{2}O
\end{array}
\]
これが、アルカリ型燃料電池の全体式である。
電子の数を合わせて消すために、負極の式を×2していることに注意しよう。
燃料電池に関する演習問題
問1
水素ガスと酸素ガスが反応して水が生成する反応を利用して【1】エネルギーを取り出す装置を【2】という。
問2
燃料電池は水素と酸素の反応を利用して【1】エネルギーを取り出す装置である。
水素と接触する方の極では、水素が電子を出すので【2(正or負)】極であり、【3(酸化or還元)】反応が起こる。
対して、酸素と接触する方の極では、酸素が電子を受け取るので【4(正or負)】極であり、【5(酸化or還元)】反応が起こる。
問3
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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