【プロ講師解説】このページでは『共洗い(中和滴定でビュレットとホールピペットを共洗いする理由や器具の覚え方など)』について解説しています。解説は高校化学・化学基礎を扱うウェブメディア『化学のグルメ』を通じて6年間大学受験に携わるプロの化学講師が執筆します。
共洗いするもの・共洗いしないもの
まずは結論から。中和滴定で共洗いが必要な器具は以下のように暗記する。
共洗いするもの
ホールピペット・ビュレット
共洗いしないもの
メスフラスコ・三角フラスコ
実験器具名の中に「ト」が付いているものは共洗いをする。
中和滴定で使う器具の中で「ト」が付いているのは「ホールピペット」と「ビュレット」。この2つは、実験途中で共洗いの作業が必要となる。
これ以降で、中和滴定の流れを説明した後、各実験器具について細かい説明をし、なぜ共洗いが必要・不必要なのかを確認していく。
中和滴定の流れ
STEP1
まずは、標準溶液を調製する。標準溶液とは「あらかじめ濃度が分かっている溶液」のこと。中和滴定では、これを使って濃度が未知の溶液(=試料)の濃度を求めていく。標準溶液を調製するときは、「メスフラスコ」という道具を用いる。
メスフラスコの細くなった先端部分には「標線」という線があり、一定量の化学物質を入れた後にこの線まで水を入れることで、作りたい濃度の溶液を普通のフラスコよりも正確に調製することができる。
STEP2
次は、STEP1で調製した標準溶液を「ホールピペット」を用いて量り、三角フラスコに移動させる。
STEP3
次は、濃度不明の溶液を「ビュレット」に入れる。
ちなみに、ビュレットの目盛りはボコっとなっている液面の一番下の位置を読むということに注意しよう。
STEP4
最後に、ビュレットに入れた濃度未知の溶液を三角フラスコに入った濃度が既に分かっている溶液に滴下し、その量を用いて中和計算を行い、未知の濃度を求めていく。
共洗いをするものとしないもの
共洗いするもの
ホールピペット・ビュレット
共洗いしないもの
メスフラスコ・三角フラスコ
最初に示したように、共洗いをするものと共洗いをしないものの区別は上の通り。
ビュレットとホールピペットは共洗いをするが、メスフラスコや三角フラスコは共洗いはしない。
なぜ共洗いをするものとしないものが存在するのか、その違いや見分け方について器具別に1つずつ解説していこう。
メスフラスコ
メスフラスコは、標準溶液を調製するときに使う。
ポイントは「水」を入れているということ。
結局水を一定量まで入れるなら、最初多少水で濡れていようと関係ない。
したがって、メスフラスコを共洗いする必要はない。
ホールピペット
ホールピペットは、調製した標準溶液を量りとって、三角フラスコに移し取るときに用いる。
標準溶液というのは「濃度が正確に分かっている」溶液。したがって、標準溶液の濃度はホールピペットを使って量りとったあとも一定の値に保たれていなければならない。
なのにも関わらず、もしホールピペットに洗ったときの水滴など”標準溶液以外のもの”が付いていると、せっかく正確に調製した濃度が変わってしまう。
これが理由で、ホールピペットは必ず標準液で共洗いをしてから用いる必要がある。
ビュレット
ビュレットは、濃度不明の溶液を上から滴下する際に用いる道具である。
ビュレットにもし水滴が付いていると、その分溶液の濃度が変化してしまい、結果として濃度計算をするときに値がズレてしまう。
したがって、ビュレットを中和滴定に用いる際は共洗いをして水滴を取り除いておく必要がある。
三角フラスコ
三角フラスコは、ホールピペットで量りとった標準溶液を入れ、ビュレットから落ちてくる濃度未知の溶液を受け止めるために用いるものである。
【公式あり】中和計算を一瞬で解く方法を理由を交えて徹底解説!にあるように、中和の計算式は次の通りだった。


これを見て分かるように、左辺と右辺で比べているのは酸・塩基の「mol」である。
ということはつまり、「mol」の値さえ変わらなければ計算上支障はないと考えることができる。
三角フラスコに多少の水滴が残っていても、標準溶液に含まれている物質の「mol数」自体に変化はないので、三角フラスコは共洗いをせずに用いることができる。
補足:ビュレットを共洗いする理由を詳しく
以下のような質問をよく受けることがある。
「mol数同士を比べるから三角フラスコの共洗いが必要ないなら、ビュレットも共洗いしなくていいんじゃないの?」
これは多くの人が引っかかる部分で、この”ナゾ”故に共洗いをする器具としない器具の区別ができなくなっている場合が多い。
まず、三角フラスコに入っている液が元々どこから来たかを考えてみよう。
三角フラスコに入っているのは「メスフラスコで調製した標準溶液をホールピペットで量り取ってきたもの」である。
つまり、標準溶液はもう既に濃度が分かっている溶液で、それを一定量正確に量り取っているわけなので、「標準溶液のmol数」はもう既に決まった値ということになる。
\text{ ●標準溶液が酸、濃度未知の溶液が塩基だとすると… }\\
\underbrace{ 酸(mol/L) × 酸(L) }
_{ \text{ ここは量り取ってきた時点で一定の値→水があろうと関係ない }}
=
塩基(mol/L) × 塩基(L)
\]
したがって、三角フラスコに水滴が残っていて濃度が変わったとしても「量り取ってきたときのmol」を使えば何の問題もなく計算できる。
これに対して、ビュレットに入っているのは「濃度がまだ分かっていない溶液」である。
\underbrace{ 酸(mol/L) × 酸(L) }
_{ もう既に分かっている値\\(三角フラスコに入っている)}
=
\underbrace{ 塩基(mol/L) }
_{ ここを知りたい \\(ビュレットに入っている) }
×
\underbrace{ 塩基(L) }
_{ \text{ 滴下する量 }}
\]
今から中和滴定をしてこの濃度を求めようとしているのにそれを薄めてしまったら中和滴定によって「薄まった後の濃度」が求まってしまうことになる。
\underbrace{ 酸(mol/L) × 酸(L) }
_{ 標準溶液の方は一定 }
=
\underbrace{ 塩基(mol/L) }
_{ ここが知りたいのに、ここが変わってしまうと… }
× 塩基(L) \\
\ \\
\Downarrow\\
\ \\
\underbrace{ 酸(mol/L) × 酸(L) }
_{ 標準溶液の方は一定 }
=
\underbrace{ 塩基(mol/L) × 塩基(L) }
_{ 勿論滴定はできるが薄まった分の滴下量も増えて結果的に薄まった後の濃度が求まる\\→意味ない! }
\]
求めたい濃度を変えてしまったら何の意味もないので、ビュレットは必ず共洗いが必要となる。
補足:三角フラスコを共洗いしない理由を詳しく
三角フラスコを共洗いするとどうなるのかを考えてみよう。
三角フラスコを共洗いすると、調製した標準溶液を入れる前に少量の標準溶液がフラスコ内に付着している状態になり、「mol数」が変化する。
上で説明したように、中和計算(中和計算については【公式あり】中和計算を一瞬で解く方法を理由を交えて徹底解説!を参照)の式は「mol数」を比べる式なので、mol数が変化すると計算にずれが生じてしまう。したがって、三角フラスコは共洗いをしない。
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・化学のグルメ運営代表
・高校化学講師
・薬剤師
・デザイナー/イラストレーター
数百名の個別指導経験あり(過去生徒合格実績:東京大・京都大・東工大・東北大・筑波大・千葉大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
著者紹介詳細